
2025.12.18
20代が車なしで長野移住!? 無謀かと思いきや“生き抜く覚悟”が芽生えた
全国的にも自家用車保有率が高い長野県。長野に移住となると、「やはり車移動が必須……?」と思う方も多いかもしれません。
しかし、私は大の運転嫌い。25歳で長野市に移住した時も、「なんとかなるだろう!」と原付バイクと自転車だけを持ってきて、のらりくらりと車を買わずに5年が経ちました。
ありがたいことにいろんな人に助けてもらいながらここまで来ましたが、「このまま暮していけそう!」と「やっぱり車があったほうがいいんじゃ?」の狭間で揺れる日々です。
そこで今回は、「車なし」で長野移住をスタートした同年代に集まっていただき、座談会を実施。現在も車なし生活を送る風音が進行を務め、車を所有している人と、一度購入したにも関わらず手放した人の合計3人で、それぞれの長野での車なし生活のメリットとデメリットについてざっくばらんに語り合いました!
- <座談会参加者>
- 風音(長野市在住)
1995年生まれ、岩手県出身。フリーライター。
2021年に転職のため長野市に移住。
現在も車なし。
新荘直明さん(長野市在住)
1994年生まれ、茨城県出身。まちづくり・コミュニティ運営に携わるフリーランス。
2021年に転職のため小布施町に移住し、2025年に長野市に引っ越し。
2024年の春に一度車を購入し、同年の冬に手放す。
おゆうさん(信濃町在住)
1995年生まれ、鳥取県出身。「LAMP野尻湖」スタッフ。
2021年に東京都から信濃町に移住。
2024年に車を購入。
車なしで暮らすって本当にできる? 20代前半で長野に移住した体験談

- 風音
- 今回のテーマは「車なし移住」ですが、皆さんはそもそもどうして長野への移住を決めたんですか? 私は、新卒2年目で転職を考え始めた頃にたまたま長野市で気になる求人を見つけて。実際に数日滞在してみて、「ここなら徒歩圏内で生活を始められそう!」と思ったんです。運転が苦手だったことと金銭的な余裕のなさから、「車を買うかは落ち着いたら考えよう」と後回しにし続けたまま5年が経ちました。
- 新荘さん
- 僕も、前職を辞めて実家でのんびりしていた時にたまたま小布施町の求人を見つけて。「面白そう!」と好奇心だけで移住を決めました。いつまでいるかわからなかったので、まずは車を持たずに生活を始めてみることにしたんです。
- おゆうさん
- お二人と同じく、僕が信濃町に移住したきっかけもまさに「LAMP野尻湖」で働きたいと思ったからでした。免許は持っていたもののそれまで運転経験はほぼなく、「車なしでもいけるかな?」と試しに生活をスタートさせてみたら、意外となんとかなったという感じです。

- 風音
- おゆうさんの場合、県内でも比較的都市部な長野市や小布施町に比べると、山間部にある信濃町での車なし生活はハードルが高そうですが……?
- おゆうさん
- たしかに、信濃町は雪も降るし、車がないとスーパーにも行けないような田舎です。だけど、その中でも「バスは意外と走っているし、電車に乗れば長野市にも行ける」や「徒歩30分も散歩だと思えば楽しい」など、いろいろ試行錯誤する過程が楽しくて。それまでの東京暮らしに比べて、不便さすらも刺激的だったというか。

- 新荘さん
- 「歩くのが楽しい」という人なら徒歩生活は楽しめますよね。小布施町での車なし生活は不便がなかったと言い切ると嘘になりますが、同じく何とかなるレベルでした。しいて言えば、通院や検診は不便でしたね。そんなに頻繁にない機会だからこそ、地味に困りました。
- おゆうさん
- 僕も移住してきた直後に高熱が出た時は大変でした。誰かの車に乗せてもらうわけにもいかず、近くに病院がなかったので発熱しながら電車に乗って、そこからさらに歩いて病院まで行かざるをえなくて。
- 風音
- 分かります。私も引っ越して来たばかりのタイミングで免許更新があったんですけど、免許センターは市街地から遠く、頼れる人もまだいなかったので、寒い中原付で1時間ほどかけて行くしかなくて。病院や役所関係など、誰かに乗せてもらうには待ち時間が発生する用事は車がないとやっぱり不便ですね。
- おゆうさん
- それから、信濃町の場合は買い物には苦労しましたね。長野市に出るついでに買い物を済ませるなど、常にまとめ買いが必須でした。改めてネットショッピングのありがたみを感じました。

