2022.04.22
よりよい学びを求め、家族みんなで長野へ!教育移住を決めた母親たち3人にリアルな本音を聞いてみた。
ここ1〜2年、妊娠と出産を経験したことで、暮らしの見え方がガラッと変わりました。
「山や森が近い場所に住みたい」や「なるべく実家の近くがいい」など、これまで気にとめてなかったようなポイントを、生活において重視したいと思うようになりました。これまで自分の一存で決めていた住環境を、家族あるいは子どもに焦点を当て、変える人は多いのではないでしょうか。
今回は、お子さんの進学をきっかけに長野に引っ越してきた「教育移住」を選んだ3名の女性に集まっていただき、座談会を実施。
ライターで、1児の母でもあるナカノヒトミが進行を務め、教育移住のきっかけや不安、暮らしの気づきなどざっくばらんに語っていただきました!
- 座談会参加者(仮名)
- 緑さん(軽井沢町在住)
2020年に風越学園への編入のために首都圏から移住。
小6、小4、小2、小1、幼稚園児の子どもがいる。
美穂さん(御代田町在住)
2020年に風越学園への編入のために関西から移住。
小2の子どもがいる。
加奈子さん(御代田町在住)
2021年に大日向小学校入学のために首都圏から移住。
小1と幼稚園児の子どもがいる。
地域の中で子どもを育てられる環境を求めて
ーー今回のテーマは「教育移住」ですが、そもそもどうして長野の学校を選び、移住を決めたんですか?
- 加奈子
- うちは夫が教育熱心だったんです。日本初のイエナプラン教育を取り入れた大日向小学校(※1)や、風越学園(※2)で行われている先進的な取り組みに魅力を感じ、移住しました。
- 美穂
- 子どもが育つ環境を考えていたときに、風越学園のことを知人づてに聞いたり、説明会に参加するうちに、その教育スタイルに感激して、真剣に移住を考えるようになりました。
- 緑
- 夫と私はともに教育系の仕事をしており、たまたま夫が風越学園の理事長とお話をする機会があったんです。「ここなら子どもにとってよい環境かも!」と興味を持ち、移住に踏みきりました。
ーー教育移住について提案したのは、ご夫婦のどちらからだったんですか?
- 加奈子
- 夫が受験について調べるなかで、大日向小学校と風越学園を知ったんです。もともとは、東京の私立を検討していたんですが、調べるにつれ、この2校に惹かれていって。それに、夫の祖母が高山村の出身だったので、毎年長野に来ていたことも大きいかも。
- 緑
- うちはどちらかと言えば、私からかな。教育関連の仕事をしているので、様々な教育の知識はあったのですが、いざ子どもを通わせることになったときに、実は地域の公立校がいちばんいいんじゃないかって思ったんです。
- 加奈子
- へえ!それはどうしてですか?
- 緑
- 「地域の中で育ってほしい」、「たくさんの人に揉まれて育ってほしい」って気持ちがあったんです。先進的な考えの学校を選ぶと、少人数のコミュニティになってしまうのではないか、という懸念もあって。
風越学園は先進的でありながら、移住者も地元民も、いろんな人が関わる学校だと聞いていたんです。ここなら、地域と関わりを持ちながら、子どもたちにとって伸びやかな学びの場になるかもしれないと感じたんです。
- 美穂
- 私も同じ考えですね。最初は地元の公立の小学校に通わせました。その小学校は評判も良く先生方も勉強に関して熱心でしたが、それが娘には厳しく感じられたみたいで、時々疲れて休むようになって。
明るく、「勉強大好き!」と言っていた娘がもう少しそのままにのびのびできる環境をつくってあげたい思いが夫婦共にあるなか、主人の仕事の切り替わりのタイミングでもあったので、視野を広げて移住を考えられました。
※1 大日向小学校
2019年、南佐久郡佐久穂町に開校。オランダで広まった児童の特性を活かしながら学ぶ「イエナプラン教育」を日本で初めて取り入れた私立の認定小学校。2022年4月には中学校も設立される。
※2 風越学園
2020年、北佐久郡軽井沢町に開校。3歳から15歳までが同じ学び舎で学ぶ私立の幼小中混在校。幼稚園児・小学生・中学生が混ざり合い、遊びから学びを生み出すカリキュラムが特徴的。
子どもが納得した上で移住へ踏み切る
ーー教育移住は、お子さんの意見も判断の肝になりますよね。どのように移住や転校について伝えましたか?
