2023.08.31
山頂でチェロスとコーヒーを。インドア移住者が初めて長野の山を登った日。
こんにちは。ライターの風音です。
私は今、標高2400メートル越えの山頂で、チェロスとコーヒーのおやつタイムを楽しんでいます。長野に住んでいると、こんな遊び方も気軽にできてしまうんです。
……なんて、さもこれが日常かのような口ぶりですが、実は今回が長野への移住三年目にして初登山!長野といえば、八ヶ岳、上高地、御嶽山など数々の名山があり、山好きにとってはまさに聖地。
ですが、もともとインドアで運動も苦手、さらに出不精な私は「山ってかっこいいな〜。私は風景としての山が好き!」とただただ雄大な山を地上から眺めるのみでした。
周りに登山好きの友人はいるけれど、自他共に認めるインドアゆえにアウトドアアクティビティに誘われない私。しかし、ある日ついにSuuHaa編集長の藤原さんからお声がかかったのです。
やぎちゃんは、かつてSuuHaaの記事でも取り上げられた山好きYoutuber。チャンネル登録者数は70,000人を超え(2023年5月現在)、登山初心者向けの動画もたくさんアップしています。
やぎちゃんが目指しているのは、山好きのための「アジト」を作ること。魅力的な山々が広がっている長野は夢の実現にぴったりだと、2023年の春に長野に移住してきたのです。「登山」と聞くとハードルが高いけれど、やぎちゃんなら、初心者の私にも優しくしてくれそう……。
- 風音
- それはちょっとやってみたいかも……!
- 藤原
- 今回、登山初心者が基本の登山装備を買い揃えるところからやれたらいいなぁと考えてるんだけど、今後どれくらい登山を続ける気がある?いくらくらいなら予算かけられるかな。
- 風音
- えっと、私、すごく飽きっぽいので続けられるかどうか……。
- 藤原
- (大丈夫かなぁ……)とりあえず、登る山は黒斑山の予定だよ。なにが必要かやぎちゃんに相談してみて!
初心者こそ機能性重視!予算を抑えたグッズ選びのポイントは?
- 風音
- やぎちゃん、よろしくおねがいします!最低限これだけあればOKな装備を揃えたいんですが、何も分からなくて……。
- 風音
- なるほど!リュック、スパッツ、ジム用のシャカシャカのズボン、軽量のアウターは自前で行けそうです!
- やぎちゃん
- じゃあ、靴とインナー、トップスが必要だね。多少ダサくても安く揃えるか、かっこいいやつを相応の値段で揃えるか、どっちがいい? 最初はとりあえず安いやつを買って、結局ハマったら値段相応なやつを揃え直す人が多いよ!
- 風音
- うーん、じゃあ、とりあえず安く揃えたいです!
- やぎちゃん
- 了解!じゃあワークマンで揃えちゃおうか!
というわけで、やってきましたワークマンプラス高田店!ワークマンプラスは、アウトドアアイテムの品揃えが充実しているそう。まずは登山靴から選んでいきます。
- やぎちゃん
- 今回登る山は道も楽だし、2〜3時間想定だから、スニーカーと登山靴の間くらいの靴がいいと思う!
- 風音
- たくさん種類がある……。このおしゃれなやつはどうですか?
- やぎちゃん
- そのかわいい靴はどちらかというとキャンプ用かな。デザインも大事だけど、初心者こそ機能で選んだ方がいいかも。迷ったら靴の裏を見てみるといいよ!山の岩場とかを歩くと結構すり減っちゃうから、溝の深さがポイント。それから、初心者はソールが硬すぎると疲れちゃうから、柔らかい方がいいね。ソールがよく曲がるか見てみて。
- 風音
- なるほど……!じゃあこっちのアクティブハイクの靴にしてみます。あとは小物ですね。
- やぎちゃん
- 手袋は、すぐなくしちゃったりするから安いやつでいいと思うよ!靴下はメリノウールが一番おすすめ。インナーのシャツは、綿はNG!汗が乾きづらくて体が冷えちゃうから。
- 風音
- インナーの上に着るTシャツも、綿100%じゃないほうがいいですよね。
- やぎちゃん
- そうだね。気に入るデザインがなかったら、セカンドアウトドアも見に行ってみようか。かわいいのがあるかも!