身ひとつで暮らしをスタートしたからこそ生まれた、生き抜く覚悟
- 風音
- 私も、お二人と同じく「車がなくても意外となんとかなった」という体感があります。でもそれは「車ないんだよね、買い物行くけど一緒に乗ってく?」と周りの人に助けられた部分がすごく大きくて。
- 新荘さん
- わかります。地域には手を差し伸べてくれる人が多いですよね。特に小布施町は、もともとインターンや町民会議などで外から積極的に若者を呼んできた土壌があって、1回しか会ったことないような関係性でも、地域のみんなが当たり前に乗せてあげるんです。私もかなり助けられました。

- おゆうさん
- 僕は移住直後、スタッフ向けのシェアハウスに住んでいたんですが、住民がみんな車を持っていたので頼らせてもらっていましたね。当時はまだ20代前半だったので、「何も持ってない若者」というカードを使ってかわいがってもらえた気がします。「徒歩で生活してる」ってある意味“裸”みたいなものだから、新参者でも警戒せずに受け入れてもらえた部分はあるかも。
- 風音
- 私もライターとして独立したばかりの頃に、「車なしのフリーライターが地方でどこまでやれるのか見せてよ!」とクライアントの方に応援してもらったことがあります。冬場に原付バイクで取材場所まで行ったら、「心配だから」と次回からは車で送迎していただいたことも。カメラマンやディレクターの方に同乗させていただく前提で、取材スケジュールを組んでいただくことも多いです。
とはいえ、どれだけ「車なしで頑張る!」と意気込んでいても、山奥の村の取材など公共交通機関ではどうしてもいけない場所も出てきますし移動に制限がかかるもの。『あの人は車がないから頼めない』と切られてしまわないよう、仕事の実力をつけないといけない緊張感はありました。

- 新荘さん
- それはありますね。実際いろんな人に助けてもらえたけれど、それはあくまで結果論で、「車がなくても助けてくれるでしょ」と受け身のまま来るのはあまりおすすめできないです。「車はないけど、それでもここでがんばりたい!」みたいな熱量を伝えることが大切ですね。
- おゆうさん
- 僕が信濃町で徒歩生活を始めたときは、歩いて暮らしているやつなんて相当珍しかったので、LAMPスタッフ内で「おゆうが歩いてるのを見かけるといいことがある」みたいなジングスが生まれたんです(笑)。そうやって認識してもらえたおかげで、早く職場や地域に馴染めた気がします。
- 新荘さん
- 「歩くだけで目立つ」というのは、都会で暮らしていた頃はあり得ない現象だったので新鮮ですよね。
- おゆうさん
- LAMPのサウナの火入れは朝7時から始まるんですが、冬は雪で歩きづらいのを見越して6時には家を出て、雪に埋もれながら1時間かけて出勤するんです。今思い返しても、本当によくやっていたなと思います。「俺は一体何をしてるんだ?」って自分の状況を面白がると同時に、「行けるとこまで行ってやるぞ!」と自分を奮い立たせられた部分はあったのかもしれません。

- 新荘さん
- 文字通り自分の足を使って生活していると、「自分はここで生きている」という草の根感がありますよね。
- 風音
- その不便さすら、生きている実感につながっているのは面白いですね。

