移住したくなったら

【20年連続1位】なぜ長野は「移住したい県」に選ばれ続けるの?『田舎暮らしの本』編集長に聞く、県外から見た長野の魅力とリアル

【20年連続1位】なぜ長野は「移住したい県」に選ばれ続けるの?『田舎暮らしの本』編集長に聞く、県外から見た長野の魅力とリアル

SuuHaaは、長野県の移住総合Webメディアとして、移住者や地域で挑戦を続ける人たちの声を紹介してきました。実際に暮らす当事者の言葉からは、自然の豊かさや人とのつながり、働き方の変化など、長野ならではの魅力が浮かび上がってきます。

では、長野県を「外から」見たとき、その姿はどのように映っているのでしょうか?

一つの指標となるのが、宝島社の雑誌『田舎暮らしの本』が毎年発表する「住みたい田舎ベストランキング」や「移住したい都道府県ランキング」です。「移住したい都道府県ランキング」は読者投票によって選ばれるランキングで、長野県は20年連続1位を達成しました

なぜ、これほど長きにわたって選ばれ続けているのか。

その理由を探るべく、編集部は『田舎暮らしの本』編集長・生川貴久さんにお話を伺うことに。ランキングの裏側にある長野の強さと、これから向き合うべき課題、そして移住を考える際に押さえておきたいポイントまで、率直に語っていただきました。

自然と距離感、自治体の力が支えた20年

——『田舎暮らしの本』が発表した「2026年版 移住したい都道府県ランキング」で、長野県が1位となりました。長野の魅力を発信するメディアとしても嬉しい出来事ですが、あらためて、生川さんの目には長野の魅力はどのように映っていますか?

読者アンケートの結果、長野県は20年連続で1位となりました。読者の多くを占める首都圏や都市部の方々にとって、長野にはやはり根強い魅力があるのだと思います。
長野には自然があり、伸び伸びと暮らせそうなイメージ。食べ物も美味しく、四季もはっきりしている。いわば「東京から一番近い、心が休まる場所」と捉えられているのではないでしょうか。
静岡や山梨にとっての富士山のように、長野にはアルプスという強い象徴があります。海はありませんが、豊かな川があり、本当に景色が美しい。そうした風景への憧れは、長い時間をかけて醸成されてきたものだと思います。

——都市部から見て、まず自然の豊かさが魅力として映っているのですね。アクセスのしやすさも大事なポイントでしょうか。

最近は二拠点生活もしやすくなっていますし、東京や大宮から新幹線で1時間前後で通える距離にあるのは大きいでしょうね。都会から遠すぎず、まるで「お隣さん」のような感覚で行き来できる。その距離感が、心理的なハードルを下げているのだと思います。
以前、福井県に取材に行った際、2024年の北陸新幹線延伸後に人の流れが大きく変わったと聞きました。他にも訪れる人の層が広がり、メディアの注目度も格段に上がったそうです。交通インフラは、それだけ地域の印象や選ばれ方に影響を与えるのだと実感しました。

——「遠すぎず、アクセスしやすい田舎」という視点は、単なる自然の魅力とはまた違う評価軸ですね。

そうですね。さらに長野ならではの特徴として、市町村の多さも挙げられます。県内には77の市町村があり、そのうち35が村。これは日本最多です。
市町村の力が強く、平成の大合併のなかでも統合が進まなかったことで、地域ごとの誇りや、自分たちで村を運営していく感覚が残されました。画一的に都会化していくのではなく、昔からの暮らしや文化を継承している。その自治的な感覚にも、多くの人が惹かれているのではないでしょうか。
また、長野は日本で4番目に広い面積を持つ県でもあります。エリアごとにカルチャーも気候も異なり、一つの県の中に複数の個性が共存している。その多様性も、大きな魅力だと思います。

——田舎らしさと都会との接続。その両方を持ち合わせている背景には、自治体単位で個性を守り続けてきた歴史があるのですね。

若い世代にも届く、身近さと美しさ

——『田舎暮らしの本』2026年3月号は、書店で入手困難になるほどの反響だとうかがいました。今回の特集では、若い世代へのアプローチも意識されたのでしょうか?