今度は、ワークマン高田店のすぐ近く、セカンドアウトドアにやってきました。ずらりと並ぶカラフルなアウトドアウェアに、ちょっとわくわくしてきます。
- 風音
- さすが長野、アウトドアウェアがめちゃめちゃ充実してる!これはかわいいけど、いいお値段……。このシャツは、私にはちょっと派手かなぁ。
- やぎちゃん
- 街で着るには派手だけど、山で着るのは許される!機能性も重視しつつ、自分の気分があがるものを選んでみるといいよ。それにしても、安く抑えたいけどかわいいのが欲しい感じ、登山始めたての頃を思い出すな〜!
・・・
というわけで、やぎちゃんに付き合ってもらい無事にお買い物を終え、準備は万端。前日はドキドキして眠れず、遠足前夜の気分……。ちゃんと登りきれるかなぁ。
- 今回の登山の持ち物
- <今回新しく揃えたアイテム>
・メリノウール靴下 499円
・インナーシャツ 980円
・手袋 99円
・靴 2900円
・ポロシャツ 2090円
合計6568円
(自前のもの)
・コールマンのリュック
・バケットハット
・スポーツ用のスパッツ
・シャカシャカのズボン
・ポリエステル製の軽量アウター
・ダウンベスト
(その他、持っていったもの)
・タオル
・水筒
・行動食(キャラメル、羊羹、チョコ、グミ)
・お昼ご飯(おにぎりとチェロス)
・絆創膏
・ティッシュ
・折り畳み傘
いよいよ黒斑山登山スタート!どきどきの入山準備
今回登る黒斑山(くろふやま)は、長野県小諸市と群馬県嬬恋村の間にある山。日本百名山のひとつである、浅間山の外輪山です。私が住んでいる長野市からは、車で約1時間半。当日は朝6時半に長野市内を出発し、登山口まで向かいます。登山口の時点で、標高は1900メートルほど!
- 風音
- おはようございます。登山って、こんな朝早くから出発するんですね……。私は朝が弱いんですが、のんびり昼過ぎ出発じゃだめなんですか?
- やぎちゃん
- 日が落ちちゃうと、山は一気に冷えるし危ないから、昼過ぎには下山できるくらいのスケジュールの方が安心!今回は、登りで1時間、下りで2時間の予定だよ。
- 風音
- なるほど、そういう理由なんですね。登山前にすることはありますか?
- やぎちゃん
- トイレを済ませて、準備体操!あとは、登山開始前に登山計画書を提出するよ。オンラインでもできるんだけど、せっかくだから今日は登山ポストに出そうか。万が一遭難したときのために必要だから、しっかり書こうね。
やぎちゃんに教わりながら登山計画書を記入し、登山ポストへ。さぁ、準備運動をして、いざ出発です。黒斑山の登山道には<表コース>と<中コース>があり、今回は<表コース>を進んでいきます。
休みすぎは逆に疲れる?登山のペースに体を慣らそう
歩き出して10分ほどで、見晴らしのいい場所に出ました。小諸の街並みが見下ろせます。お〜、結構登った!と思ったら今度は下り道。10分登って、10分下って、を繰り返して進んでいきます。
途中、景色の良さに釣られて進んでいたら道を間違えていたことが判明。やぎちゃんが気づいてくれたので、元来た道を引き返します。いきなり一人で登山デビューしなくてよかった……。
- 風音
- 登山って、ひたすら上へ上へ登るイメージだったんですけど、結構下るんですね。
- やぎちゃん
- 山頂が見えた!と思ったらまた下らないといけないから、せっかく登ったのになんで〜!?って思うよね(笑)体力はどう?もうすぐ登り始めて1時間だし、そろそろ休憩しよっか!
- 風音
- もう1時間も登ったんだ!意外とそこまで疲れてないです、残り体力70%くらいかな。休憩って、どれくらいのペースで取ればいいんですか?
- やぎちゃん
- 最初の30分が一番しんどいんよね。でも、歩行のペースが乱れちゃうと逆に疲れちゃうから、心拍数があがってくる30分〜1時間くらいは、歩きながらちょこちょこ行動食をつまんだり水分補給をして進むといいよ。
- 風音
- 休みすぎもよくないんだ!
- やぎちゃん
- そうなの!でも今日は登山デビューだし、無理しないで疲れたら言ってね。それから、休憩するだけじゃなくて、ザックの調整をしたり靴紐結んだり、上着の脱ぎ着で体温調整するのも忘れずにね。
登山中って何を考えたらいいの……?それぞれの頭の中
さて、景色を楽しみつつ、ひと休みしたらまた歩き始めます。ここまで1時間半ほど山道を歩いて気になるのが、登山中ってみんな何を考えてるの?ということ。地上にいるときは、隙あらば携帯をいじってSNSを見たり仕事の連絡を返してしまうのですが、数時間ひたすら自然の中を歩くのは、自分にとってかなりレアな体験。
足元も不安、体力が保つかも心配、でも景色も自然も楽しみたい、やぎちゃんとのおしゃべりも楽しい、それにしてもこの登山レポートどうやって書こうかな……。山を登れば自然に没頭してデトックス!になるのかと思いきや、案外頭の中はいっぱいのままです。せっかくの登山がこれではもったいない?思い切ってやぎちゃんに聞いてみました。
- 風音
- やぎちゃんは、山を登る時って何を考えてますか?