- 美穂
- 伝え方の難しさを感じましたね。学校説明の動画を見せながら「行きたい?」って聞くけど「受かるかわからないから、いけないかもしれないけどね」って付け足すような(笑)。娘は陽気な子なので、そんな親のあたふたする姿も「大丈夫、大丈夫!」って笑って受け入れてくれたので、ありがたかったです。
- 加奈子
- うちは3つの選択肢があることを伝えました。東京の私立、こちらの公立、それから大日向小学校。学校案内を見せて、「このどこかに行くかもしれないよ!」と言いました。
合格発表の少し前に軽井沢に宿泊したのですが、ホテル併設のスケートリンクでスケートをしたら「ここに来る!」って言うようになって。よっぽど楽しかったみたいです(笑)。毎週末に家族全員でスキーに行くこともあり、子どもにとってウィンタースポーツも楽しめる移住は、ポジティブに捉えられたようでした。
- 緑
- 下の3人は「お母さんがいいならいいよ」ってそんなにこだわりがなくて。ただ、当時小4だった長男だけは「友達と離れるのはどうかなぁ」と悩んでいましたね。公立の小学校に満足していたし、サッカーのクラブチームでもブロック選抜になったりとうまくやっていたので。だから、最終的に移住は長男の判断で決めようと思ったんです。
- 美穂
- 納得できたんですね。
- 緑
- 「こういう学校があって、いいと思ってるんだけど」って話を何回かしたら、ある時「それめっちゃいいじゃん!」って。何度も伝えていたんですけどね(笑)。「自分で自由に自分の学びを組み立てられる」という部分が、彼に刺さったみたいです。「友達とは引っ越してもうまくいけるし!」と納得していました。
車の運転、寒さ、湿気。移住で感じた困りごと
ーーいざ移住するにあたって、不安だったことや、移住の前後で暮らしのギャップはありましたか?
- 緑
- まず困ったのは、ペーパードライバーだったこと。特に、冬の雪道の運転は不安でしたね。車はこっちに来るタイミングで慌てて購入して、マンツーマンで教えてくれるペーパードライバー教習を受けました。
- 美穂
- 車の運転、わかります。
- 緑
- 一台あれば大丈夫だと思ったけど、来てみたら夫婦で一台ずつないと困ることに気づき、慌てて中古車を追加で買いました(笑)。当時は不安でしたけど、今は車の運転は慣れだな、と感じています。
- 美穂
- 私は、いまだに運転が怖いですね。ありがたいことに、友人家族と共同で分担しながら、子どもの送り迎えをできているので本当に助かっています。今後、私も運転を頑張らなきゃなって思っています。
- 加奈子
- 私の場合、困りごとほとんどないんですけど、あえてあげるなら寒さかな……。北海道出身ですが、雪の降らない底冷えする寒さが苦手で。実際、こっちにきてから湿気と結露に悩んでいます(笑)。
- 一同
- わかる!
- 美穂
- 加奈子さんはご主人の意向で移住が決まりましたよね。不安を感じていないのがすごいです!
- 加奈子
- こっちに来る前に、屋久島に家族で半年ほど暮らした経験が大きいかもしれないです。どこに行っても暮らしていけるんだなぁ、と思っているかも。家族も自分も、心身ともに健康ならそれで大丈夫。そんな気持ちが根底にあるのかもしれない。
- 緑
- 3人とも仕事柄、引っ越しや移動が多いので移住には向いている性格なのかも(笑)。
理想の物件探しはむずかしい
ーー移住で住まいは大切な要素のひとつですよね。物件探しや暮らす場所は、どのように決めましたか?
