移住したくなったら

とりあえず家買ってまえ!長野で100万からはじめる“飽きない”DIY地方移住

とりあえず家買ってまえ!長野で100万からはじめる“飽きない”DIY地方移住

地方移住をお考えの皆さん、長野に100万で買える古民家があると聞いたら驚きませんか?

昨年から猛威を振るう新型コロナの影響で、オフィス以外の場所で働くリモートワーカーが増大。こうした働き方の変化に伴い、都市部から地方へ移住をする人が増えているそうです。

トラックメイカーとして活動しながら、ブロガーとしても自身の生活にまつわるさまざまな情報を発信している観音クリエイションさん(以下、観音さん)もその一人。

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観音さんが住むのは、長野県信濃町にある築60年の古民家。なんと100万という格安価格で購入し、2020年の10月には移住前に住んでいた埼玉県から必要最低限の荷物だけを持って移住。DIYでコツコツ自分好みに改装しながら、新生活を楽しんでいるといいます。

今回はそんな観音クリエイションさんに、長野への移住を決めた経緯や移住後の変化、DIY生活の魅力についてお話を聞きました。

100万円で古民家を即日購入 妻には事後報告

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——観音さんは、なぜ長野県信濃町への移住を決めたのでしょうか?

元々旅をするのが好きで、よく海外にも行ってたんです。でも今回のコロナのせいで海外旅行の予定が全てなくなってしまって……。それで「日本で遊び場を見つけるしかない」と思いはじめたのが、移住への大きなきっかけでした。

——その“遊び場”を見つけるにあたって、具体的にどんなことを企画したんですか?

最初は大きなアメ車をメルカリで30万円ほどで購入して、車中泊ができるように改造しました。これがあればテントがなくても、車を「移動する家」として使いながら気軽にキャンプができるなって。

でも当時住んでいた埼玉の自宅からキャンプ場まで片道2時間ほど。往復4時間もかけて一泊して帰るみたいなことを繰り返すなら、もういっそのこと自然豊かな環境に住んだ方が効率がいいと考えたんです。

——なるほど。間接的ですがコロナが移住を後押ししたんですね。移住先を選ぶにあたってなにか条件はありましたか?

「一戸建て・自然の豊かさ・ある程度の利便性」の3つですね。最初は別荘地を中心に5軒くらい内見していました。でも、なかなか条件に合う物件は見つからなくて。そんな時にこの信濃町エリアの空き家情報を見ていたら今の家が掲載されていて、直感的に「ここだな」と感じたんです。

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観音さんが移住を決めた物件。2021年は移住需要が高まり、掘り出し物の物件は減っている

——なかなか立派なお家ですね! ちなみにいくらで購入されたんですか?

2020年夏時点だと元値は150万円だったのですが、家の中の残置物を自分で処分するという条件で最終的には100万円に値引きしてもらいました。

——100万……! 下手に軽自動車を買うのと同じくらいの金額ですね。でも観音さんってご結婚されてますよね。移住については奥さんも賛成していたのでしょうか?

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それが実は、内見をしたその日に即購入しちゃって……。

——え!

移住も家の購入も相談せずに決めたので、「長野で家買ってきた」と妻に報告したら地獄みたいな空気になりました(笑)。

——そりゃそうなりますよ! その後、どうなったんですか?

最初は驚いてましたけど、ていねいに長野に住むことのメリットとデメリットを説明しましたね。あとは実際に信濃町の家で何泊かして、最終的には妻も「移住するのが楽しみ」だと思ってくれたようです。

DIYは学びの宝庫。失敗しても100万円の家ならローリスク!

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——ブログで拝見したのですが、観音さんは家の改修をほぼすべて自分でやっていますよね。以前からこういったDIYは得意だったのでしょうか?

いや、それが全くの未経験だったんですよね。でも今は検索すればHOW to記事や動画がいくらでもありますし、それを見ながらならイケると思ったんです。今のところ問題なくやれてますね。(笑)

——学習能力が高すぎる……! でもプロにお願いしたほうが楽なのに、なぜあえて自分でDIYしようと思ったのでしょうか?

