2024.10.30
大人が遊ばないと子どもは遊べない。戦略デザイナー佐宗邦威×天文物理学者BossB ここでしか生まれないトーク
あそぶって、楽しい。
でも、あそんでばかりいたら、仕事ができないし、お金もどんどんなくなっていく。
明るく、楽しく、健やかに、あそぶように生きたいのに、どうしてこの社会はそれをさせてくれないのでしょう……。
もっとあそばせてー!!!
なんて、みなさんの心の叫びが聞こえてくるようです。
・・・
<わかります(天の声)>
社会のスピードに飲み込まれることなく「あそぶ」ためには主体的な選択が必要。長野にはその選択肢がたくさんある!
そう唱えるのが、今年で3年目を迎えた県主催のトークイベント「シシコツコツ」です。
今年3月に行われた同イベントでは「生きるとあそび」「しぜんと人が集まる」と題したふたつのセッションが開催され、長野にゆかりある4人のゲストが、各々の活動のあり方と「あそび」への思いを語り合いました。
当記事ではその前半「生きるとあそび」に登壇した、戦略デザインファームBIOTOPE代表の佐宗邦威さんと信州大学准教授で天文物理学者のBossBさんのトークセッションを取り上げます。
一見、ほとんど接点がなさそうにも思えるふたり。しかし、セッションを進めていくうちに、ふたりのあり方から共通するキーワードが浮かび上がります。それは「自分」と「視点」。
ふたりにとっての「あそび」とは何か?
聞き手は、今回のテーマの発案者であり、全国の「ローカル」を旅する編集会社Huuuuの徳谷柿次郎が務めました。
- ▼参加者プロフィール
- ゲスト:佐宗邦威/さそう・くにたけ(BIOTOPE代表)
チーフ・ストラテジック・デザイナー/多摩美術大学 特任准教授。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけたのち、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わったのち、独立。B to C消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。『直感と論理をつなぐ思考法』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』『『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』』『じぶん時間を生きる~TRANSITION』著者。多摩美術大学特任准教授。
ゲスト:BossB/ボス・ビー(信州大学准教授/天文物理学者)
永遠の探検家、ハイブリッド、息子二人を宇宙よりも愛する母、愛、自由、宇宙思考で皆が輝ける社会を創るために発信を続けるインフルエンサー、Peace/アメリカのコロンビア大学博士課程終了後(天文物理学)、カリフォルニア大学サンタバーバラ校、ドイツのマックスプランク天文学研究所などで研究活動後、7年間の子育てを得て、2014年よりアカデミアにカムバック。宇宙と物理と哲学の重複領域で模索中。
聞き手:徳谷柿次郎/とくたに・かきじろう(株式会社Huuuu代表)
1982年大阪生まれ。株式会社Huuuu代表取締役。26歳で上京し、編集プロダクション→ウェブのコンテンツ制作会社を経て35歳で独立。長野県に移住をして、全国47都道府県行脚がスタート。主な仕事『ジモコロ』『Yahoo! JAPAN SDG`s』『SuuHaa』など。40歳の節目で『風旅出版』を立ち上げて自著『おまえの俺をおしえてくれ』を刊行。長野市では『シンカイ(休止中)』『MADO / 窓』『スナック夜風』を営んでいる。座右の銘は「心配すな、でも安心すな」。
「余白」に描く男、社会に中指を立てる女
- 柿次郎
- 長野でHuuuuという編集の会社をやっている徳谷柿次郎と申します。
僕は「あそび」ってすごい大事だなーって思ってます。でも、主体的な選択がないと、知らず知らずのうちに日常に飲まれていく。それは、経済合理性を追求するこの時代に生きてる僕たちの定めなのか!?
でも、僕はそれに簡単に屈したくありません!
もっとあそびたーい!!
つい、抵抗の声が大きくなってしまいましたが、どうしたらこの日常をしなやかにあそべるのか、あそびの大切さって何だろう、そんなことをみなさんと一緒に考えたいなーと思って、今回のイベントを企画しました。
今日は、長野にゆかりのある実践者のおふたりにお越しいただいてます。まずは佐宗さんから自己紹介をお願いします!