そうですね。私が編集長に就任して1年になりますが、今回の長野県特集では、これまでの読者層よりもさらに広い世代に手に取ってもらえるような表紙を目指しました。
そこでボーイズグループINI」メンバーであり、佐久市出身の藤牧京介さんにお願いしました。「地元民として、長野に関われることを嬉しく思っています」と快くオファーを受けてくださり、非常に熱量のある企画になりました。

——撮影場所として、東京・銀座のアンテナショップ「銀座NAGANO」を選ばれたのも印象的でした。

読者が実際に足を運べる、リアルな接点をつくりたかったんです。実際、ファンの方が同じ場所で写真を撮ったり、インタビューで話題になった食べ物を買いに来てくださったりと、大きな反響がありましたね。
藤牧さんという存在を通して、若い女性ファンを中心とした新しい層に、長野の魅力を届ける入り口をつくれた手応えを感じています。

——インタビューや動画などメディアの形も多様化していますよね。パッと見て「行ってみたい」「体験してみたい」と思える接点も増えたように思います。

「村」や「田舎」と聞くと、どこか不便な場所を想像されるかもしれません。ただ、実際には驚くほど環境が整っている地域も多いんです。
例えば、コンパクトシティを推進する長野県宮田村は、移住体験住宅や相談窓口の整備が非常に丁寧です。無印良品で知られる良品計画と連携し、築55年の民家をリノベーションした移住体験住宅の事例などは、空間の見せ方が洗練されていて、若い世代の心を掴むのが上手だと感じます。

菱田工務店によるリノベーション事例

——「自然の中で暮らしたいけれど、生活の基盤は整っていてほしい」というニーズに応えているのですね。

そのバランスが重要なのだと思います。
誌面では坂城町の菱田工務店さんの事例も紹介しました。こちらはInstagramのフォロワーは32万人を超え、発信力も非常に高い。長野らしさを感じられる、デザインの行き届いた住まいづくりを発信しており、多くの移住希望者に支持されています。
また、旅やキャンプの情報を発信するインフルエンサーのさえさんは、もともと移住フェアで宮田村と出会い、移住後の現在も自身のSNSから地域の魅力を発信しています。企業や個人と自治体が良い関係性を築いていることも、新しい層への情報浸透につながっているのではないでしょうか。

さえさんは長野への移住や自然の魅力を発信している

——ちなみに、長野の「美しさ」や「洗練」といった魅力が広く浸透している背景には、どのような要因があるのでしょうか?

やはり軽井沢や白馬といった、昔から続くブランド力の存在は大きいと思います。象徴的なエリアが全体を牽引し、その周辺の自治体も良い影響を受けながら切磋琢磨している印象があります。
まずはブランドエリアが入り口となり、そこから波及する形で県全体の環境や発信の質が底上げされていく。その積み重ねが、現在の長野が持つポジティブなイメージにつながっているのかもしれませんね。

移住を促進する、きめ細やかな制度と情報発信

——「田舎暮らし=老後の楽しみ」というイメージは、過去のものになりつつあります。いまは若者や子育て世代にとっても身近な選択肢になっていますよね。

そうですね。かつてはリゾート地でのシニアライフという印象が強かったかもしれませんが、いまは子育て支援が充実しているエリアを中心に、長野でも若いご夫婦の移住が目立っています。
例えば、宮田村は「子育て支援日本一」を掲げ、年間20時間まで無料の託児サービスや、0〜2歳児専用の保育園などを整備しています。さらに特徴的なのは、地域の子育て経験者の方々が託児に関わる仕組みがあること。行政が制度で支え、地域の人が良い意味での「お節介」で関わる。その両輪があることで、新しく来た人の心理的なハードルが下がっているのだと思います。

宮田村の子育て支援サイトより引用

——若い世代が安心して移住できる支援が行われているのは心強いですね。

全国的に人口減少が進むなかで、人口が増加に転じている自治体は多くありません。私たちが実施したアンケートでは、回答のあった547自治体のうち、人口増に転じたのは30程度にとどまりました。そのなかに、松川村、御代田町、飯綱町といった長野の自治体が含まれているのは注目すべき点です。

——人口増を実現している自治体には、どのような共通点があるのでしょうか?