車はなくても生活はできるけれど、暮らしに変化が欲しくなった
- 風音
- ここまで聞いてきて、お二人は車なし生活にそこまで不便を感じていなかったということですよね。そんな中、どうして車を買うことにしたんですか?
- 新荘さん
- 実際、移住から3年くらいは問題なく生活できていたんですけど、シンプルに車のない暮らしに飽きたんです。長野は広いですし、車があれば行動範囲が広がるなと。他にも、自分は環境系の仕事をしているので、電気自動車に乗ってみたくて。そうしたら、たまたま中古の電気自動車が55万円ほどで見つかったので試しに買ってみたんです。

- 風音
- 実験感覚で!実際に乗ってみてどうでしたか?
- 新荘さん
- いざ車を手にしてみたら、案外使わないなと(笑)それから、電気自動車は山道を走るとすごい勢いでメーターが減っていくんです。でも、山奥の道だと登った先で車を充電できる保証がない。遠くに行きたくて車を買ったのに遠出が怖くなってしまって。
- 風音
- 本末転倒ですね。

- 新荘さん
- はい。充電料金は月1500円ほどで意外とリーズナブルではあったんですが、私はあくまで遠出をすることが目的だったので、維持費や固定費を考えて1年足らずで手放すことにしました。なので、今は再び徒歩生活を謳歌しています。
- 風音
- なるほど……。車を買うとなると一大決心な気がしていましたが、試しに手にして、手放したっていいんだ。おゆうさんはどうですか?
- おゆうさん
- 僕も新荘さんと同じく「飽きた」というのが大きいかもしれません。信濃町で暮らし始めて数年が経ち、仕事やプライベートでいろいろあって、うだつが上がらない時期が続いたんです。そうすると、だんだん歩くことが面倒になって。移住当初のように車なし生活を面白がるエネルギーが尽きてしまい、漠然と「遠くへ行きたい」と思うようになっていきました。

- 風音
- 「何も持ってない若者」ゆえのエネルギーと、好奇心が尽きてきたんだ。
- おゆうさん
- そうしたら、ちょうどその頃に同い歳の同僚がかっこいい車を買った話を引き合いに出すことが多くなったんです。彼は、車を買った途端に仕事がうまくいくようになり、結婚の話も出て、ポンポンと人生が進んでいったぞと。それで、LAMPのみんなに「かっこいい車を買うと人生が変わる。おゆうも車買っちゃいなよ!」と言われて。
- 風音
- つまり、車が欲しいというより人生に変化が欲しかったということですか?
- おゆうさん
- そうなんです。仕事だったり人だったり「長野に面白そうなものがある」という好奇心ベースで移住して来ると、僕らみたいにいずれその好奇心が枯れるときが来ると思うんです。移動手段を変えるというのは行動の選択肢が大きく広がるので、好奇心の復活にもつながるんじゃないのかな。今日は自分のその車に乗ってきたので、お披露目してもいいですか?
- 風音
- おー!ぜひぜひ!
車を手にしたことで、自己肯定感が上がった

- おゆうさん
- これが僕の愛車のミラジーノです。欧風デザインの中古車で、新潟県の上越のディーラーから70万円程度で購入しました。
- 風音
- わ~、かわいい車ですね!国産の軽自動車でもこんなデザインの車があるんだ。
- 新荘さん
- でも、こんなにかわいい車で信濃町の冬は耐えられるんですか?
- おゆうさん
- 雪道の運転は、最初は戸惑いましたが慣れたら案外平気でした。むしろ運転よりも除雪の方が大変でしたね。大雪の日は、朝と仕事の休憩中、帰宅後の計3回駐車場の除雪をしました。車を停められない、外に出れない、という状態が1番どうしようもないので、とにかくリスクヘッジで前もって除雪するようにしていました。