- 佐宗
- こんにちは、BIOTOPE代表の佐宗邦威です。
僕は戦略デザイナーという肩書きで、企業のビジョン策定やイノベーション支援の仕事をしています。
未来づくりの伴走者とも言っているんですが、企業の5年後10年後を一緒に描いて、そのビジョンを事業に落とし込むためのお手伝いをさせてもらっています。
住まいは軽井沢で、東京から4年前に移住しました。今日はよろしくお願いします!
- 柿次郎
- ビジョンをつくるという、コンサル的なお仕事。大学でも講師をされているんですよね?
- 佐宗
- はい。多摩美術大学でも講師をしています。そこでは、学生たちの心の中にある本当にやりたいことを引き出し、未来につなげていくための指導をさせてもらっています。
僕が学生たちによく聞くのは、「目の前に白紙のキャンバスがあったらどんなものを描きたいですか?」ということ。
心理学者のユングは、人の深層心理は「余白」に描かれるものから見えてくるとしているのですが、僕が講義でやっていることもそれに近いイメージですね。
- 柿次郎
- 「余白」大事ですよね。僕もそれを意識的につくろうとしているんですけど、なかなかむずかしくて……今日はお話を聞かせていただくのが楽しみです!
では、続いてBossBさんお願いします!
- BossB
- 天文物理学者BossBです。
信州大学工学部で教員をやっています。専門は宇宙、物理なんですが……その話の前に、なぜ私がBossBなのか、というところをすこし説明していこうと。
- 柿次郎
- お願いします!それはこの会場にいる多くのみなさんが気になっているところだと思うので。
- BossB
- このシシコツコツというイベントはコロナとともに始まったと聞きますが、私BossBもコロナとともに生まれました。
対面で行ってきた女性・女子エンパワ活動ができない状況で、オンラインであれば活動が続けられることに気づき、息子に使い方を教えてもらったSNSを中心に宇宙から学んだ愛と自由と平和のメッセージを発信し始めました。
理由は、心の底からエンパワ活動は続けたいから。そのときに名乗ったのが、BossBです。
BossBのBossは、自分のBossであれという意味です。BはBitchの略で歴史的に「尻軽女」や「あばずれ」を意味する悪い言葉ですが、社会のメインストリームに中指を立てていきたいので、メインストリームで定義される「良い女」ではない、そんな女にはなりたくもねーという意味で名乗っています。
- 柿次郎
- かっこいい! 中指立てたくなること、たくさんありますよね〜。
- BossB
- ちなみにBoss Bitchは英語のスラングで「イケてる女」「独立した女」っていうポジティブな意味があります。
私はすべての女性は、他者との比較ではなく、自分を自分のBossとして、主体的に、独立した存在として、強く生きて欲しいと思っています。今日はよろしくお願いします。
気に入った土地に住んでみる「あそび」
- 柿次郎
- いやーこのふたり、この場がなかったら交わることなさそう(笑)。トークセッションの醍醐味を感じさせてくれる、すばらしい組み合わせだなって思います!
今日、おふたりは初対面同士ですけど、お互いの印象はどうですか?
- 佐宗
- 奥深そうな方だなぁと思ってます。
BossBさんの著書『宇宙思考』を読ませていただきましたが、宇宙って何だろうってこととか、本質的な宇宙のお話の数々がとても興味深かったです。
宇宙の時間軸で人生を捉えると、自分という存在がものすごく小さく思える。けれど、その小ささのなかには無限の可能性がある。そういう考え方が述べられていて、とてもポジティブですてきだなと思いました。
- 柿次郎
- 僕も『宇宙思考』読みました!
宇宙とは?っていうものすごくデカいところから、この地球に生きるBossBさん個人のあり方につながる話が展開される。ひとつの思想として、とても興味深く読ませてもらいました!
