移住したくなったら

稼ぐビジネスには「色気」が必要。田舎にどんどん人を集める集客理論!

稼ぐビジネスには「色気」が必要。田舎にどんどん人を集める集客理論!

稼ぐビジネスには「色気」が重要。

そんな視点、持ったことがありますか?

いや、むしろ数字やマーケティングの論理的思考が大事だろ!と言いたくなるかもしれません。しかし、やっぱり人のニーズを満たすビジネスには「色気」が関係している可能性がある。。

それは「色気」が、いいビジネスに求められる細やかな「想像力」と人を楽しませる「あそび心」、そしてたゆまぬ「努力」の賜物でもあるから。今回は、そんなお話です。

今年3月に開催された長野県主催のトークイベント「シシコツコツ」。

この日は、長野にゆかりのある4人のゲストが「生きるとあそび」「しぜんと人があつまる」をテーマに、それぞれの活動やそのあり方について語り合いました。

当記事では、「しぜんと人があつまる」に登壇した、吉原ゴウさん(株式会社アースボート)と鳥羽周作さん(sio株式会社)のトークセッションをピックアップ。

吉原さんは信濃町を拠点にトレーラーハウス型の宿泊施設Earthboatを展開、鳥羽さんは小谷村でレストラン「NAGANO」を運営しています。

インバウンド需要による訪日外国人の増加や「関係人口」創出の動きなど、地域への人の関わり方が変化し続けている今、長野を拠点にビジネスを展開するふたりは、どのようにして地域に人が集まる仕組みをつくろうとしているのでしょうか。

聞き手は、官民事業のプロデュースやコンサルなどを行っている株式会社anの代表で、立教大学客員教授の永谷亜矢子さんが務めました。

参加者プロフィール
ゲスト:吉原ゴウ/よしわら・ごう(株式会社アースボート代表取締役)
1982年長野県生まれ。2007年-2022年まで株式会社LIGを経営し、IT産業に従事。株式会社LAMPを創業。2022年株式会社アースボートを創業し、代表取締役に就任。アウトドアスクールを経営する家庭で生まれ育ち、子供の頃よりカヤック、スキー、山菜取りやキノコ刈りなどをして育つ。長く東京でIT業界に身を置いていたが、田舎の自然の魅力や、アウトドア体験をコアとしたビジネスをするために長野県信濃町にUターン。

ゲスト:鳥羽周作/とば・しゅうさく(sio株式会社 代表取締役)
Jリーグの練習生、小学校の教員を経て、31 歳で料理の世界へ。2018年「sio」をオープン。現在、「sio」「Hotel’s」「o/sio」「o/sio FUKUOKA」「パーラー大箸」「㐂つね」「ザ・ニューワールド」「おいしいパスタ」「NAGANO」「FAMiRES」と10店舗を展開。書籍 / YouTube / SNSなどで公開するレシピや、フードプロデュースなど、レストランの枠を超えて様々な手段で「おいしい」を届けている。モットーは『幸せの分母を増やす』。

聞き手:永谷亜矢子/ながや・あやこ(株式会社an代表取締役/立教大学客員教授)
東京ガールズコレクションの創立時にチーフプロデューサーに就任、同イベントの運営会社F1メディア(現W TOKYO)の代表取締役社長として広告・マーケティング業務にも携わる。退任後、吉本興行のプロデューサーおよび執行役員として海外及び行政事業、PR統括業務を担当。2016年株式会社anとして独立後、幅広いキャリアを活かし、官民事業のマーケティング ・PRコンサルティングやメディア・イベントなどのプロデュースを行う。近年は立教大学経営学部客員教授として、10箇所の地方・地域創生を担っている。

好きなことを仕事にしているおじさん

永谷
司会を務めさせていただきます、永谷亜矢子です。

私は東京ガールズコレクションや吉本興行のプロデューサーなどを経て、現在は日本の観光開発の分野でマーケティングやPR、コンサルのお仕事などをさせてもらっています。

地方創生にはいろいろなかたちで関わっていますが、以前から長野にはおもしろい人たちが集まっていると聞いていて。

今日はその長野で注目のビジネスを展開されるおふたりにお話を聞かせていただけるということで、とても楽しみにしております!