うーん、一言で言えば『知的好奇心』ですかね。家を自分でカスタムできる大きいオモチャに捉えると、なんでも楽しくなってくるんですよ。それにプロに頼んだとしても僕自身が素人なので100%自分のイメージを伝えるのって難しい。だったら自分で試行錯誤したほうがやりたいイメージに近づけれると思ったんです。

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漆喰の塗り直しも自身で行う

——とはいえ、一つ一つ試しながらやるのは大変じゃないですか?

もちろん素人なので、木材を一つカットするのにも時間がかかるし、100%綺麗にはならないです。でもそれも学びだと考えると、少しづつ経験が溜まっていく感じがして楽しいんですよね。

——苦労もすべて『学び』として捉えれば無敵だなぁ。長野といえば気になるのが寒さなんですが、冬の時期とか大丈夫なんでしょうか?

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観音さんの自宅から見た風景(1月に撮影)

いやそれが、大丈夫じゃなくて……。実はつい先日、留守中に電気工事を頼んでいた業者の方から「寒さで水道管が破裂して、玄関が水浸しになってます」って連絡があったばかりなんですよね。

——えー! 大変じゃないですか! いいことばかりではないんですね。

でも、これがもし数千万円かけた新築だったら相当ヘコむと思うんですけど、100万で買った家だって考えると「まぁええやろ」って気持ちになれるんですよね。

——値段が安い分、多少の失敗は許容できるゆとりがあると。

そうですそうです。最悪、もう一軒買ってやり直せばいいかって感じですね。少額で購入して自分でコツコツアップデートできる物件が豊富なところは、長野のいいところかもしれません。

次々とクエストが発生する、田舎生活の「飽きない」面白さ

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——信濃町に移住されてから8ヶ月ほど経ちましたが、なにか変化は感じますか?

肉体面でいうと、DIYが思いのほか重労働なので5kgほど痩せました。精神面では、頭がスッキリしているような感覚はありますね。信濃町は都会に比べて、街の喧騒とかビル広告みたいな強制的に入ってくる情報が少ないので、ノイズが減ったような気がします。

——地方移住の悩みとして、なかなか地域の人達と打ち解けられないという話を聞くこともありますが、観音さんの場合はいかがですか?

うーん、ぼくはあんまりそう感じたことはないんですよね。信濃町はウィンタースポーツなど観光産業がある程度栄えているので、むしろ県外の人に対してはウェルカムな雰囲気があります。ご近所さんもすごく優しい方ばかりです。

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——となると、移住によって暮らしはかなり上向きに変化したと。

そうですね。僕個人の見解でいえば、人が楽しく暮らしていくためには「飽きない」ことが大事だと思っているんです。その点でいうと、都会の生活はもはや攻略されきっていると感じることがあって。

——攻略されきっている……?

都会は交通の便だっていいし、食事にしろ娯楽施設にしろ、ありとあらゆるものが充実してます。成功事例もいっぱいあって、それに沿えばある程度の暮らしは担保されているかもしれない。けど、逆に言えばそれ以上のものはなかなか起こりづらいというか。

——あぁ……。便利さを得る一方で、毎日が単調になっていく感覚はよくわかります。

もちろんそれによって得る安心感もあるとは思います。でも、こっちで生活をしていると、家の改修作業からはじまり、夏の虫問題、冬の雪や寒さ問題、あげたらキリがないくらい色々なトラブルが起こります。そういったものをゲームのクエストみたいに楽しんでいたら、多分飽きないんじゃないかなって。

——たしかに、ある日突然水道管が破裂して玄関が水浸しになるなんて、都会ではなかなか経験できないことかもしれません。

ちょっと極端な事例ですけどね(笑)。だから、田舎ってなにもないよねって度々耳にしますけれど、僕からすると、いやいや全然スリルと刺激に溢れてるよって思うんです。

地方移住で収入・支出はどうなる?

