
2026.03.13
ひとつの学校が地域の風景を変えていく。日本初のイエナプラン校・大日向小中学校の7年目
こんにちは。
ライターの小林です。
近代教育の基礎を築いた人物を数多く輩出したことなどから、「教育県信州」と呼ばれている長野県。SuuHaaでも過去の記事で、「探究」をキーワードに、ウェルビーイングを実現するための教育が展開されていることを取り上げました。
そんな中、長野県にユニークな教育を行っている学校があることを知っていますか? それが佐久穂町にある「しなのイエナプランスクール」こと大日向小・中学校です。

聞き慣れない「イエナプラン」とは、ドイツで広がりオランダで発展した、一人ひとりを尊重しながら自律と共生を学ぶオープンモデル型の教育のこと。2019年4月に開校した大日向小学校は、日本で初めて認可されたイエナプラン教育校です。

異年齢でクラスが編成されたり、学校から与えられた時間割をこなすのではなく毎週自分で1週間の学習計画を立てて過ごしたり、校舎を出て地域の人から学びを得たり……イエナプランでは、さまざまな取り組みがなされているんです。
また、授業の1日の始まりと終わりには、輪になって語る対話の時間もあるんだとか。


時間割も行事も、学び方も子どもたちがつくる学校。
そんな大日向小・中学校では、日々どのような学びが生まれているんだろう?
大日向小・中学校を訪ねて、先生や生徒たちに話を伺うことにしました。
地域と関わることで得られる「本物性」
まず話を聞いたのは、大日向小・中学校を運営している学校法人茂来学園の理事・塚原諒さん(写真右)と大日向中学校の青山光一校長(写真左)。学校の成り立ちから話を聞きました。

- 小林
- まずはどうして佐久穂町の山あいに、このような学びを提供する学校をつくろうと考えたのか、その背景から教えていただけますか?
- 塚原さん
- まず日本でのイエナプランについて少し遡って話しますね。2000年代中頃から日本イエナプラン教育研究会(現:日本イエナプラン教育協会)が中心になって勉強会などの活動を始めた結果、全国の学校でもイエナプランのエッセンスを取り入れた授業を実践する先生方が出てきたんです。
でも、先生個々人の努力に頼るだけでは限界がある。そこで自分たちが追い求める教育を体現できる学校をつくろうという機運が高まっていきました。

- 青山校長
- もともと私自身も公立小学校で教師をしていた中で、イエナプランに出会って感銘を受けた一人。複数学年での探究学習を取り入れるなど、独自にイエナプランのスタイルを日々の教育に取り入れていましたが、細かくルールが定められている公立学校では実践できる範囲に限界があるんですよね。
- 塚原さん
- そこで、公教育の場でイエナプランを実践しようと考えて、モデル校となる小学校と中学校を設立しようと動き始めたんです。
いくつもの地域を回る中で出会ったのが、佐久穂町にあった廃校になったこちらの校舎。

- 塚原さん
- 地域とともに育っていく学校を目指していた準備財団のみんなは、集落の真ん中にある校舎を見て、なんだかピンと来たそうなんですよね。しかも、廃校になっていた校舎を再び学校として活用しようという計画を、大日向地区の方々がとても喜んでくれたのが大きな後押しになりました。
- 青山校長
- 世の中ではさまざまな廃校の活用がされていますが、おそらく再び学校として使うケースは珍しいと思います。