まずは鳥羽さんから自己紹介をお願いできますでしょうか。
鳥羽
こんにちは、鳥羽です。

東京にあるsioっていうレストランなど、飲食店を9(2024年9月現在は10)店舗経営してます。そのうちのひとつで去年、小谷村に「NAGANO」っていうレストランを開きました。
永谷
どういう経緯で始まったものだったんですか?
鳥羽
小谷村の栂池自然園で「OTARI弁当」っていう商品のプロデュースをやってて、よく村には仕事で来ていたんですが、あるときに、使われていなかった茅葺屋根の古民家を改装して、そこで事業をする人を募集するという話を聞きまして。

実際に物件を見させてもらったら、それがあまりに立派だったんで、思わず「なんかやります!」って言っちゃって、それで始まってます(笑)
昨年7月1日にオープンした「NAGANO」。小谷村の古民家再生プロジェクトの指定管理をsio株式会社が受託し、運営を行っている
永谷
確かにめちゃくちゃ立派!
鳥羽
これはうちの会社あるあるなんですけど、次から次へと仕事を増やして、投資額が莫大になって、キャッシュフローの回収が間に合わないっていう。で、毎月赤字出して焦げつくっていう(笑)

あと、プライベートでいろんなことがあったんですけど、それがさらにキャッシュを吐き出してしまいまして……今、常に懐が厳しい状態です。
永谷
いろんなことが(笑) 鳥羽さんは普段は東京にいらっしゃる?
鳥羽
そうですね。『NAGANO』の運営は長野の人たちに任せてるので、自分は主に全店舗のメニューを考えたりとか、SNSでバズるレシピを考えて発信したりとか、そういうことをよくやってます。
永谷
SNSの発信、私も見てます。鳥羽さんが紹介する商品ってめちゃくちゃ売れるらしいですね!
鳥羽
こういうのやったらみんな喜ぶだろうな〜っていうのを見つけてくるのがすごい好きで。頼まれてもない商品を勝手にPRしちゃうんすよね。

これが企業案件だったら普通に仕事になるやつだと思うんですけど、そういうことはまったく考えてなくて、純粋にみんなをハッピーにさせるレシピを発信するのが楽しいからやってます。

「おいしい」で世の中の課題を解決したいっていうことを、ピュアに思ってる料理好きのおじさんですね。よろしくお願いします。
永谷
ありがとうございます! 後ほどまたお話を聞かせてください。続きまして、吉原さんお願いします。
吉原
こんにちは、ゴウと申します。

Earthboatっていう、トレーラーハウス型の宿泊事業を展開しております。

41歳、長野県信濃町生まれです。実家が野尻湖畔でアウトドアスクールと宿をやってて、そこで育ちました。
永谷
ゴウさんって、あのLIGの代表だった方ですよね!? めちゃくちゃおもしろいWebコンテンツをつくる会社。
吉原
調べていただいてありがとうございます。LIGは20代のときに東京に出て、立ち上げた会社ですね。

LIGは一昨年に代表を退任しているんですけど、その仕事をやっていたときに、実家の宿を改装するかたちでLAMP野尻湖という宿を立ち上げまして。
永谷
こちらも有名なゲストハウス。サウナ好きの聖地とお聞きしてます。
吉原
これも運営は仲間たちに引き継いでて、じゃあ自分は何をするかなーとなったときに思いついたのがこのEarthboatでした。
サウナ付きのトレーラーハウス型宿泊施設「Earthboat」の外観
永谷
スタイリッシュ! 建築的にもめちゃくちゃこだわりがありそうですね。
吉原
説明すると長くなっちゃうんですけど、まず、大人が3人まで泊まれます。クイーンサイズのベッドを設置しています。きれいなトイレとシャワー、キッチンもついてます。サウナもあって、室内はしっかり温かくて、豪雪地帯でも機能します。

これ1台で、宿の部屋としての機能はぜんぶ満たされてるよっていう、そういうプロダクトですね。
永谷
へぇぇ。きっとものすごく緻密に設計されてるんでしょうね。
吉原
そうですね、かなりこだわってます。

Earthboatは今、LAMPで3台稼働してて、4月1日にこれを10台設置したEarthboat Village Kurohimeという「村」のような場所が、LAMPから車で15分くらいのところにオープンします。

その次が白馬ですね。軽井沢、群馬みなかみ町、高知でもプロジェクトが進んでます。※1

(※1)Earthboatは2024年9月現在、長野県内の4拠点で営業中。

永谷
続々と!
吉原
自分はやっぱり宿が好きだし、「サウナ」「田舎」「建築」など、これまで自分が関わってきた文脈で全国に広がる新しいビジネスをやりたくて。

そういう意味では、Earthboatは自分の人生の集大成でもありますね。

そんな感じで、東京時代からずっと自分の好きなこと、楽しいことをやり続けているおじさんです。今日はよろしくお願いします。
永谷
ご自身の好きなことを仕事にしているふたりのおじさんたち! 引き続きいろいろとお話を聞かせてください〜。

