移住したくなったら

「地元は好き、でも戻れない」上京した女性たちが長野に帰りたくても帰れないワケ

「地元は好き、でも戻れない」上京した女性たちが長野に帰りたくても帰れないワケ

地方で生まれ育った人は、進学や就職のタイミングで地元を離れる人と地元に残り続ける人に分かれます。首都圏へのアクセスがよい長野県からの上京は、ほかの地域に比べるとハードルが低いともいえるでしょう。しかし、地元を一度離れると彼らの多くは戻ってきません。

上京組とたまに会って話すと「やっぱり地元はいいなぁ」とは言うのに、戻ってこない。その背景には「戻らない」というより「戻れない」事情があるのかもしれません。

なぜ、彼らは地元に戻ってこられないのでしょうか。大学進学を機に上京した3名の長野県出身の女性に、仕事や友だち、恋愛や結婚など、さまざまな観点から「地元に戻れないワケ」語ってもらいました。司会は、同じく地方出身で上京した筆者・佐々木が務めます。

「こんな村、出ていってやる!」上京の理由と都会の生活

写真左から桐山さん、むらやまさん、和光さん
座談会参加者
桐山美菜(26)
筑北村出身。現在は金融会社の事務企画。週末に大学時代の友人とお酒を飲みながらお喋りするのが生きがい。

むらやまあき(25)
長野市出身。Webマーケティングのベンチャー企業、編集プロダクションを経て、2021年1月より独立し、フリーランスのライターに。好きなものは映画、演劇、読書、街歩き。

和光利香(33)
白馬村出身。現在は「祭りで日本を盛り上げる」をミッションに掲げる「株式会社オマツリジャパン」で広報・編集部を兼任。長野県天龍村のつながり人口としての活動がライフワーク。

――皆さんはどうして上京してきたんですか?

むらやま
私は受かった大学がたまたま東京で。地方の国立大学が第一志望だったのですが、落ちたので泣く泣く……という感じです。
和光
私は出たくてしょうがなかった。「こんな村、出ていってやる」とさえ思っていましたね。大学でもランドスケープというマニアックな分野を学びたいと思っていたので、「県外に出るしかない」という大義名分を手に入れた気持ちでした(笑)。
桐山
私も都会に早く出たいなとは思っていました。村の生活はどうしても不便ですし、この土地だけで一生を終えるイメージはなかったですね。

――東京の生活に関しては、どんなイメージを抱いていたのでしょう?

桐山
東京に行けば、徒歩圏内にコンビニがあるんだろうなとは漠然と思っていました。実家では、一番近いコンビニでも車に乗って5分ほど走らなければならなかったので。
和光
わかる(笑)。芸能人に会えるのかな、とか。
むらやま
映画の舞台挨拶に行けば、俳優さんを生で見ることもできますしね。映画が公開してすぐに見られるのもうれしかったなぁ。長野は首都圏よりも公開が遅いので。
桐山
お店や遊ぶ場所がたくさんあって楽しいですよね。テレビで見たオープンしたてのお店にすぐ行けたときなんかは「都会最高」ってなりますね。上京して8年経ちますが、退屈しないなって。

むらやま
ただ、「人がこんなに多いところで暮らしていけるのかな」という不安も当初はありました。私は長野に住んでいたころから、東京には年に何度か遊びに行っていたこともあって「住む場所」という認識がなかったんですよね。
実際に住んでみると、道行く人が助けてくれることも多くて、意外と温かかったんですけど。
和光
私は村の暮らしで一番苦手だった「密すぎるご近所関係」がなかったことがよかったかな。マンションの隣の部屋に住む人の顔を知らないことも当たり前だし、あっさりしていて居心地がいいですね。

家賃は高いし疲れる 「でも戻れない」理由

長野名物・かぼちゃのおやき
和光
でも、都会は楽しいことがお金と引き換えですからね。地方だと「ステイホーム」といっても、畑仕事をしたり、近所のおばさんがお茶を飲みに来たりが当たり前。家にいるだけでもやることがけっこうある。都会ではお金がないと何もできないんだなと思ったときに地元に帰りたくなりますね。
むらやま
東京は家賃も高いですしね。なんで生きているだけで8万円とか払わなくちゃいけないのかなって(笑)。長野で同じ金額を出せば、1DKに住めるのに。
桐山
私は通勤のたびに長野に帰りたいと思っています。毎朝40分かけて会社に通っているんですけど、満員電車に乗っていると「私は何をやっているんだろう」と途方に暮れてくるというか……。
むらやま
人も情報も多いから疲れやすいし、心が荒みやすいですよね。情報を取りにいかないと入ってこない、不便な長野がかえって恋しくなるときもあります。