引用:宇宙を知ると、小さいけれど大きな自分に気づきます。自分の内に潜んだ途轍もないエネルギーと無数の可能性に出会い、なりたい自分になれることに気づきます。(中略)宇宙を知り、視点が増えると、自分を含めモノゴトの本質が見えてきます。これが「宇宙思考」です。/『宇宙思考』(かんき出版)
- 柿次郎
- 一方で佐宗さんの著書『じぶん時間を生きる TRANSITION』。社会のスピード感に飲み込まれて「あそべ」なくなっちゃう人って多いと思うんですけど、そこに「じぶん時間」というキーワードが見事に刺さる。
現代人の失いかけた心の健やかさを「じぶん時間」から取り戻す、そのためのヒントを与えてくれる本だったなーと。
僕はそこに、BossBさんの本とも通じる、自分を主語とする「視点」の大切さが語られていたんじゃないかと思います!
引用:自分の時間をどういう気持ちで、どう感じたいか、という意思を持ったことはそれまでなかった。だが、今・ここに流れている「時間をどう感じたいか」という意思を持つことから、変化は始まるのではないか。大事なのは、時間を「効率的に」使うかではない。自分が過ごしている時間を、「自分を主語に」今を感じて豊かに過ごせるか(『じぶん時間を生きる TRANSITION』/あさま社)
- 柿次郎
- BossBさんは佐宗さんの本、読まれました?
- BossB
- 読みましたよ。あー、あそんでなかったんだなーって思いました。まじめな方なんだなって。
- 佐宗
- そのとおりっ!!!
- 柿次郎
- 認めちゃう(笑)
- BossB
- いやでも、まじめは大切なことです。
私はね、おそらくまじめではないんです。あそんでばかりいましたし、これからもずっとあそんでいくと思います。
というのも私は、自分の目の前にあるワクワクすることに正直すぎる性格なんです。
だから若いときから、好奇心の向くままに世界中のいろんな都市をてんてんとしながら暮らしてきました。40過ぎまでずっとそんな感じで、数えたら、世界の17都市に住んでいて。
- 柿次郎
- 17都市!放浪の民だ。
- BossB
- そんな人間がなんで今、長野に住んでいるのか。もう住み始めて、7年にもなるんですが。
- 柿次郎
- それめっちゃ気になりますね!
- BossB
- きっかけは山です。息子たちと穂高でキャンプしたときに、とてもきれいな景色を見て、わー日本にもこんなに美しいところがあるんだ!って思ったから。
こんなにすてきなところがあるんだったら日本に住んで子育てしてみるのもいいかなーって。子どもたちと一緒に山登りまくるぞー!って感じで。
- 柿次郎
- え、それで長野に? 子育て環境とかそういうんじゃなくて?
- BossB
- はい。子どものために長野を選んだと思われるかもしれないんですけど、シンプルにそのときの私が気に入ったから住んだんです。
これは、気に入ったところに住んでみるという、私のあそびのひとつです。
- 柿次郎
- はー、それを「あそび」と言えるのはすごい!
- BossB
- 私は日本で生まれ育ちましたけど、電線だらけの景観とか、時代錯誤な教育制度とか理不尽な上下関係とか、ずっと自分の国にネガティブなイメージを持っていました。
だからいろんな国を見たいと思って海外を放浪して。それがたまたま登った日本の山をきっかけに、長野という土地の良さを発見し、ここに住んでみようと思ったわけです。
- 柿次郎
- BossBさんに選ばれた土地、長野。
- BossB
- はい、選びました。
で、実際に住んで仕事を探してみたら、信州大学工学部に教職の空きがあり、応募したら受かっちゃった。
その仕事が私を求め続けてくれるから、この街に居続けているという感じです。
- 柿次郎
- めちゃくちゃおもしろい生き方!
移住って重たく捉えちゃう人もいるかもしれないけど、BossBさんのように、気に入った街に住んでみる「あそび」だと思えたら、かなり気が楽になるかも!?
- BossB
- この考え方が合うかどうかは人それぞれだと思いますが、そういう性格というのもあって、実は長野に骨を埋める覚悟とかはぜんぜんなくて。
……だから、ごめんなさい!!!!!
このイベントに私、いていいのかな〜!?!?
- 柿次郎
- いいんです!(笑) いろんな考え方に触れられて幸せです!!!
じゃあBossBさんにとって、長野は「故郷」にならない??