元の人がやる「熱量」

永谷
おふたりとも東京でのお仕事を経て、あるいは並行しながらというかたちで、長野で事業をされています。インバウンド需要も見込まれての展開なのですか?
鳥羽
外国人観光客の多い白馬に近い立地なので、それを意識することももちろんあるんですけど、それよりも地元の人が食べに来られるとか、そういうことを大事にしたいと思ってますね。
永谷
地元の人。何か取り組みをされてたりもする?
鳥羽
いろいろありますね。例えば、村役場と連携して地元のおじいちゃんおばあちゃんの送迎をしたりとか。営業を週4日にして、残りの3日は村の人たちと料理教室や畑をやったりとか。

地域との関係性を深めることに、積極的に時間を費やしてもらってますね。

なんで正直、稼ぐことが二の次になってるんです。会社のメンバーたちから文句を言われることもありますが(笑)
永谷
鳥羽さんだったらきっと、稼ごうと思えば稼ぐ店つくれそうですよね。
鳥羽
ハイエンドな店をつくろうと思ったらできることはたくさんあります。だれだれのすごいりんごを使ってとか、どこどこのすごいサーモンを使ってとか、シェフはこんなすごい人でーとか。もちろんできますよ。

僕はそういう店を否定しないです。でも、自分にはもうトゥーマッチなんです。

僕は今46歳ですけど、残りの人生を考えたときに、今から予約が取れないような流行りのレストランをつくりたいとは思わないです。それよりももっと、地域的で、愛にあふれた温かい世界をつくりたいです。
永谷
でも鳥羽さんって、長野出身じゃないですよね? 長野という離れた地域に関わることをどう考えていらっしゃるのですか? 批判もあったりするのでしょうか?
鳥羽
はい。このあいだニュースにも書かれたんですけど、「鳥羽はぜんぜん『NAGANO』に行ってない」みたいな。

でもね、僕からすれば、それって大した話じゃないんですよ。全然本質的じゃない。

僕は地域をよくすることに興味があって、それを人の縁があった長野でやっているだけ。大事なのは、地域をよくするための全体のデザインであって、僕がいるかいないかってことじゃないんですよ。

僕がいなくても、そもそも店は生き残っていかないといけないんです。
永谷
確かに鳥羽さんがいないと店が成り立たないっていうのは、ビジネスとしてはとても頼りない感じがしますね。
鳥羽
はい。だから「NAGANO」の運営は長野出身のシェフにやってもらってるんです(※2)。長野のことは長野の人がやるのが一番だからです。それが長野にいい文化をつくることになる。

店の名前を「NAGANO」にしているのも、小谷村を含めた長野という地域全体を応援するレストランをつくりたいと思ったから。

僕はそのグランドデザインをしているんです。

(※2)2024年9月現在、NAGANOは新体制に移行中。

永谷
なるほど、腑に落ちました。
鳥羽
僕は一歩俯瞰した立場で、「NAGANO」が長野という土地にあることでもたらす効果を10年くらいかけてつくっていこうと思っているから、単純に食べログの点数が高い店をつくるとかは興味ないんです。

地域の人たちに愛されて持続する、そういう店が今の時代にもっと必要だし、僕が長い目で育てていきたい店なんですよね。
永谷
ゴウさんは今のお話を聞いて、どう思われました?
吉原
よくわかりますね。

会社組織としてビジネスをやっているのだから、『NAGANO』を任されている人たちがしっかりとその地域に根を張っていれば何の問題もないことだと思います。

僕もEarthboatの運用は地元の人にやってもらうことが一番だと考えてます。
永谷
地元の人に運用してもらう。どういうビジネスモデルなのか、少し教えていただけますか?
吉原
さっきの鳥羽さんの話じゃないですけど、宿業もキャッシュフローって厳しいんです。

僕は実家が宿をやっていたから分かりますが、設備投資して、土地開拓して、実際に運用してっていうのは、非常に大変で。なので、Earthboatはフランチャイズのモデルになってます。
永谷
フランチャイズ、ですか。
吉原
はい。それぞれのローカルで宿業をやりたい、サウナをやりたい、なんか新しい事業をつくりたいっていう人たちにEarthbortというプロダクトを提供して、運用してもらうということですね。
永谷
ゴウさんは、Earthboatというプロダクトのメーカーのような?
吉原
そうですね。ですが、売って終わりということではなくて、それが持続的に運用されるための仕組みづくりまで考えています。
吉原
まず、導入のところからお話をさせていただくと、ビレッジのようなかたちで複数台導入する場合、ローカルの事業者さんが初期投資で億単位のお金を出すってなかなかむずかしいですよね。
永谷
ですね。リスクを考えちゃうと思います。
吉原
そこでEarthboatは、一棟一棟を投資家さんに販売するということもやっています。

