移住したくなったら

【古民家リノベ】移住の切り札『断熱エコハウス』が家庭と仕事を救う

【古民家リノベ】移住の切り札『断熱エコハウス』が家庭と仕事を救う

こんにちは、ライターの飯田です。

東京から長野に移住して3年。自然あふれる豊かな暮らしに大満足しているものの、どうにも我慢ならないことがあって……。

それは、冬の凍てつくような寒さ!

氷点下を下回るのは当たり前。寒いというより「痛い」と感じる冷気に包まれる冬は、家の中にいてもしんどくて。古い家だと、結露した窓の水が凍っている、なんてこともざらです。

「寒いのが長野の冬なんだから、しかたない」と思い続けていたのですが、その考えはある人の家に泊まって一変しました。

その人とは、今回の取材相手である東野唯史(あずの・ただふみ)さん。

建築建材のリサイクルショップ「ReBuilding Center JAPAN」(以下、愛称である「リビセン」と呼びます)を諏訪市にて経営している東野さん。店舗設計なども数多く手掛けてきたけれど、最近では住宅用の古民家リノベーションも精力的に行っています。

こちらの写真は、どれもリビセンが手掛けたリノベーション住宅。

古材をあしらったデザインも素敵だけど、特筆すべきはその断熱性能。真冬の長野でも、薄着で心地よく過ごせる暖かさが家全体に広がるんです。

でも、本当に「断熱」ぐらいでそんなに暮らしが変わるの?
エアコンやストーブで暖房しておけばいいんじゃないの?

正直、そんな疑問も持ってしまいますよね。かくいう僕も、東野さんの自宅に泊まったことではじめて断熱の凄さを知りました。今では、新築ではありますが断熱について東野さんに相談しながら自宅を建てている真っ最中です。

暖かい家の魅力やそのつくり方を知ることは、長野で気持ちよく暮らし続けるためのヒントになるはず。

「断熱のことを、改めて教えてほしい」と東野さんにお願いし、実現した今回のインタビュー。まずは、「長野の冬は寒いんだから、我慢しなきゃ」という僕の思い込みを吹き飛ばした断熱体験から話は始まりました。

断熱の魅力は「家が暖かい」だけじゃない

インタビュー場所は ReBuilding Center JAPAN の社宅。肌寒い屋外とうってかわって、じんわり温かい室内で話が始まりました。

飯田
東野さんに断熱の計算をお願いしていた我が家、おかげさまでもうすぐ完成しそうです。
東野さん
お! よかったね〜。計算したけど、飯田くんの家はすごく暖かいよ。冬でも裸足で暮らせるぐらい。
飯田
そう言ってもらえると、余計に楽しみだなぁ。でも、本当に東野さんには感謝していて。僕が「断熱のいい家に住みたい」と思ったのは、東野さんの自宅に泊まったのがきっかけだったんです。
東野さん
真冬に泊まりに来てくれたんだよね。
飯田
はい、外は氷点下だったのに、家全体が本当に暖かくて。しかも、暖房が何もついていない。
東野さん
あの時は、朝方に薪ストーブを少し焚いたぐらいかな。日中に窓から入る太陽熱もあるから、それだけでも十分暖かいんだよね。
飯田
しかも、寝るときに「飯田くん、はい」って渡されたのがタオルケット1枚で。これで一晩過ごせるんだろうか、と不安だったんですけど、翌朝目覚めるとタオルケットから足が出ているぐらいでした。「冬にはたくさん暖房をつければいいんでしょ」と思っていた固定観念が、ガラッと変わりましたね。
東野さん
うん、俺も今の家に住んでからは、毎日ポカポカとした5月の暖かい陽気のなかで目覚めている感覚。
飯田
何もよりも驚いたのが、東野さんに「断熱のよさって、暖かいと感じることじゃないんだよ」と言われたことで。
東野さん
そうなんだよ。快適であることって、暖かいとも寒いとも感じない、いわゆる「不感」の状態のことなんだよね。だから、家の中での行動が全てスムーズになる。真冬に目覚めても、すぐに布団から出て、朝食を用意したり仕事をしたりできる。
飯田
寒いと、小さな家の中の移動でも億劫になるんですよね。トイレに行きたくても、冷えた廊下に出たくない……と我慢してしまったり。
東野さん
そうそう。フリーランスのように、自分の時間の使い方が生産性に直結する人こそ、断熱性能の高い家に住んだらいいと思ってる。朝から晩まで、家事や仕事に集中できるからね。もちろん、だらだら過ごしたっていいんだけど(笑)。
飯田
寒いとだらだら過ごすことだって難しいですからね……。
東野さん
断熱に力を入れることは、生産性が上がるだけじゃなく、健康面へのいい影響もあるんだよ。冷えないから風邪を引きにくい、というのもあるけれど、家全体で温度差がないからヒートショック現象が起きにくい。たとえば冬にお風呂場に入って、急な温度差で失神や心筋梗塞に繋がる現象のことだね。それに、体の基礎体温が上がるから、免疫力が高まるとも言われている。
飯田
そうか、暖かくて過ごしやすい、ということだけでなく、自分の体の健康にも直結するんですね。

リノベは「不幸な寒い家」をつくっていた?