- BossB
- ならないというより、そもそもそういう考え方がないです。私の家族はみんな多文化で、多言語で、特定の場所をルーツとしていません。
もし私に「故郷」というものがあるとするなら、愛する息子たちがいる場所、ということになるのかなぁ。
今、ふたりの息子たちはそれぞれ東京とニューヨークの高校に通っているんですけど。
- 柿次郎
- まさに宇宙思考! 刺激がありますね〜。
「余白」が気付かせる「やりたい!」
- 柿次郎
- ところで佐宗さんは、なんで「あそべ」なかったんですかね??
- 佐宗
- んーたぶん受験に生きてたところがあったからだと思うんですよね。
小中高大までずっと受験。あんまり要領のいいタイプでもなかったので、とにかく努力してました。努力してないとだめ、努力してないと不安、そういうマインドセットが小さい頃からあったんです。
- 柿次郎
- 受験かぁ(しんどそう……)。
- 佐宗
- 社会人になってからもそのマインドセットは基本的に延長で。それもあってか、20代で一回燃え尽きてしまい、うつ病になったんです。
2〜3年くらい何もしてなかった時期がありましたね。すべてが灰色に見えていて。
でも、そのときに僕はあえて自分がこれまでやってこなかった分野に飛び込んでみるというチャレンジをしました。
引用:無職の期間は、とにかくワクワクする何かを探していた。演劇のような自分を表現する場や、ポートレートの絵を描くワークショップに参加したり、オーラソーマというカラーセラピーやアロマセラピーに通ったりもした。あえて専門以外のジャンルに手を広げていき、感性を刺激するような活動を意識的に拾いにいった。(『じぶん時間を生きる TRANSITION』/あさま社)
とにかくいろんなことをやってみて、最終的にこれだと思えたのが「デザイン」だったんです。
- 柿次郎
- そのデザインを学ぶために、アメリカに留学もされたんですよね。すごい行動力だと思いますけど。
- 佐宗
- 32歳のときですね。僕はそれまでマーケティングのことを専門にやってきたんですけど、そこから新たにデザインの道に入るというのは、自分のなかではもうめっちゃ背伸びで。身を立てるのにとにかく必死でしたね。
その道でなんとか戦えるようになってからも、ずっとがんばり続けて……気付いたら40手前だったという。そんな感じですかね。
- 柿次郎
- 戦ってたんですねぇ。後悔はない?
- 佐宗
- ないです。でも、あそんできたのか?と言われると、どうなのかなぁとは思います。
軽井沢に住んでも、山であそぶとか、どうやって楽しむの?みたいな感じで、あそび方を知らない自分に気付かされる。
でも、あそび方を知らないとは言っても、本を読むことや書くことは好きなんですよね。楽しいんです。ぼくはそれをぜんぶ仕事につなげてしまうだけで。
- 柿次郎
- なるほど。その感覚もわかるなぁ。
- 佐宗
- じゃあ、仕事になっちゃうものはあそびではないのか? それを今、BossBさんの話を聞きながら考えているところで。
- BossB
- 今のお話を聞いてて思ったんですけど、デザインをやろうと思ったのが、佐宗さんのあそび心だったんじゃないですか?
- 佐宗
- あーかもしれない。
- BossB
- あそびというのは、飲み会とか、山登りとか、そういうことだけではなしに、自分に深く向き合って、心からの「やりたい!」に出会い、それにチャレンジすることだと思うんです。
- 柿次郎
- いいこと言う〜!
- BossB
- 佐宗さんは本のなかで、「自分の時間を生きていなかった」と書いているけれど、結局「生きてた」んですよね。私はそう思います。
- 柿次郎
- 認識の問題かもしれない? 佐宗さんはもう今日から「あそんでた」と言ってもいい!?
- 佐宗
- いいかなー(笑)。
僕は自分の本のなかで、うつ病だった2年間を「余白」と表現しています。その「余白」があったから、僕は自分が心からやりたいと思えることに出会えた。
BossBさんがおっしゃることを「あそび」とするなら、「余白」と「あそび」ってすごくつながりの深いものなのかなって思いました。
引用:仕事を辞めて何もしないのは、精神的にとてもきつい。誰かに会うときも、後ろめたい気持ちが先に立ち、「顔向けできない」という感覚に襲われた。自分が何者でもなくなってしまった恐怖と、先の見通せないキャリアにただ絶望していた。しかし実は、そういう何もない時期にこそ「余白」が生まれ、新しいものが入ってくることが多い。(中略)仕事がない期間(余白)とは、新しいものと出会うために必要な時間だったのだ。(『じぶん時間を生きる TRANSITION』/あさま社)
もっと子どもたちをあそばせろ!