要は、所有権は投資家さんだけど、運営はローカルの人たちにやってもらう、そういうモデルも用意しているということですね。

じゃあなんで運営をローカルの人たちにやってもらうのか。それは、熱量が大事だからです。
永谷
熱量。
吉原
ローカルのことはローカルの人が一番よくわかっています。自分の街のことだったら、必然的に力が入ります。

それがEarthboatの場合は、地場でがんばってる企業さんと連携するということですね。そういう企業さんと連携していくと、そこにはすでに人間関係がある。地元にも話が通りやすい。

僕も信濃町でいろんなことをやってきましたけど、「ゴウくんがやるんだったら」ということで、たくさん受け入れてもらいました。

僕も地元の信濃町のことなら本気でやりますし、地元の人にしかできない運用っていうのはあると思っていて。
永谷
鳥羽さんが「NAGANO」の運用を、長野出身のシェフに任せている話とつながりますね〜。

ゴウさんも鳥羽さんと同じように、地域をよくするためのデザインという考えはありますか?
吉原
もちろん地域が盛り上がってくれたらうれしいことですけど、Earthboatにはもう少し個人的な表現みたいなところもあって。

僕は自分なりのアプローチで、自分が心からいいと思えるものをつくって、それに興味を持ってくれる人があつまってきて、おもしろいねって言ってくれる、そのプロセスが好きなんです。

Earthboatが全国に広がれば、僕も各地に関係性が生まれていくので楽しいですし、あそびに行ける場所が増えて人生退屈しないなぁって思ってます。

考え抜かれたEarthboatのビジネス

永谷
引き続き、ゴウさんにお話をお聞きしますけれど、こういうローカルを軸にした宿の発想って、ゲストハウス文化の広まりもあって、全国的にも増えていると思うんですね。

でも実際やってみると、サービスが大変だっていう話も聞くんです。それが持続できないからやめざる得ないとか、現実問題としてあると思うんですけど、そのあたりはどう考えますか?
吉原
その観点はまさにで、宿業っていうのは、設備投資の次にオペレーションコストがかかるんです。フロント、レストラン、清掃、もろもろやらなくちゃいけなくて、それが重い。

僕はそれも経験してます。大変なのは分かってるんです。なので、Earthboatはキャンプをベースにしました。
永谷
キャンプをベース?
吉原
ご自身で勝手に行って、勝手に楽しんで、勝手に帰ってくださいねっていうかたちです。

キャンプって基本的に自分のことは自分でやりますよね。でも、満足度が高い。自分でやるのは楽しいんです。
永谷
じゃあEarthboatって、キャンプのテントに代わるものというイメージ?
吉原
アウトドアのハードルを下げるプロダクトと言ってます。

テントって雨降ってたら設営が大変ですよね。シェラフで寝るのも慣れてないとよく寝られないですよね。体が汚れてもシャワーをすぐに浴びられないですよね。トイレも近くにないし、汚かったらいやですよね。

そういうアウトドア体験にありがちな問題は、全部このEarthboatが解消してるんです。
永谷
確かにきれいだし、シェルターとしてもかなり優秀そう。
吉原
テント泊よりもずっと上質なものを提供しますよ、しかも温かい薪ストーブのサウナがついてますよ、トイレ、シャワーも共用じゃないですよ、クイーンサイズのベッドで寝られますよ、でも体験としてはキャンプなんですよっていう提案なんです。

そうすると、スタッフがいらないんです。
永谷
スタッフがいらない……サウナは? 火入れとかやってあげる必要ありません?
吉原
これも自分でやってもらいます。薪ストーブなんですけど、着火剤と細めの薪を用意しといて、自分で焚き付けしてくださいねっていうかたちでやってます。

この運用で1年やってますが、火がつけられないと連絡してきた人は一人だけでした。ほとんどのみなさんは自分で火をつけられます。
Earthboatに導入されているNARVI社製薪ストーブ。熱効率の良さが特徴
永谷
何かあったときに対応する人はいるんですか?
吉原
います。でも、現地にスタッフを配置するのではなくて、どこか地域内の別の場所で事業を展開されている方々が、必要に応じて駆けつけるというかたちを取っています。