- やぎちゃん
- えっ、そうだなぁ。私は登山の動画を作ってるから、さっきみたいな間違えやすい道はどうやって伝えたらいいかな?とか、この山をどう紹介したら視聴者のみんなは喜んでくれるかなぁ、とか考えながら歩いてるよ!あとは下山後に何食べようかな〜とか!
- 風音
- 結構いろいろ考えてた!
- やぎちゃん
- (笑)。あとは、今日みたいに誰かと一緒に登る時は、恋愛の話とか、生い立ちとか、深い話になることが多いなぁ。数時間一緒に登り続けるからか、周りに人がいない自然の環境のせいか、そういう話になりがちかも。
- 風音
- なるほど……。それはちょっとわかるかも、山ならじっくり話せますもんね。仕事のこと考えてもいいし、なんの話をしたっていいんだ。私、登山を楽しまなきゃ!って気負いすぎていたかも。
やぎちゃんとおしゃべりしつつ、どんどん足を前へ進めます。登り始めて1時間20分ほどで道は急登に。標高が高くなるにつれて、冬の名残の霜柱も目につくように。岩がかなりゴロゴロしている階段なので、ちょっぴりハードモード。靴選びの時に、「靴底の溝を見るといいよ!」とやぎちゃんがおすすめしてくれたのも納得です。
浅間山が一望できることが黒斑山登山の魅力。でも、登山初心者にはピンとこず……?
- やぎちゃん
- あと10分くらいで山頂だよ〜!疲れ具合はどう?
- 風音
- 結構急ですね……。体力は、今50%くらいです!
- やぎちゃん
- もうちょっとで浅間山も見えてくるはず……。あっ、風音ちゃん!ほら、浅間山だよ!
- 風音
- へぇ〜。(山だ……)
- やぎちゃん
- リアクションが薄い……!みんなあれが見たくて登るんだよ〜!そっか、山に興味がないとそうなのか、カルチャーショックだぁ。
山に登ってまた山を見る感覚がわからず、薄いリアクションとなってしまいましたが……。浅間山は、日本を代表する活火山。日本百名山の一つでもあります。積雪期は、どっしりとした深い茶色い山肌に白い雪が降り積もった姿が「ガトーショコラ」のようだと、山好きの間で人気なのだそうです。
- やぎちゃん
- ところで風音ちゃん、体調はどう?ここから山頂まではあと600メートルくらいなんだけど、今日は風音ちゃんに登山を楽しんでもらうことが目的だから、風音ちゃんが「よし、ここが山頂だ!」って満足したら、無理して登頂しなくてもいいんだよ。
- 風音
- えっ、それでもいいんですか!?でも、ここまできたら山頂まで行ってみたいです。
- やぎちゃん
- よーし、じゃあもう一踏ん張りだね!崖っぽい道だけどがんばろう!お腹空いてきたね、山頂まで行ったらおにぎり食べようね!
登りきったご褒美、山頂でおやつタイム!
あと一息、崖道を一歩一歩進みます。それにしても、登山はもっと厳しいイメージがあったのですが、やぎちゃんがずっとやさしく体調を気づかったり励ましてくれるのがうれしい……。学校行事の登山は、大人数の集団行動の中で「みんなについていかなきゃ」、「足を引っ張らないようにしなきゃ」というプレッシャーがあったので、苦手意識が生まれていたのかもしれません。
そんなことを考えながら、頂上付近のスポット「トーミの頭」を超え、黒斑山の頂上に着きました!標高2404メートル!
- 風音
- うわ〜、私でも登れた!思ったより疲れてません……!
- やぎちゃん
- 見て見て!今日の浅間山は雪が積もってないから、焼きたてのガトーショコラ!って感じだねぇ。見てたらお腹すいちゃった、エネルギーチャージしよう!私は塩おにぎりとからあげを持ってきたよ、風音ちゃんのご飯はなに?