飯田
性能の高い断熱を施すことが、仕事や健康といった僕たちの暮らしにダイレクトに影響してくる。だから、リビセンのリノベーションはどれも断熱に力を入れてるんですね。もともと、東野さんはゲストハウスや店舗のリノベーションを長らくされてきましたよね。断熱の重要性は、当時から意識していたんですか?
東野さん
いや、実はそんなことないんだよ。断熱を重要視するようになったのは3年前ぐらいからかな。それまでは「リノベで暖かい家は作れない」という先入観があったぐらいなんだ。
飯田
そうなんですか! 意識がガラッと変わった転機があったんですか? あ、もしかして、僕のように高性能断熱の家に泊まったとか?
東野さん
ううん、リノベでも高性能な断熱を実現できると知って、むちゃくちゃ勉強して、その理屈と効果に納得できたから暖かい家をつくることにしたんだよ。
飯田
すごく断熱オタクらしい発言だ……。
東野さん
ハハハ(笑)。もうちょっと補足するとね、知り合いが北海道に住んでいたんだけど、「こんなに暖かい家に住んでいます!」て Instagram にアップしてたんだ。家の中の温度計と、雪が積もった外の風景と一緒に。
飯田
それが新築ではなく、リノベーションされた家だったんですね。
東野さん
そう。リノベーションで暖かい家をつくることができる、というのが衝撃で。もしそれが本当なら、これ以上「不幸な寒い家」をつくらなくていい、と思って勉強するようになったんだ。
飯田
不幸な寒い家。家の中が寒いと精神的にも負荷がかかっている状態で、イライラして家庭内の喧嘩も増えると思うんですよね。断熱すれば、家族の関係性もよくなっていきそう。

断熱性能が高い「エコハウス」って一体どんな家?

飯田
今、リビセンがつくっている高性能の断熱を施した家は「エコハウス」と呼ばれたりもしていますよね。この「エコハウス」って、具体的にはどんな家のことを指すんですか?
東野さん
うーん、俺もわからないんだよね……(笑)
飯田
ええ……! 定義のない言葉なんですか?
東野さん
というよりは、様々な建築系の団体があって、それぞれの定義があるんだよ。その基準を満たすものが、エコハウスと呼ばれることが多いかな。たとえば国が定める「次世代省エネルギー基準」なんてものもあるね。
飯田
国が定めた基準。それが一番わかりやすそうですね。
東野さん
でもね、この基準で家をつくると意外と寒いんだよ。「次世代省エネルギー基準」は、基準が比較的ゆるい方なんだ。
東野さん
ざっくりとエコハウスと呼ばれる基準を上げていくと、「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」、「G1グレード」、「G2グレード」、「G3グレード」、「Q1住宅」、「パッシブハウス」が挙げられるかな。どれも見ている基準は微妙に違うから、一概に比べて「これが一番いい」とは言えないね。でも、たとえば「パッシブハウス」はかなり厳しい基準を持っている方で、おそらく日本に100件以下しかないんじゃないかな。
飯田
おお、たくさんの専門用語が出てきて頭がこんがらがってきました…… 。えーと、それぞれの細かい違いはあるものの、要するに「どれくらい断熱性能のいい家か」という目線で基準はつくられているんですか?
東野さん
うん、基本的にはそう思って大丈夫。断熱を意識した家づくりが、エコハウスの大きな特徴だね。とはいえ、「とにかく断熱性能のいい家を目指そう」とするのは危険なんだよ。
飯田
どうしてですか? 暖かければ暖かいほどいい気がしますけど。
東野さん
極端に言うとね、窓のない家をつくると断熱性能は高くなるの。窓は外気の影響を受けやすいから。だから、エコハウスを謳っている家の中には、法定サイズギリギリの小さい窓があるだけ、なんてところもある。でも、そうなると「景色がきれい」や「開放感がある」ということは犠牲にしてるわけだね。
飯田
そうか、断熱だけを意識して家をつくると失うものもある。
東野さん
そう。でもね、窓だって南側に大きく配置すれば、太陽の熱を効果的に取り込むこともできる。断熱材だけでなく、家全体のことを細かく把握して設計することが大切なんだ。家の性能を測るソフトがあるんだけど、断熱素材はもちろん、窓の向きや軒のサイズ、建物にどれくらい隙間があるか、換気設備の種類、家のどこが日陰に入るのか、そもそも家が日本のどこに建っているのか、さらには近隣の建物の位置まで……と、 細かく情報を入力すると家全体の性能が計算できる。飯田くんが建てている家も、俺がそれで計算したんだよ。
飯田
はい、細かく見ていただきありがとうございました(笑)。