Earthboat Village Kurohimeの場合は、LAMPがそれを担っています。なので、事業者は基本的には清掃コストしかかかりません。
永谷
それは導入のハードルが低く感じますね。

でも、躯体の価格がありますよね。一個人・企業として購入する場合、いくらで販売してるんですか?
吉原
車両価格で言うと1台1500〜1600万円ですが、土地の足元をどれだけ整えるかで金額ってかなり変わってくるんです。

なので、今の価格感で言うと、宿として機能させるまでにかかるコストは2500万〜という感じですね。
永谷
宿の初期投資としては相当安いですね。トレーラーだから、移動もできる?
吉原
できます。ただ、積極的に移動させるイメージはないんです。これも大事なんですけど、いざというときに動かせるっていう考え方なんです。
永谷
いざというとき。宿をやめなければならなくなったときとか?
吉原
そうですね。僕の地元って、つぶれたペンションやホテル、朽ち果てた別荘とかがたくさんあるんです。バブル期につくられて、それが今廃墟になってます。

取り壊すにも費用がかかるから、そのまま放置されていて。僕はそういうのをずっと見てきたので、もう廃墟を増やしたくないんです。

だからEarthboatは移動式にしました。その場所で使わなくなったら移動できるということはつまり、土地を元の姿に戻せるということですね。
永谷
負の遺産を残さない、と。
吉原
はい。さらに、Earthboatは別の場所で使いたいという人に売ることもできます。そのための、セカンダリーマーケットの構築も今進めています。

自分で手じまいができる。将来に柔軟な選択肢がある。そういう合理的なものにしたいなと思って、これをつくりました。
永谷
はー、考え抜かれてますね。勉強になってます。
吉原
しかもこれ、建築としておもしろいことをやっています。シャーシは鉄なんですけど、上物はほぼ国産のスギ材でできてるんです。

CLTっていう合板なんですけど、これ、大阪万博の巨大リングで使われてるものと一緒です。かなりの強度があります。

Earthboatがつくられればつくられるほど、日本の杉が活用されます。間伐材問題の解消にもつながります。CO2削減にも貢献します。日本にスギの花粉症が少なくなるかもしれません。

重度の花粉症の自分からすると、売りまくりたいプロダクトなんです。
永谷
マーケティングしまくってますね、自分の体験を!説得力がすごいなぁ。

「モテ」は想像力である

鳥羽
いやぁ〜ゴウくん。今の話はほんとモテるね。
僕が言うのもなんですけど、これは全部がモテる話だって思いながら聞いてました。
吉原
鳥羽さんにそんなこと言ってもらえるなんて、恐縮です(笑)
鳥羽
色気があってモテるっていうのは、世の中の人に好かれるっていうことだから、言い換えれば、求められるってことじゃないですか。求められるっていうのは、ビジネスになるっていうことですよ。
吉原
ありがとうございます。モテっていうことだと、僕はこのEarthboatをつくるときに、口説きたい人を連れて泊まりにいきたいかどうか、っていうことを意識したんですよね。

だって好きな人と泊まりにいくのに、ビジネスホテルには行かないじゃないですか。セクシーじゃないとだめなんです
鳥羽
わかります。
吉原
そういう観点で設計して、ある程度のレベルに到達すると、単価っていうのは必然的に上がる。そこを目指しましたね。

それでいうと、鳥羽さんの「NAGANO」もすごくセクシーだったけど。
鳥羽
はい、意識しましたから。

というのも、僕は何ごとも「モテ」って大事だと思ってるんです。「モテ」るためには、相手のことを一生懸命に考えないとだめ。

いいですか? 大切なのは・・・

想像力なんすよっ!!!
永谷
(鳥羽さんの熱量)
鳥羽
だから、モテるやつほど細かいんです!

