2021.10.08
山で遊ぶだけだと思ってる?「自然保育」のスゴさを子育て中のライターが聞いてきた
ス〜〜!ハ〜〜!
思わず深呼吸したくなってしまう、森の中からこんにちは!
ライターのナカノです。
長野市で1歳児を子育て中の我が家。
いわゆる保活を経て私立の保育園への入園が決まり、今年度から保育園に通うことになりました。
保育園について調べる中で気になったのが、自然環境の充実した施設に子ども預ける「自然保育」の取り組み。
長野県では2015年に全国初の自然保育の認定制度(信州型自然保育認定制度)がスタート。「信州やまほいく」の愛称でも親しまれ、現在、240の保育園、幼稚園で自然を取り入れた活動を行っています(2021年10月1日時点)。
日本最多の村を持ち、県土の78%が森林である長野県。「信州型自然保育」は、多様な地域性と自然環境を活かした長野ならではの自然保育なんです!
自然保育を受ける子どもたちは山に散歩に行ったり、
園の敷地内でスキーをしたりと、四季を通じてとても楽しそう!
「長野の自然の中で思いっきり遊べるなんて、めちゃくちゃいいじゃん……!」と思いつつ「そもそも自然保育ってなに?」「子どもにとってどんなよさがあるの?」と疑問もふつふつ湧いてきました。
そこで今回やってきたのは、佐久市望月地区の「望月少年自然の家」。
ここに来れば自然保育について分かると聞いたのですが……
- 上原さん
- やあ、よく来てくださいましたね!「ながの県森と自然の保育園」代表の上原です。
- ナカノ
- こんにちは!あれ、ここって、保育園なんですか? 園児が見当たらないけど……(上原さん、本当に専門家なのかな?)
- 上原さん
- ハハハ、私たちはここで、「週末型自然保育」という週末に自然保育を体験できる取り組みを行っているんです。ちなみに、私は「信州型自然保育認定制度」の立ち上げにも関わってますから、何でも聞いてくださいね。
- ナカノ
- わわ、そんな方だとは!今日はよろしくお願いします。それにしても、自然豊かな場所ですね。
- 上原さん
- 標高1250mの森の中ですから、とっても空気がきれいでしょう。
- ナカノ
- そんなに標高が高いんですね!どおりで深呼吸したくなるわけだ。
- 上原さん
- そうでしょう!さぁさぁ、立ち話もなんだからあそこで座りながら話しましょうか!
取材は、「ながの県森と自然の保育園」が拠点を置く、望月少年自然の家の敷地内にあるキャンプ場で行われました。
自然を通じて「子ども発信の学びと人の気持ちがわかること」を大切にしている
- ナカノ
- 私、いま子育て中でして、自然保育について聞きたいことが沢山あるんです!
- 上原さん
- おっ、そうですか!自然保育に興味を持ってもらえて嬉しいですね、何でも聞いてください!
- ナカノ
- まずは、この場所について詳しく教えてください。「ながの県森と自然の保育園」は、普段どんな活動をされているんですか?
- 上原さん
- ここでは、未就学児を中心に年間15回ほど、自然での体験をベースに子どもたちの個性や感性を伸ばす活動を行っているんです。特徴は0歳の子どもも参加し、親御さんもいっしょに体験参加できること。遊び体験だけでなく、学びも取り入れているんですよ。
- 上原さん
- 突然ですが、ナカノさん。小学校の算数って、みんなどこでつまずくかわかりますか?
- ナカノ
- え、えっと、分数とか……?(突然だなぁ!)
- 上原さん
- 惜しいねぇ、よく言われているのが時間と距離なんです。
- ナカノ
- へえ〜!
- 上原さん
- 算数ってあの辺から面倒になってくるんだよね。まあ要するに、時間と距離の関係は早く走れば短い時間で早く着くということです。
- ナカノ
- めちゃくちゃシンプル!
- 上原さん
- そうなんです。たとえばほら、森を歩いていて「雨が降ったから、急いで屋根のあるところに行こう!」って経験あるでしょ。それが時間と距離の勉強に結びつくんですよ。
- ナカノ
- なるほど、ここでの経験がのちのち学校での学びとリンクすると。
- 上原さん
- そういうことです!小さい葉っぱと大きい葉っぱを持って「どっちが大きいかな?」なんて話をはじめたら、たちまち算数の比較の勉強になっちゃう!自然での「そういえば、あのときこうだったな!」って経験が学びにつながるのも、自然保育のひとつの側面ですね。
- ナカノ
- たしかに私も算数が苦手だけど、スーパーの値引き率に置き換えるとすんなり計算できるもんなぁ。
- 上原さん
- 学びを体験からスタートさせることは、「幼・保・小連携」だなんて言葉があるくらい、大切にされてるんですよ。それに、ここは人が用意した環境じゃないから、自然からの刺激が無限にあるんです。
- ナカノ
- たしかに、一般的な保育園みたいに遊具やつくられた遊び場があるわけではなく、森そのものって感じですね。
- 上原さん
- そのとおり。ここでは、子どもがなにかに興味を持った時点から学びがスタートするんです。
- ナカノ
- さっきの葉っぱの話も、子どもが興味を持ったら自然と比較の勉強につながっていくんですね。
- 上原さん
- そう!だからここでの学びは、「これをやりなさい」とは決めきらないで、子どもたちのやりたいことを尊重しているんです。たとえば幼稚園児で「字を書きたい!」って子がいたら、紙を用意して好きに書かせてあげる。「まだ早い」だなんて言われていることでも、本人に興味ややりたい気持ちがあるならどんどんやらせてあげるんです。
- ナカノ
- 屋内外に関わらず、子どもの自発的な活動を大切にしているですね!