- 柿次郎
- やっぱり大人も子どももたくさんあそんだ方がいいんだろうなー。
僕はあそびの「楽しい」っていう感覚が、人間のポテンシャルとか、生きる力みたいなものを引き出すんじゃないかと思うんですけど、そのあたりどうですか?
BossBさんの『宇宙思考』にも、ぴったりの表現がありました。
引用:好奇心に溢れた子どもたちは、人間も動物も、無駄に動いて遊びます。遊びは生存のための練習であり、学びであるだけではなく、遊びは想像であり、探検・発見であり、ただただ楽しいからです。楽しいからこそ、いつまでも、エネルギーが切れるまで(もしくは親に叱られるまで)遊んでいられます。/『宇宙思考』(かんき出版)
- BossB
- 「楽しい」は大事だと思います。
私は子どもたちに、楽しめないのなら勉強なんてしなくていいと言ってます。それよりもあそびなさいと。
あそんだ方が自分のやりたいことが見つかる。自分がどう生きていこうっていうのが見えてくる。
あそびというのは、自分への「探検」であり、それが新たな「視点」の発見にもつながると思っています。
- 柿次郎
- 「視点」の発見。実はこれが好きだったんだ〜みたいなことですよね。佐宗さんがデザインに出会ったことみたいに。
- BossB
- そうですね。だから、私は学生たちにも同じことを言ってます。でもなぜか長野の学生たち……遊ばないんですよねぇ〜〜〜〜。
私はそれを見かねて、大学内の施設の一部を0時以降も自由に使えるようにしたんです。佐宗さんの言葉を借りるなら、「余白」を好きなように使って、もっとはじけて暴れなさいと。
それが大学教員としての、私の唯一の業績かな(笑)
- 柿次郎
- すばらしい〜。
しかし、大人がいくら機会をつくってもあそばない人はいるわけで。僕はこれ、日本の教育制度にも問題があるんじゃないかなーって。
受験に生きてたらあそぶ時間もないだろうし、若い頃にあそんでなければ、大人になってあそび方がわからないのは当たり前。
いい大学に入るために、いい会社に入るために、ものすごいスピード感で走り続けないといけないというようなことが社会構造的に組み込まれて、若い人たちがあそべなくなってるとしたら、それは由々しき問題だよなぁと。
- 佐宗
- それ、わかりますねぇ。
うちの小学2年生の娘は今、佐久の風越学園っていうところに通っているんですけど、この学校の教育は「山の中で子どもたちを育てよう」という世界観なんです。
自然のなかでたくさんあそばせるし、宿題もないし、家に帰ってくるのも早い。子どもたちに「余白」をつくってくれてありがたいなぁと感じます。
でも、あるときに同い年の子どもを持つ東京時代の知人と話したら、その家族ではもう中学受験の話をしてるんですね。
- 柿次郎
- えー? 小2で!?
- 佐宗
- 別にこれって珍しいことでもなくて、東京ではわりとそうなんです。中受(ちゅうじゅ)どうする〜?みたいなことを、子どもが低学年のうちから話す親は多い。
親がそうなら、子どもは受験を内面化していきますよね。そして、偏差値の高い中学に入らなければならないというような、受験プレッシャーが多くの人を巻き込んで拡大していく。
僕はそういう競争環境に子どもを晒したくないというのがあったから、長野に来たところもあって。こちらではあんまりそういう激しい受験話は聞かないので気楽ですね。
- 柿次郎
- はー、「ちゅうじゅ」って略語を初めて聞きました……。
僕は受験勉強をしたことがなくて、結果的にネットの世界にあそび場を見つけたタイプなんですけど、それはある意味ラッキーだったのかな……って今思いました。
受験が完全な悪とは言わないです。でも、それで疲れたり、あそべなくなっちゃってる子どもがいるのだとしたら、それはちょっと気の毒に思いますね。
- BossB
- 大きな話をすると、この問題って、受験産業が利権の絡み合いになってる構造にあるんじゃないですか? そういうわけのわからないものに、たくさんの親や子どもたちが取り込まれている。
そういうのはぶっ潰さないといけないと思いますけどね、私は。
もっと子どもたちをあそばせろー!