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——気になるお金の話なのですが、移住されてから収入に変化はありましたか?

僕の場合は楽曲制作も執筆活動も、住む場所に左右されないので収入はあまり変わりませんでした。むしろ移住に関する取材や執筆依頼などが一気に増えたので、その分収入が少しアップしてるかもしれません。

——コロナの影響でリモートワークが普及したことも、地方移住への大きな後押しになりそうですね。

でも仕事に関して言うと、フリーランスの方は特に、移住先でも継続して依頼してもらえるよう、仕事相手との信頼関係をしっかり築いておくことが大切ですね。僕の場合、都内に行く必要のある仕事は別途交通費がかかります。それでも以前と変わらず依頼していただけるのは、きっとこれまで積み上げてきた信頼関係があるからだと思うんです。

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——ちなみに支出についてはどうでしょうか? 中古の一戸建てって売値は安くても、その後にかかる固定資産税や住居の修繕費で意外と高くつくイメージがあるのですが……。

それでいうと、固定資産税は年間18,000円くらい。あとは司法書士さんに支払う登記費用が10万円ほどかかりました。DIYの改装費はまだこれから着手する部分も残ってますが、不自由なく生活ができるまでに100万円もかかってないと思います。

——ざっくり計算しても、家の購入費と合わせても200万円弱。意外に少ないですね!

今はまだ埼玉の家も借りている状態ですが、長野の家の改装が終われば向こうの家を引き払えるので、だいぶ前の暮らしより楽になるだろうなって思ってます。 

「縛り」の少なさは、幸せな暮らしの重要条件

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——観音さんのように100万という低い予算の中でも快適に暮らす人がいる一方、都心では3、4千万円の家をローンで購入するのもいまだに一般的です。なぜそうなっていると思いますか?

うーん、難しい質問ですね。あくまで僕個人の考えですが、「そうするのが当たり前」ってみんな思い込みすぎているように感じます。僕にとっては4千万円の家も都会に住むこともマストじゃありませんし、「幸せ」の捉え方って人それぞれですからね。そもそも僕みたいなフリーランスはローンの審査が絶対通らない(笑)。

——ローンがあると会社も簡単には辞められなくなるし、一部の人にとってはとても都合がいい価値観なのかもしれないですね。

仮にもし4千万円の家を買うとなったら、その金額を稼ぐために時間を使うことになります。でもそれを100万円で済ませられれば、差し引き3900万円分の時間を他に使えるってことですよね。個人的にはそっちの方が楽しそうだと思ったんです。

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——どっちが楽しそう、というのは大切な判断基準ですね。最後に、これから地方移住を考えている方になにかアドバイスはありますか?

もし気になっている物件があるなら「とりあえず買ってまえ」です(笑)。今はAirbnbみたいな空き部屋を活用するサービスもありますし、買った後に住むのが難しくなったら、売るなり貸すなりしてもいい。

——なにより100万ですもんね。

いきなり家を買うのが怖いなら、マンションから始めるのも全然いいと思います。長野だったら都会の半額程度で借りれますからね。その上で、自分にとっての足るを知っていくことが、これからの時代には大切な気がします。

取材を終えて

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「みんなもっと軽いノリで家買ったらいいのに」。
そう話す観音クリエイションさんの口調は、とても軽やかでした。

私たちはなにかをはじめようとするとき、つい「失敗したくない」と考えます。先行きの見えないこの時代において、リスクを避けることはたしかに大切なことかもしれません。

でもリスクばかり考えて、何も行動せずにいることは果たして本当に正解なのでしょうか。

もしも本当に実現したい未来があるのであれば、観音さんのようにまずは好奇心のまま素直に行動してみること。そして例え失敗したとしても知恵を振り絞って対処し、その状況を楽しむこと。
それができたら、きっと私たちはどんな場所でも幸せに暮らしていける気がします。

文章:都田ミツコ
写真:小林直博
編集:日向コイケ(Huuuu)