でもそりゃそうじゃないですか? 相手のことを考えて、細かいことをやるから気持ちが伝わるし、人はそれに見合ったものを返そうと思うものです。

「NAGANO」では鮭定食を3300円で出してるけど、あれはめっちゃモテるんです。(※3)
(※3)2024年9月現在、鮭定食の提供は行っていない。
永谷
え、どういうことですか?
鳥羽
例えば、好きな人と飯を食いにいくでしょ? 立派な魚が出てくる。そしたら骨問題出てくるでしょ? この骨、どこに出せばいいの〜?ってなるでしょ。皿の端っこに置くしかないとか。

それ、いやじゃないですか? 目の前に好きな人がいるんですよ??
永谷
え。ああ、はい。
鳥羽
でもうちの鮭定食なら大丈夫! 骨、全部抜いてるから。
吉原
一本一本抜いてる!?
鳥羽
抜いてます。だから、モテちゃうの。
永谷
(細かい仕事だ)
鳥羽
こんなもんじゃないですよ? うちの仕事。ほかにも緻密なことをめちゃくちゃやってます。

僕はよく「このおっさんマーケティングうまいね」って、嫌味っぽく言われるんですけど、マーケティングだけで5年間満席の店はつくれないですよ。

モテっていうのは、マーケティングの先の話なんです。相手のことを考え抜いて、感動体験を与え続けるから「モテ」るんです。
吉原
楽しませるって大事だなって思いますね。火をつけることひとつでも、自分たちでやってみて、それがうまくいけば感動体験になる。やってよかったねってことになる。

Earthboatはそういうアウトドアの感動体験を提供するツールでもあると思っていて。
鳥羽
いいですよね。そこがちゃんとお客さん目線でしっかり考えられてるからゴウくんのEarthboatは「モテ」るんです。

何度も言いますが、大切なのは想像力。それは、愛なんです。

あそびを知り、「モテ」を生み出す

永谷
やっと鳥羽さんのモテ理論がわかってきました(笑)

でも、体験価値をつくるって、自分が価値をわかってないとつくれないですよね? ふたりはその価値を知ってる人なんだろうなって思いました。
吉原
アウトドアの楽しさということで言えば、僕は小さい頃からたくさんアウトドアのあそびをしてきていて、その価値は知ってます。だから、Earthboatでもその楽しさを提案できると思ってて。

逆に、あそんでない人があそびの価値を提供するのってまじでむずかしい。やっぱりあそびの経験が必要なんだろうなって思います。
鳥羽
めっちゃわかりますよ。

だから僕はお金がなくてもグリーン車に乗るんです。なんでか。それは、グリーン車の価値も語れる人間でありたいからです。

そういう「幅」を知っている人間じゃないと「モテ」は生み出せないんです。
永谷
もう鳥羽さん、モテ宗教やってください(笑)
鳥羽
やろうかな(笑)

あと僕はもうひとつ大切なことがあると思っています。それは、誰に「モテ」たいのかっていうこと。

僕は自分のレストランでいろんな評価を受けてきてますが、自分なりに魂を込めて料理をつくってきたから、そのことに想像力が及ばない人にモテたところで、正直あんまりうれしくないんです。

僕は評価する側のリテラシーも大切だと思っていて、それが育まれていくことによって、世の中が多少マシになっていくような感覚もあるんですよね。
永谷
私は今日のおふたりのお話を聞いていて、たくさん「あそぶ」って大事なのかなーって思いました。リテラシーもそうだけど、それが想像力を育んで、社会にいい「モテ」を広げるんじゃないかと。
鳥羽
あそびということで言ったら、僕はゴウくんともっとあそびたいですね。

白馬にEarthbort Villageができるという話だけど、うちの「NAGANO」からも近いし、何か提携してサービスを提供できたらおもしろいね。

というか今日、僕はその話をしたいと思って来てます(笑)
吉原
いいですね、何か一緒にやりましょう!

これは今日鳥羽さんと話して思ったことですけど、たぶん「モテ」ることをやっていると、いいサイクルに入るんだと思うんです。

「モテ」がいい出会いを引き寄せて、それがさらに新たな「モテ」を生み出す。

そのサイクルに入ってくるまではちょっと大変な部分があったり、コツがいるけど、そこまでいけば絶対にいい連鎖が起こっていくと思うんです。
鳥羽
「モテ」っていうのは、需要があるかどうかっていうジャッジなんですよね。

自分がやっていることは、他人から見て必要とされることなのかなっていう視点と想像力を持つことが大切だと思います。それはもちろん、僕自身にも言えることです。

僕は自分の振る舞いでたくさんの人に迷惑をかけたし、たくさんの人を嫌な気持ちにもさせてしまってきたけど、それを跳ね返すくらい最高の愛を持って、これからも色気を追求して「モテ」ていきたいなって思ってます。
永谷
すてきです! 今日はおふたりともありがとうございました。

長野はこういうおもしろい人たちが何かをやろうとする土地なんですよね。これから何かを始めたいと考えている人に、今日のお話がいいかたちで届いてくれたら、私はすごくうれしいです。