- 塚原さん
- この地域は、山あいにあってずいぶん前から人口も減っていましたし、廃校になる際には、生徒数は10数人だったそうです。
- 小林
- 地域とのつながりを大切にしたい大日向小・中学校と、子どもたちで賑わう風景を取り戻したい大日向地区の思いが重なったんですね。
- 塚原さん
- そうして、佐久穂町でイエナプランスクールの設立を目指す財団を立ち上げることに。学校設立前から「季節のがっこう」という一般に開かれた学校体験プログラムを提供したり、地域の清掃などの活動に参加したりと、地域に少しずつ入らせていただきながら設立準備を進めました。「大日向小学校」「茂来学園」という学校名や法人名も地域のみなさんと一緒に考えたんですよ。
- 小林
- 学校の名前まで一緒に!
- 青山校長
- 2017年から準備を始めて約2年。2019年4月に開校し、日本初のイエナプランスクールとして認定されました。現在の児童生徒数は小中あわせて約250名で、地域と関わりながら学ぶ学校として歩みを重ねています。
「ブリコラージュ」的な学校づくり
- 小林
- 開校後、どのような学校づくりをしていったんですか。
- 青山校長
- たとえば、運動会などの行事を地域のみなさんと一緒に取り組んだり、給食を地元産の食材を使ったバイキング形式の食堂にして地域に開いたり……開校翌年からコロナ渦となり、活動の一部は縮小せざる得なくなりましたが、地域との関わりは大切にしていることのひとつです。校舎から少し離れた畑をお借りして試行錯誤しながらプルーンを育てています。




- 小林
- 地域と一緒にいろんな取り組みをしているんですね。
- 塚原さん
- たとえばプルーン畑に行けば、「プルーンってなんでこんな色なんだろう」「他の果物とどう違うんだろう」「採れたプルーンを使ってどんなことができるだろう」……などと学びの種がいくらでも転がっているんですよね。身の周りにあるものからリアルな問いを見つけて、地域の人たちと一緒になって考えていく。そうした「ブリコラージュ」的な学びのスタイルは、大日向小・中学校らしさでもあるのかなって思います。
- 小林
- ブリコラージュ?
- 塚原さん
- これは、2026年に開校する中等教育学校のコンセプトやあり方を模索する中で出てきた概念。手元にある道具や材料を寄せ集めて、試行錯誤しながら新しいものや解決策を作り出す技術や知恵のことです。大日向小・中学校の学びは、まさにそのブリコラージュ的なプロセスに近いと思っていて。
先ほどのプルーンの話も、プルーン畑に出て目にするもの、人と会って気づくものから「何ができるだろう」「こんなことができるんじゃないか」と発想を広げていく学びでした。あれこそまさに、ブリコラージュだなと思っています。

- 小林
- なるほど。ただ「イエナプラン」「ブリコラージュ」みたいな難しい言葉が多くて、慣れない人にはちょっと受け入れにくそうな気もするんですが……。
- 青山校長
- たしかに一見、カタカナばかりで難しそうに感じるかもしれません。でも、実際には、そんな特殊なことはしていないんですよね。
- 塚原さん
- おそらく昔は、みんなブリコラージュ的な暮らしをしていたと思うんですよ。畑に種を撒いては、上手くいったりいかなかったり。「なんでだろう?」と考えて、何度も試行錯誤しながら暮らしていたはず。そうした集落の暮らしを、別のかたちでやっているだけだと思うんです。
- 青山校長
- まさにそう。「イエナプランという新しくて斬新な教育をやりましょう!」というよりは、「そもそも人間らしい学校をつくっていきましょう」という、ごく当たり前のことなんだと思っています。学びを深める、人と一緒に生きる、という人間本来のあり方を学校という現場で実践しているんです。

- 小林
- ふむふむ。そう言われると、たしかに今の学校教育の方が逆に特殊なのかもしれませんね。
大日向の生徒に、ここでの学校生活を聞いてみた
先生たちの熱心な語りを聞きましたが……子どもたちは、ここの教育をどう感じているのかが気になりますよね。ということで、大日向中学校の皆さんに話を聞いてみました。
町外から移住して大日向小学校設立当初から通っている中学2年生のはんなさんとくるみさん、そして中学2年生から通っているげんくんが、大日向小・中学校での学校生活について話してくれました。