- 柿次郎
- 中指立ってきた(笑)。でもほんとみんな、あそんだ方がいいことあると思う〜。
「あそび」でつながる、そして始まる
- 柿次郎
- おふたりは今、どんなことであそんでいますか? 楽しんでやってることを教えてもらえたらと。
- 佐宗
- 僕は、旅ですね。
特に目的を持たずに、気になる国に行ってみることにしています。で、Airbnbなどを使って、現地の人の家に泊めさせてもらう。
それの何が楽しいかって、やっぱり文化の違いやライフスタイルの違いを肌に感じられるところですよね。そういう体験が、自分の国への新たな「視点」の発見にもつながっていくと思っていて。
- 柿次郎
- ここでもやはり「視点」ですね。これは今日のキーワードのひとつです。
- 佐宗
- 現地の人と話すのも「視点」のヒントになることが多いですね。日本文化が実は海外ですごく評価されてることも、会話のなかで知ったりする。そういうのって、日本だけにいるとあんまり感じられない。
僕はこれ、日本の社会の「空気」がそうさせるところもあると思うんです。それを日本特有のバイアスとも言ってるんですが、海外を旅するとその日本的なバイアスが外れる。それが楽しいんです。
- 柿次郎
- バイアス外し。垢すりみたいな?
- 佐宗
- ですね。どんどん取りたいです、垢。
- 柿次郎
- BossBさんはどうですか? お聞きするまでもなく、あそんでると思いますけど(笑)
- BossB
- 私は運動ですね。体を動かすのが楽しいです。
私は若い頃キックボクシングをやってて、長野に来てからもジムに通って、バキバキに筋トレしてたんですけど、最近すこしずつまたその頃の気持ちを取り戻しつつあります。鍛えるぞ〜!
- 柿次郎
- 健康な体あってこそですからね。運動大事!
- BossB
- あとはやっぱり、新しい出会いが楽しいですね。
今日のイベントもそうだけど、佐宗さんや柿次郎さんのような、物理やってるだけじゃ出会えないような、ぜんぜん違う分野の人たちと出会う。それはやっぱり刺激になるし、楽しい。
私にとって「住む」ことはあそびのひとつだけど、それと同じくらい「出会い」もあそびなんですよね。
- 柿次郎
- いやーそれはよかったです!
- BossB
- 私さっき、「故郷」の概念がないから長野はそれになり得ないというようなことを言ったけど、今日の出会いから、また長野で暴れてやろうかな〜って気持ちになってきましたよ(笑)
長野らしいあそび、何か考えたいですね! 温泉とか、いいキーワードになるかもしれない?
- 柿次郎
- 思いつきですけど、シシコツコツ、次回は温泉旅館でやりますか(笑)。長野大好きな外国人も招いて、トークセッションとか。
- 佐宗
- それ、すごくいいですね〜!
僕は日本って、世界的にも希少なリラックス国、ワンダーランドのひとつだと思ってます。そこに長野らしい温泉というキーワードはど真ん中じゃないかなって。ぜひいつか実現して欲しいです!
- 柿次郎
- 思いがけず、新たな「あそび」が生まれてしまった!?
今日のセッションもそうだけど、あそびって人をつなげるし、そこからさらに新しいあそびも連鎖的に生まれていくんですよね。
最近あそべてないなぁという人もいるかもしれないですけど、まずはシシコツコツにあそびにきてもらうことからでもぜんぜんいいです。
小さな行動から、ぜひ自分らしい「あそび」にチャレンジして、新しい「視点」にたくさん出会ってもらえたらうれしいなって思います。
今日はありがとうございました!!!
みんなー! もっとあそぼう〜!!!
構成:根岸達朗
撮影:小林直博