- 加奈子
- 日当たりのよさや、佐久穂町にある小学校へのアクセスを考えると、本当は佐久平に住むのがベストでした。
ただ、せっかく首都圏から引っ越すのに、便利な街に住むのはどうなんだろう?と考えて。とはいえ、佐久穂町周辺の古民家も検討したものの、あまりいい物件に巡りあえず。今は、ギリギリ学校にも通える御代田の貸別荘を借りて住んでいます。
- 緑
- たしかに、物件探しは本当に難しいですよね。特にうちは人数も多いですし。学校の近くに住み、子どもが自立して学校に通える暮らしをつくりたいと思っていたんです。ただ、風越学園の近辺で物件を探しても、理想に叶う物件はひとつしかなかったので、そこに決めました。
- 美穂
- 我が家は、庭付きの物件を買って庭づくりをしたいと思って、空き家バンクで探したりしていました。不動産屋さんで軽井沢も勧められたんですが、なかなか条件が合うところはなく、最終的に御代田の賃貸物件にたどり着きました。
- 緑
- 住まいを考える際には、移住した方のブログを読んだり、町内のバスの時刻表を見て暮らしのイメージを膨らませたりもしましたね。
- 加奈子
- 我が家は、学校までの送迎をどうするか、下の子の幼稚園についてなど、夫に全部決めてもらいました。移住してからメインで子どもを見るのは私なので、こっちに来て困らないよう、ちょっとわがままを言ってお膳立てしてもらいました(笑)。
- 緑
- 子どもにとっての心地よさももちろんですが、東京からのアクセスのよさもかなり大切だと感じました。新幹線も通っている軽井沢だからこそ、仕事をしながら暮らすのが可能だな、と現実的に思えたのは大きい。うちは、風越学園が軽井沢になかったら移住に踏み切れなかったかも。
新たな場所で暮らしを楽しむ
ーー軽井沢と御代田、実際に移住してみての住み心地はいかがですか?
- 緑
- 同じ長野県内の地域でも、その土地それぞれの色というか、カラーがあっておもしろいですね。住み始めてみると、「軽井沢はみんなが休みに訪れるところなんだな」と感じています。だからこそ、軽井沢で暮らしを営んでいくためには、「生活するぞ!」という意識を持っていたいですね。
- 加奈子
- そうか、みんなはバカンスに来ているけど、暮らすために軽井沢にいるんですもんね。
- 緑
- 夫は東京と軽井沢を行き来しているので、オンオフの切り替えができて健やかさを保っているけど、私は軽井沢で仕事をすることがほとんど。自然の多い暮らしには満足していますが、気づいたら気持ちが少し鬱々としちゃうこともあって……。
- 美穂
- 軽井沢と移住前に住んでいた地域はちょっと似た気風があるかもしれません。どちらにも「静かに変わらない暮らしを続けていきましょう」という空気が流れていて、心地よかったんです。
一方で、夫はもう少しアクティブに動きたい人で。娘も夫に似たところがあるので、家族全体で見たときには違う空気感の場所に行った方がいいのかも!……という思いがありました。軽井沢は住み慣れた土地と似た雰囲気ではありつつも、新しい環境に夫と娘は生き生きとしていますね。
- 加奈子
- 夫婦や家族が地域の水に合うって、移住においては大切な要素かもしれませんね。
- 美穂
- 家族もですが、友人関係も大切ですね。移住仲間にはオープンでアクティブな人が多いから自分ひとりではやり始めないことに挑戦する機会も多く、新鮮な毎日です。
- 加奈子
- うん、おもしろい大人が多くて、チームプレーを楽しむ気風がいいですよね。この間はイベントで一緒に、漬物を漬けましたもんね(笑)。またぜひやりましょう!
教育移住の心境を率直に話してもらった座談会。3人で会うのは初めてながら、「今度あのお店に行きましょう!」「このキャンプ場よかったですよ」と情報交換をする場面も。
家族で一緒に見知らぬ土地に引っ越す、教育移住。不安や悩みもきっと多いけれど、「家族みんなでよりよい暮らしを叶える」という気持ちが、何よりの原動力になるのだと教えてもらった座談会でした。
撮影:丸田 平
編集:飯田 光平