和光
とはいえ、暮らしをまるっと移すのは難しいですよね。結婚したパートナーが県外出身で、東京にいたい気持ちが強い人なので。子どもを産むとして、教育環境を考えると地方のほうがいいのかなと思うときもあるんだけど、いまはなかなか踏ん切りがつかない。
桐山
いま勤めている会社の拠点が長野にないので、長野に帰るとなると仕事を新しく探さなくちゃいけないんですよね。仕事自体は探せばあると思うんですけど、やりたい仕事があるかどうかはわからないなと。
和光
同じ会社で働き続けられても、仕事内容は変わりそう。私の会社はコロナ禍を機にリモートに移行しましたが、対面で細かいニュアンスをすり合わせたいと感じることも多くて。フルリモートに限界を感じている以上、長野に移住するならいまの仕事は続けられないだろうな。
むらやま
私はフリーランスのライターで、パソコンさえあればどこでも仕事できるので、いますぐ帰ろうと思えば帰れるんです。でも、東京のほうが楽しいことが多いし、行きたいイベントや飲み会の誘いが急にあったときにひょいっと行けない。長野にいたばかりにチャンスを逃したと感じると悲しいなと。
それから、東京にいる友だちとの付き合いも長くなってきたので、東京から離れるイメージがしにくいですね。
和光
地元の友だちとも連絡を取らなくなってしまいますよね。27歳くらいまでは同窓会を毎年企画していたんですけど、私の仕事が忙しくなり、開催しなくなって以降は会わなくなってしまいました。この間、上京している地元の友だちに会って話を聞いたら、地元の同級生コミュニティに戻りにくいという話もしていましたね。
桐山
私も地元に住み続けている人でいまでも連絡を取っている人は限られていますね。帰っても家族しかいないと考えると、東京のほうが寂しくないかなという感じがします。

結婚や出産を機に、浮き彫りになる地元民との価値観

むらやま
実は私、いま付き合っている人がたまたま長野県出身の人なんです。いままで付き合ってきたのはみんな県外の人だったので、今回初めて長野に帰るという選択肢がちょっとだけ出てきました
和光
彼氏が長野出身なら余計に、親御さんに戻ってきてと言われることはないんですか?
むらやま
母には伝えているんですが、わりと私の人生を尊重してくれる両親なので、言われたことはないですね。ただ、年の離れたお兄ちゃんたちが地元に帰ってくる気配がまったくないので、無言の圧を感じることはあります(笑)。
桐山
お相手の出身地にこだわりはないんですけど、ずっと地元を出たことがない人だと価値観の違いが心配ですね。都会と長野のよさの両方を知っているか、長野だけしか知らないかの違いは大きそうだなって気がする。
むらやま
たしかに私の周りで地元に残っている子とは価値観が違うなと感じることがあります。わかりやすい例だと、“いい車”や“家”を買うことがステータスとされていることとか。結婚する人が周りにだんだんと増えてきたから余計にそう思うのかもしれない。
和光
私と同い歳で地元に残っている方だと、結婚してマイホームを建てて、子どもがもう3人もいる、という人もけっこういますね。
桐山
その点、東京では私よりもさらに上の年代でも、結婚せずにバリバリ働いている方が多いので焦りはないですね。30歳くらいまでに結婚できたらいいかなとゆったり構えてます。でも、これが長野にいたら気持ちが違ったかもしれないですね。

長野を離れたからこそ、わかるよさもある

――ここまで地元に帰らない、帰れないという一点でお話しいただきましたが、あらゆる事情を抜きにすると、やっぱり帰りたいですか?

和光
故郷への想いはやっぱり増していますね。2019年度に長野県のつながり人口創出プログラム「信州つなぐラボ」に参加したことをきっかけに、関係人口としての活動をライフワークとして続けています。そもそも県外の大学進学を許してもらったのも「婿を連れていずれは帰る」という約束があったからなので、罪滅ぼしのような気持ちもあるかもしれません。
むらやま
長野を離れたからこそわかるよさもありますよね。おもしろいことをやっている人がいるんだなとか、こんなお店があったんだとか。
和光
そうそう。小さい頃は地域の閉鎖性が嫌だったのですが、絆が強いとも言い換えられる。10年ほど前に白馬村で大きな地震があったときも「あそこのおばあちゃん、まだ逃げてきてないよ」と地域の目配りや声掛けがあったから死傷者0で、被害を最小限に食い止められた。
桐山
私も事情が許せば、毎月帰りたいくらいには地元が好きですね。ありきたりだけど、自然がたくさんあるし。

――ちなみに、もしもいま帰るとしたら、どんな仕事をしますか?

和光
私は長野県のタウン誌や、地方新聞の記者に挑戦してみたいな。いまの仕事にも近しくて魅力的だなと思っています。
桐山
長野に帰るとしたら、いま就いている金融の仕事はもうやめたいな(笑)。帰省したときは稲刈りをしたり、畑をしたりと家族との時間をたくさんとるようにしているので、ワークライフバランスを考えた仕事がいいですね。
むらやま
夢が膨らみますね。

地元のことは好き、でも戻れない

取材の時間が終わっても、ジモトークに花を咲かせていた3人。長野県名物のおやきや北アルプスの銘菓「雷鳥の里(らいちょうのさと)」など、馴染みの味を食しながらの会話で、距離が一気に縮まったのかもしれません。

仕事や友人関係、パートナーとの折り合いや子育て環境……戻りたくても戻れない事情はあるものの、離れてみたからこそわかる長野の魅力を、彼女たちはたくさん知っていました。

撮影:藤原慶
編集:木村衣里(Huuuu)

座談会の一部始終を収録した動画もYoutubeチャンネルにて公開中です↓

この記事を書いた人
佐々木ののか
北海道・帯広市出身。文筆家。 さまざまな家族やパートナーシップのかたち、セクシュアリティをテーマにした「家族と性愛」を看板に掲げて活動しており、最近ではコミュニティづくりや老後・介護領域などの執筆も行う。「ダ・ヴィンチニュース」、老人ホーム検索サイト「LIFULL介護」が運営するwebメディア「tayorini」にて連載中。著書に『愛と家族を探して』(亜紀書房)がある。

Twitter:@sasakinonoka