本格的に断熱性能の高い家を建てたいと思ったら

飯田
実際に「断熱性能の高い家をつくりたい!」と思ったら、どこに相談するといいんでしょうか? 僕はリビセンに相談することができたけれど、長野県は広いし、それこそ断熱性能の高いエコハウスを求める人は全国にいると思うんです。
東野さん
ひとつには、「パッシブハウス・ジャパン」という団体に加盟している工務店・設計事務所に連絡してみるのが安心かな。断熱への意識が高い工務店が集まっているから、家を建てる地域に近い会社を調べてみるといいと思う。
パッシブハウス・ジャパンの会員一覧ページ。北陸エリアの設計事務所としてリビセンの名前も。
飯田
パッシブハウス・ジャパン。先ほど、最高級の断熱の基準として「パッシブハウス」という名前が出ていましたよね。
東野さん
そうそう。パッシブハウス・ジャパンはその認定をしている団体なんだけど、パッシブハウスだけを目指しているわけじゃないから安心していいよ。
飯田
なるほど! でも、加盟店が近くになく、ほかの工務店などに相談する時は、なんと言えばいいんでしょうか? 「暖かい家に住みたいです」とだけ言うのも、ざっくりしてしまっている気がして。
東野さん
「G2グレートの家にしたい」と言うのが、わかりやすい基準かな。リビセンもこの基準を超えるように家をつくってる。あわせて、「Q1住宅にしたい」「年間暖冷房負荷が50以下の家に住みたい」と伝えるのもおすすめ。工務店によってふだん使う基準がまちまちなんだけど、こうした質問をいろいろと投げかけて、それを理解しようとしてくれるところと一緒に家を建てることが大切だね。
飯田
なるほど、基準は複数あるけれど、「G2グレード」がひとつの分かりやすい目安なんですね。これを満たせばリビセンが手掛けるぐらいの暖かい家になる……!
東野さん
そうだね。本当は細かくそれぞれの基準の違いも説明できるんだけど、専門的で長くなり過ぎるから割愛しようか(笑)。大きくは断熱材の使用量や素材、他には家に隙間がないかといった気密性を見ているの。気になる人は、自分でも調べてみるといいよ。

エコハウスって、建てるのにいくらかかって元は取れるの?

飯田
あの、本当にケースバイケースだとは思うんですが、古民家をエコハウスにリノベするっていくらぐらいかかるんですか?
東野さん
うーん、ざっくりだけど、30坪で2000〜3000万円、てところじゃないかな?
飯田
家の購入費とは別で、純粋にリノベーションの費用としてそれぐらいかかる、ということですよね。やっぱり、初期費用は高くなってしまうんですね。
東野さん
そうだね。仮に新築でエコハウスを建てるとしても、4000万円以下でつくれたらいい方なんじゃないかな。
飯田
我が家はまさに新築でエコハウスを目指したんですが、知人には驚かれます。「そんなにお金かけたの!?」って。
東野さん
とはいえ、断熱性能の高いエコハウスは一般住宅と比べたら金銭的に優秀な部分もたくさんあるよ。たとえば、暖房効率が上がるから、冬にストーブをガンガン焚く必要はない。涼しさも維持されるから、夏のエアコン稼働も最小限でよくて、電気代はグッと下がる。
飯田
そうか、光熱費のランニングコストが下がるわけですね。今住んでいる家も、冬の光熱費は夏の2〜3倍になってると思います……。
東野さん
そうそう。それに、仮に住んでから10年経って、エアコンを買い換えなくちゃいけなくなったとするじゃない? 各部屋にエアコンがあったら全て換えなきゃいけないけれど、エコハウスだったらエアコンは家に1台あれば十分。この社宅だって、1階と2階それぞれで80㎡あるけど、エアコンは各階に1台あるだけ。ランニングコストだけでなく、そうした後々の維持費用も抑えられるから。
社宅の一室。各部屋には冷暖房器具が一切ないけれど、いたって快適だそう。
飯田
たしかにそうですね。ということは、初期費用が高かったとしても、エコハウスは長期的には元が取れる……?
東野さん
それはね、正直わからない(笑)。暮らし方次第だね。
飯田
暮らし方?
東野さん
冷え込む家に住んでいたとしても、廊下やお風呂場まで満遍なく温める人は少ないでしょ? もしそうするなら「エコハウスの方が絶対お得!」って断言できるけど、「冬はコタツにこもってるから大丈夫」と言われたら、そっちのほうがコストは低いだろうね。
飯田
「我慢するからいい」という暮らし方だったら、エコハウスじゃなくてもいいってことですね。僕も最近まではそう思ってたなぁ。
東野さん
あとはね、「元を取る」って話をどこまで広げるかなんだ。さっきも話したようにエコハウスはヒートショック現象が起きにくいし、風邪を引いたり体調を崩したりすることも減りやすい。そう考えると、病院に行く回数が減って医療費が下がるかも知れないよね。
飯田
あ、たしかに。
東野さん
もっと言えば、家の中での活動量が上がるから、体力も維持されて老人になってからの介護期間が短くなるかも知れない。考え出したらキリがないし、それら全部が断熱の効果だ、とは言い切れないよね。こんな風にいろいろな側面が関わってくるから、「エコハウスは元が取れるか」て答えづらい質問なんだ。
飯田
いえいえ、東野さんの言いたいことがよくわかりました。自分や家族の健康、自宅でどんな生活をしていくか、といった総合的な暮らし方で考え方は変わってくるということですね。