- 風音
- 梅おにぎりとチェロスです。
- やぎちゃん
- チェロス!実は今日ね、風音ちゃんに山頂でコーヒーを楽しんでもらおうと思って、インスタントのコーヒーとお湯を持ってきたんだよ〜!あったかいコーヒーとチェロス、ぴったりだね。
- 風音
- わ、ありがとうございます!山頂で温かい飲み物が飲めるのってホッとしますね。
- やぎちゃん
- でしょでしょ。……なんか、風音ちゃんの座ってる岩場がソファーみたいに見えてきた。家でのおやつタイムみたいだね。寛げてそうでよかった〜。
浅間山はピンとこなかった私ですが、山頂での食事はいい気分になれました。コンビニで買ったチェロスも、インスタントのコーヒーも、山頂では一味ちがうかも。いつもならまだベットで寝ぼけている時間帯なこともあり、この時間に優雅に山頂でコーヒーを啜る自分のことがちょっと誇らしくなります。
- やぎちゃん
- さ、でもそろそろ下りようか。ちょっと雨が降りそうだし、下りは急いだ方がいいかも!登山デビューで雨に打たれちゃったら登山嫌いになっちゃうかもしれないから
油断禁物!?山の天気は変わりやすい……!
たしかに、だんだん雲で日が隠れて肌寒くなってきました。登ってきた道とは別の、<中コース>を通って下山していきます。下山の方が楽なのかと思いきや、滑らないように気をつけて進むため、むしろ緊張します。えっちらおっちらやぎちゃんに着いていくこと、30分ほど。ようやく岩場を抜けて木々の茂るところまで来たかと思いきや……。
- やぎちゃん
- あっ!雨が降ってきた!ね、山の天気ってほんとに変わりやすいんだよ。
- 風音
- あれ、これもしかして、雨じゃなくて雪……?
- やぎちゃん
- わっ!ほんとだ〜!身体冷えちゃうね、いそげいそげ!でも、予定よりいいペースで下山できてるよ!もうちょっとがんばろう!
この日は5月半ば、長野市街地は半袖でも暑いくらいの気温でしたが、山の麓では雪が!やぎちゃんが心配して焦ってくれる中、内心「山で降る雪ってきれいだな〜」とのんきに見とれていたのは内緒……。幸い、雪は数分で止みました。もうすぐ無事に下山できそう!
- やぎちゃん
- いやぁ、雪には焦ったけどなんとかなりそうだね。風音ちゃん、初登山はどう?あ、待って、話しかけても大丈夫!?
- 風音
- 平気です!下山中は話さない方がいい、とかあるんですか?
- やぎちゃん
- だめではないけど、下山の方が緊張するから黙々と下りたいって人もいるね。逆に、話しながらの方が気がまぎれるって人もいる!風音ちゃんはどっちのタイプかなぁと思って。
- 風音
- 話した方が気が楽かも!感想かぁ……。いい意味で、登山ってそんなに特別なことじゃないんだ!って思いました。今質問してくれたみたいに、自分のペースで楽しんでいいんだなぁってハードルが下がった気がします。自分からどんどん登りにいく!まではまだ行けないけど、「登山行こう」って誘われたら断らない程度にはなれたかも。
- やぎちゃん
- え〜よかった!次はどの山に登る!?計画立てちゃおうよ〜!
地上に戻ってきて一息……。山が身近にある生活って実はとっても贅沢?
無事に初登山を終え、やぎちゃんの車で家の近くまで送ってもらい帰宅。時計を見るとまだ15時前。自分の部屋のベットに寝転んでいると、あれ、今日って本当に山に登ったんだっけ……?と不思議な気持ちに。そのままうとうとしてしまい、しっかりお昼寝。起きたらすっかり周りが暗くなっていました。
お腹も空いたし、身体も疲れているし、夕飯は外で食べて温泉でも行ってこようかな。いそいそと温泉セットを準備し、ふと長野に来たばかりの頃を思い出しました。
山がたくさんあるのと同様、温泉もたくさんある長野県。長野市街地から数分でいける温泉もいくつもあります。移住してきたばかりの頃は、長野出身の友人たちと遊ぶ予定を立てるとき、当たり前に「温泉」が候補に上がることに驚きました。それが今では、「うーん、疲れたし温泉でも行くか!」とサッと一人でも温泉に行くように。
多くの人が「非日常」を求めて山や温泉にいく中、それらを日常の延長で選択肢に加えられる長野での生活は、実はとっても贅沢なのかもしれません。ゆっくり熱い温泉に浸かり、登山の疲れを癒やしながら、もしかしたら、「山に行く」も、近いうちに私の中で「温泉に行く」くらい身近なことになるのかも……と考えたのでした。