やはり子育て世代の流入と、その後も継続して暮らし続けられる環境づくりが重要だと思います。教育費や医療費の支援、子育て環境の整備など、具体的な制度に力を入れている自治体は多いですし、その情報が「きちんと届いている」ことが安心感につながるのだと思います。

長野はもともと移住先としての人気が高い地域でした。その蓄積もあり、移住支援の情報が比較的整理され、相談体制も整っている印象があります。
自治体の担当者や県知事に「20年連続1位に選ばれた」という結果をお伝えすると、非常に喜んでくださったのも印象的でした。「外から来る人の期待に応えたい」という意識も強く、そうしたウェルカムな姿勢も、選ばれ続けている理由の一つだと思います。

——制度を整え、丁寧に伝え、相談の質を高める。そうした積み重ねが、最終的に人口動態という数字に表れているのですね。

移住と転居は違う。地域で幸せに暮らすために必要なこと

——ここまで長野の魅力をうかがってきましたが、実際に暮らすとなれば、理想通りにいかない部分もあると思います。田舎暮らしを続けていくうえで、大切なことは何でしょうか?

まず大前提として、「移住」と「転居」の違いを考えることです。
転居は住む場所を変えること。一方で移住は、その地域に根を張り、地域の一員として暮らしていくこと。終の住処として、その土地とともに生きていく感覚に近いと思います。そこを意識せずに環境だけを求めて引っ越すと、地域との接点が生まれにくく、孤立してしまうことがあるかもしれません

長野でも地域によっては、村の行事や回覧板、組合費の負担といった営みが今も続いています。共同作業が暮らしの前提になっている場所もあり、たとえば地域の草刈りを負担に感じてしまうようであれば、暮らしづらさにつながることもあるでしょう。
畑を持つようになれば、何を育てているかが自然と見える距離感になります。他の作物を分けてもらうような体験もあるでしょう。一方で、常に見られていると感じる人もいる。温かさと窮屈さは表裏一体で、その受け止め方が向き不向きを分けるのだと思います。

——ミスマッチを防ぐために、移住前にできることはありますか?

まずは移住相談員の方と、制度の説明だけでなく「実際の暮らし」について具体的に話すこと。それから移住体験施設を利用し、短期間でも生活者として滞在してみることです。旅行では見えない日常を確認することは、とても大切だと思います。
いきなり完全移住を目指すのではなく、「関係人口」として通いながら関わる方法もあります。段階を踏むことで、自分との相性を見極めやすくなります。

——長野でも都市部であれば、生活の利便性を保ちながら、少し足を延ばせば田舎の暮らしも体験できる。そんな場所として、少しずつ地域に関わっていけそうですね。

そうですね。どこに住むにしても大切なのは、「地域のために何ができるか」という視点を持つことだと思います。
自分が何を得られるかだけでなく、自分は何を持ち込めるのか。その意識を持てる人ほど、地域との関係は自然と深まっていく。人との距離が近いぶん、参加する姿勢がそのまま暮らしの充実度や幸福感につながっていくのではないでしょうか。

暮らしながら働き続けられる、長野の未来へ

——最後に、今後の長野に期待することがあればお伺いしたいです。

やはり「働く」ことだと思います。若い人が県外に出ていく理由の多くは仕事です。進学や就職をきっかけに外へ出て、そのまま戻らない。これは長野に限らず、多くの地方が抱えている課題ですよね。

——暮らしや子育て環境が整っていても、働く場所がなければ定着は難しい。

例えば、秋田市ではアニメ制作会社や、AIやセキュリティ、システム開発を行うIT企業など、全国的にも注目されている最先端デジタル産業の会社がいくつか立ち上がり、若者が地元を離れずに働ける環境が生まれているそうです。
そうした新しい産業の芽が育てば、「戻る」という選択肢はより現実的になっていくと思います。

左:『田舎暮らしの本』2026年2月号(宝島社)右:『田舎暮らしの本』2026年3月号(宝島社)

——「移住したい都道府県」として評価される段階から一歩進み、「挑戦し、働き続けられる地域」になれるかどうかが、この先の未来を左右しそうですね。

そうですね。長野は市町村が多いからこそ、意思決定が早く、独自の取り組みを進めやすい強みがあります。誌面では起業支援に力を入れる地域や、林業に取り組む方も紹介させていただきました。
アルプスに象徴されるブランド力があり、首都圏との物理的な近さもある。そこに若い世代が働きたいと思える環境が積み重なっていけば、長野はさらに面白い地域になっていくのではないでしょうか。

——20年連続1位という結果を受け止めつつ、これからも選ばれ続けるためのヒントをたくさんいただけたように思います。本日はありがとうございました!

インタビュー・執筆/淺野義弘
撮影/飯本貴子
編集/吉野舞