意外とかんたん? 気軽に試せるDIY断熱

東野さん
断熱はDIYでできることも多いから、まずは気軽に試して実感してみるのいいと思うよ。
飯田
え、そうなんですか! 具体的には何をすればいいんですか?
東野さん
古民家は屋根裏に潜れることも多いから、グラスウールと呼ばれる断熱材をそこに置く。あとは、隙間風を防ぐために畳の下に新聞紙が引かれていることが多いんだけど、それを防風シートに変える。ほかにも障子はそのままだと断熱性能がないから、アクリルやプラスチックの素材にしたりね。どれも、ホームセンターでかんたんに手に入るよ。
飯田
へー、意外と自分でもかんたんにできそうです。
東野さん
そうなんだよ。詳しく知りたい人は、『これからのリノベーション 断熱・気密編』という本がおすすめ。DIY断熱の話がたくさん載っているし、参考になるよ。

百聞は一見に如かず、断熱の優れた家を体験できる場所は増えている

飯田
東野さんの詳しい説明で、断熱のことがだんだんと理解できてきました。ただ、僕自身が家を建てる時に感じたことなんですが、言葉や知識だけだと「断熱性能の高い家」って実感できないんですよね。僕が断熱を意識するようになったのも、東野さんの家に泊まった時の体験が大きかったですし。
東野さん
そうだよね。俺は断熱を勉強していくなかで「これはいいものだな」と納得できたけど、妻は体感するまで半信半疑だったよ。でも、実際に知り合いのエコハウスに泊まったら「この家をつくろう!」って即決で。
飯田
一般の方でもそうした体験ができる場所ってないんでしょうか?
東野さん
断熱を意識した工務店を探して、そこがオープンハウスを実施する機会を待つ、というのはあるね。あとは、泊まって体験できる場所も増えてきているんだよ。
飯田
エコハウスならぬ、エコホテルってことですか!
東野さん
長野県で言うと、白馬に「haluta hakuba」があるね。あとは、富山県に「ホテルアクア黒部」というホテルもある。どちらも元々あった建物をリノベーションしていて、断熱にも力を入れてるから泊まって体験してみるといいよ。
飯田
なるほど。オープンハウスを見学するか、断熱に力を入れたホテルに宿泊するか、ですね。
東野さん
あとはもうひとつ。お店に古道具を並べたり、古材の釘抜きをしたりと、リビセンの業務を体験するサポーターズになったらこの社宅に泊まれます! なので、リビセンのサポーターズになるのもおすすめです(笑)。
飯田
東野さんがいれば、断熱について質問もできると(笑)。今日はありがとうございました!

まとめ

断熱の魅力って何なんだろう?
初期費用は高いけれど、長期的に考えれば元は取れるんだろうか?

東野さんとの対話で、これらの疑問はそのまま「自分はどういう暮らしをしたいのか」という問いとなって返ってきました。

暖かい家をつくることは、家族と一緒に営む生活、仕事、健康にまでじんわりと影響していく。

長野の冬は、嫌なところだけではありません。凛と透き通った空気や、雪化粧した山並みの美しさは長野暮らしの大きな魅力のひとつ。

きっと、エコハウスに住むことは長野の冬をもっと愛せるきっかけになる。暖かな社宅を去りながら、そんな確信を抱いて帰路につきました。

撮影:小林 直博
編集:友光だんご