- はんなさん
- 入学したばかりの小学2年生の頃は、周りから評価されたくて、“THE・優等生”って感じでした。それまで通っていた公立小学校では、ちゃんと宿題をこなして、先生たちには敬語を使って……みたいな。でも、大日向小・中学校では人と比べて評価されること自体がほとんどないし、ましてやそういう表面的な行動だけで判断されることはない。むしろ「媚びを売っている?」とか「おもねってる?」みたいに見られてしまうようなことも。なので、いろいろわからなくなってしまって、最初の1年間は、授業時間に校庭で遊んでいたりとか。
でも、小学3年生のとき、「グループリーダー(※)」が私にすごく親身に関わってくれて。そこから「1年間の遅れを取り戻そう。困難があっても最後までやりきってみよう」と思えるようになって、九九も漢字も何もわからないところから頑張るようになったんです。
今振り返れば、授業に出ていなかった期間も自分にとっては必要だったんじゃないかなって思えます。そうじゃないと、ずっと周りに気に入られようとする自分でいただろうな、と思うから。あれだけ自分を自由にグレさせてくれた分、今は勉強も自然と頑張れるようになっています。
(※)大日向小・中学校では、いわゆるクラス担任のことを「グループリーダー」と呼ぶのだそう。

- くるみさん
- 私は、もともとすごく人見知りで。集団で自己紹介するとき、自分だけ黙りこくってしまうくらい人前で話すことに苦手意識があったんです。でも、大日向小・中学校に来てみると、自分が発言したことに対して、冷やかすことなく耳を傾けて共感してくれる人が周りにいました。そんな環境があったから、だんだんと人前でも自分を出せるようになってきて、中学校では自分から生徒会や催しの実行委員会を務めるようになったんです。今では、人前で話すのが楽しいとすら思えるくらい。
年齢を重ねてきたというのもあるけれど、その成長期間を大日向小・中学校で過ごせたのはすごくよかったです。一緒に頑張って、泣いて、笑ってくれる人たちが周りにいるから、自然と成長している感じ。クラスのみんなが家族みたいな感じです。

- げんくん
- 入学してからもうすぐ2年になるけれど、大日向中学校に来たばかりの頃と比べて、だいぶ大人になったかもしれません。それまでは“ただうるさい子ども”だったというか(笑)。今は前より、周りを見れるようになったと思います。
あと、大日向中学校はご飯がめちゃくちゃおいしい。地元の食材を使った料理がバイキング形式で提供されるのが嬉しいです。おやつを食べられるのもいい。午後はお腹すいちゃうから(笑)。

この環境でそれぞれ大きく成長していることが、3人のエピソードで感じられたところで、再び塚原さんと青山校長と話をすることに。

- 小林
- いやぁ……中学生で自分のことをあれだけ理解できて、すぐに言葉にできるのってすごいですね。
- 塚原さん
- 僕も久しぶりに彼・彼女らの話を聞いて驚いちゃいました(笑)。自分のことを客観的に理解するメタ認知力がある。さらに、初めて接する大人に対しても自然体でコミュニケーションできていた。
- 青山校長
- 学校で1週間どうやって過ごすのか、毎週自分で計画を立てて行動する。そうした自己選択・自己決定をして、振り返って、フィードバックをもらって……といったサイクルを小学1年生から繰り返してきているのが大きいですよね。
その習慣が身についていると、自分はどんなことが好きで、どんな人間で、どんな学び方が向いているのかが、すでにわかっている状態になるはず。メタ認知力と他者とコラボレーションする力が自然と養われていったんでしょう。
- 小林
- いきいきと話す3人の姿を見ていると納得です。
行き詰まる学校教育に、新たなかたちを

- 小林
- 2019年に大日向小・中学校が開校して約7年が経ちましたが、ブリコラージュ的な学校づくりを続けてきて、何か見えたものや変化を感じることはありますか?
- 塚原さん
- ひとつ挙げるとすると、こういう学校づくりをしていた影響があるのかわかりませんが、近隣でお店を開く人が増えたんです。調べてみたら、学校が設立されてからの約7年間で個人店のカフェなどが15店舗ほど増えているらしいんです。これって保護者やその周りの移住者の方が、地域に根ざしながら暮らしを営もうとしている表れでもあるのかなと思っています。

- 小林
- 学校の中だけではなく地域にも変化が起きているんですね。これからの学校づくりについて、どんなことを考えていますか?
- 青山校長
- ひとつは、不登校やいじめなど既存の学校教育のあり方が問われている中で、新しい可能性を提示したいということ。大学入試を頂点として設計された教育では、どうしてもそこからあぶれてしまう子どもが出てくるし、最後まで勝ち残った一握りが成功するといった仕組みになってしまう。
みんなうっすら今の学校教育の仕組みでは立ち行かないことはわかっているけれど、それに変わる教育のあり方や学校の形が見つかっていない現状なのかなと。だからこそ、既存の学校教育にはなかった学びのかたちを示すことには、一定の価値があると思っています。