- 風音
- 豪雪地帯ならではの苦労! 車を買えば便利に、というわけにもいかないんですね。先ほど「人生に変化が欲しくて車を買った」とお話がありましたが、実際この車と出会ってから人生は変わったんでしょうか。
- おゆうさん
- 変わったと思います。というのも僕、車を買った瞬間に「もう車なくていいや」と思ったんですよ。
- 新荘さん
- えぇ、どういうことですか?
- おゆうさん
- 車に乗ることじゃなくて、「車を買うと決断できた自分」に価値があったなと。何も持たずに信濃町に来た自分が、車を買う決断ができるようになったぞと自分を肯定できたというか。

- 風音
- たしかに、私が車を持たずにいるのは「自分は運転ができない」や「大きい買い物をするのが不安」という自信のなさもあるかもしれません。
- おゆうさん
- そうそう。僕もこれまで無意識のうちに、「維持費を払う余裕がないかも……」と自己否定を繰り返してきていたんですよね。僕はこの車を買うためにローンを組んでいて、まだ返済中なんですが、車は「自己肯定感を得るためのサブスク」だと思っています。
- 新荘さん
- 車だけじゃなくて、自己肯定感も手にしたんですね。
- おゆうさん
- だけど実は今、車を手放すかどうかの瀬戸際にいるんです。この1年、僕の乗り方が悪かったのか、信濃町の冬とよっぽど相性が悪かったのか、いたるところが故障するようになってきて。これまでも維持費に15万円ほどかけてきたんですが、いよいよ次の車検で50万ぐらいかかりそうだと。
でも、この車に「この冬を乗り越えられるのか?」と問いかけると同時に「俺はこの先どうするんだ?」と自分自身に向き合う良い機会にもなっています。今まで乗せてくれた人たちへの感謝の気持ちもより感じるようになりましたし、人間的に成長が出来たので、いざこの車を手放すことになっても後悔はないと思います。
車から見えてくる、「持ちつ持たれつ」の関係性の豊かさ

- 風音
- お二人の話を聞いてみて、車を持つまでいかなくてもせめて運転にチャレンジしてみようかなと思えました。先日、パートナーの運転で飯山をドライブしたときに、「見て見て!山がきれいだよ!」と声をかけても、彼は知らない道を走るのに精一杯で景色を楽しむどころじゃなくて。長野は景色のいいところが多いし、自分の運転で走れたらもっと暮らしを楽しむ幅が広がるのかなぁと。
- 新荘さん
- たしかに、車を持つ持たないの前に「ハンドルを握る」という選択肢がありますよね。
- おゆうさん
- もし今後本格的に運転をする気になったら、自動車教習所の初心者講習がおすすめですよ!1コマ5000円で2時間弱くらい運転の練習をさせてもらえるんです。僕も、いざ車を買う前はやっぱり運転が不安だったので、1コマだけ受講したんです。
- 風音
- それはありがたい情報!
- 新荘さん
- 一度運転してみることで、見える世界が変わってくると思いますよ。私は車を持って生活が全部1人で完結するようになって、「なんだか寂しいな」と思ったんです。自分でどこにでも行ける自由と引き換えに、誰かとコミュニケーションする機会を失ってしまったんじゃないかと。ちょっと不便でも、誰かに「乗せてください」と頼ったり、そのお礼に何かお返ししたり、誰かの車に乗せてもらう生活って豊かだったなと気がついて。それも私が車を手放した理由のひとつですね。

- おゆうさん
- たしかに、僕も車を持っていなかった頃は乗せてもらった分、よく「これ手伝ってくれない?」といろいろ頼ってもらいました。それに、これまで助けてもらった分、車を持った今は自分が若いLAMPスタッフを車に乗せてあげたいって思うんですよ。
- 新荘さん
- かつて車に乗せてくれた人に「今度は自分が乗せてあげる」という形の恩返しをするのは難しい。だから、今度は自分が外から来た人や下の世代を助けてあげたいなと思いますよね。そうやって地域の中で関係性が巡っていくんじゃないでしょうか。必要に迫られていなくても、暮らしを面白くするひとつの選択肢として運転をしてみるとか、車を持ってみた後で手放すという選択もありだと思いますよ。
編集:吉野舞
撮影:小林直博