- 小林
- ちなみに卒業後の進路ってどのように考えていますか?ユニークな環境だからこそ、卒業したあとの進学先や就職先でギャップを感じてしまうことなどあったりしないのかなって。
- 青山校長
- 最初に話をしてくれた3人の生徒のように、中学生の時点で、あそこまでメタ認知力とコラボレーション力があれば、問題ないと思っています。もちろん自分たちの考えを実際の社会でアウトプットすると、いろいろな場面に遭遇するかもしれません。理解してもらえなかったり、相手にされなかったり、打ちのめされることもあるでしょう。でも、そんな実践も学びに変えていくはず。
この学校で育つのは、窮屈な世界に適応するよりも、そんな壁さえも壊して、みんなが気持ちよく生きられる世界を自分たちでつくっていくような人間です。
それに、2026年度からは大日向中学校は、大日向中等教育学校に改編されます。これは中学校3年間に相当する前期課程と、高校3年間に相当する後期課程が一体となった中高一貫校です。小学校から合わせて12年間を過ごす中で、より地域と学校のつながりや人間らしい学びを得られる環境を確立できたらと思っています。



- 塚原さん
- その後は、起業してもいいし、世界を旅してもいいし、専門学校行ってもいいし、就職してもいいし、もちろん大学に進学してもいい。あれだけ自分のことを理解していて、周りとコラボレーションできる能力が身についていたら、18歳の時点で自分で人生を主体的に選択できると思うんですよね。

- 青山校長
- そうそう。中等教育学校ができることで、より地域との関わり方も広がりそうだと思っています。今からあれしよう、これしようというよりは、新しくできる校舎に身を置いて、子どもたちが通ってみて、そこから生まれるものをみんなで楽しみながら、学びをつくっていけたらと思っています。
- 小林
- 学校のあり方自体も、模索しながらつくっていくと……。
- 塚原さん
- 僕は、みんなで100年、200年と続く学校にしていきたいです。佐久穂町の人が考える時間軸って長いんですよ。農業って何年もかけて試行錯誤を繰り返すし、林業も100年単位で山の使い方を考えなければならないし、いかに集落を代々継いでいくかという課題をみんなが共有している。せいぜい2、3年先しか見ていなかった自分の視野が狭かったなと実感しています。

- 塚原さん
- 理事として学校経営に携わっていると、学校運営を続けることの難しさに常に直面することになる。正直、これまでは理事長の寄付に頼っていた側面がありました。でも、それでは持続可能な学校経営はできません。
学費や寄付金など、いかにみんなから応援してもらえる学校であり続けられるか。それはこれからの課題だと思っています。その取り組みの一環として、今年クラウドファンディングにも挑戦することにしたんです。佐久穂町から、この教育のあり方を提案し続けられるように、これからも全力で取り組んでいきたいと思います。

最後に
取材の際、塚原さんが新しくできる大日向中等教育学校の校舎を案内してくれました。


話を聞くと、教室には壁がなく常にオープンな状態だったり、廊下にはフリーに使えるデスクや書籍が並ぶ本棚が設置されたり。ほかにも机を自由に移動できる理科室や、家庭のキッチンをイメージした家庭科室など、大日向中等教育学校らしい工夫がいくつも散りばめられていました。
予算の関係もあって敷地内の3棟のうち真ん中の棟は開校時にはほぼリノベーション工事はしないそう。「子どもたちとみんなでどんな空間にするか、考えながらつくっていけたらいいかなって」と塚原さんは笑います。

大日向小・中学校ができてから、子どもたちや地域にたしかな変化が生まれてきた7年間。これから中等教育学校もできて、どんな生き方がここから芽生えてくるのか、個人的にも楽しみです。
[おしらせ]
大日向小・中学校を運営する学校法人では、大日向中等教育学校開校に向けたクラウドファンディングを実施中です(期間は2026年3月19日まで)。詳細は下記ページをご覧ください。
撮影:丸田平