- 上原さん
- そういうことです。隣にいる園児にとっても「へえ!字ってそうやって書くんだ」なんて刺激になりますから。
- ナカノ
- 実際に、ここにはどんな家族が参加しているんですか?
- 上原さん
- 首都圏から来てくれる人もいるけど、地元の人が多いかな。
- ナカノ
- へえ、それは意外でした!てっきり首都圏から週末に遊びに来る人が多いのかと。
- 上原さん
- もちろんそういう方もいますし、自然保育を体験したいという方もいます。実はこのコロナ禍で参加者はグンと伸びているんですよ。昨年の参加者は、一昨年の3割増でしたからね。
※ これまでは通年での参加が基本でしたが、コロナ禍もあって今年度の活動は自由参加になっています。
- ナカノ
- コロナ禍で参加者が増えた。どうしてですか?
- 上原さん
- 保育園や学校が休みになったり、親御さんがリモートワークになって、子どもたちの学びを直に見る機会が増えたでしょ?その姿を見ていて「もっといろいろな学びが必要だ!」と切実に感じた親御さんが多いみたいですよ。
- ナカノ
- なるほど(笑)。
- 上原さん
- 親御さんに「ここでは、まずは何からやらせればいいですか?」って聞かれるんだけどね、私たちは「できないことを分かってもらってください」って伝えるんです。ちょっと逆説的な言い方ですが、これが子どもの危険を防ぐんです。
- ナカノ
- できないことが分かると、危険を防げる?
- 上原さん
- 「どこまででもいける!」「なんでもできる!」と思ってしまう子は多いけど、それには危険が伴うこともあるんです。自分にとって危ないもの、用心しなくてはいけないことを理解することで、「できないこと」が分かっていく。危機管理の力を育むんです。
- ナカノ
- たしかに子どもって「それは到底無理だろうし、危ない!」って思うような大胆な行動をしますよね!いきなり階段の上の方からジャンプしたり……。
- 上原さん
- そうそう(笑)。だからね、無理してハードルは超えさせないようにしています。「なにかやりたがってるな」って思ったら、少しずつステップアップできるように声がけしてあげる。子どもの動きを制約しているように聞こえるかもしれないけど、逆を返せば「自分は今、どういうことならできるか」ということが実感できるんです。
「できないこと、やりたくないこと」を理解すると、「これならできる、これならやりたい」ということを見つけられる。これが自由な発想や工夫を生み、子どもの自信や意欲につながるんですよ。
- ナカノ
- なるほど、そうやってだんだんと身の危険を感じられるのは、自然の中だからこそかもしれませんね。
- 上原さん
- そうです、自分の身を持って体感することは大切ですから。
虫きらい!草むら怖いもOK!いろんな人がいてほしい
- ナカノ
- そうそう、私は虫が苦手なんです。やっぱりここに来る人達は、自然を全て受け入れて楽しまなきゃいけないんですよね……?
- 上原さん
- いやいや、そんなことはないんです。むしろ「虫が嫌だ!」なんて人はすごく大事な存在なの!
- ナカノ
- えっ、どういうことですか?
- 上原さん
- いろんな人がいるってことを、子どもたちに知ってほしいんですよ。自然の中に苦手だったり嫌いだったりするものがあったら「ごめん、だめだ!」って表現することが大切。
- ナカノ
- それでいいんだ!
- 上原さん
- そうすることで、ほかの子どもたちも「人はどんなものが嫌いだ」とか「どういうものに気をつけないといけないか」が学べるから。苦手なら苦手、嫌いなら嫌いでいいんです。それも多様性だから。
また、子どもの周りにいる人が嬉しいことは嬉しい、楽しいことは楽しいという自然な気持ちをあらわしていくことも大事です。人としてのありのままの感情や、気持ちを伝えることが大切。そうでないと、「人間はこんな時にこんなことを感じる」という、人の気持ちが身に付かなくなってしまう。
- ナカノ
- 無理せず、ありのままでいいってことですね。おかげで自然保育へのハードルがすごく下がりました(笑)。勝手なイメージですが、こういう場所では自然のすべて受け入れなきゃいけない!!って思っていたんです。
- 上原さん
- いろいろな人がいる中で、子どもたちは人としての気持ちを身につけ、人との付き合い方を学んでいくんです。2〜3歳の子でもちゃんと気づかいするんですから。森の中で誰かが転ぶと「大丈夫?」って声をかけにいくし、なかには一緒に寝転んじゃう子もいたりして。そうすると泣いていた子も泣き止んで、そのまま仲良くなっちゃうんですよね。
- ナカノ
- そんな我が子の成長した姿を見たら、泣いちゃうなぁ。
「3つの自然」を大切にしている
- ナカノ
- 子どもたちの活動を支えるにあたって、なにかルールは設けているんですか?
- 上原さん
- ルールというよりも心構えなのですが、私たちは「3つの自然」を大切にしているんです。
- ナカノ
- 3つの自然?
- 上原さん
- まず、『自然あふれるこの環境』が第一の自然、第二に子どもが『自分自身をありのままに自然と発信する』という自然、それから第三に『大人も自然体でいるという自然』。ようするに大人自身の自然な姿です。私はこの組み合わせこそが自然保育だと思っています。
- ナカノ
- 森の自然、だけでなく、自然体でいることも重要なのかあ。それに、子供だけでなく、大人も自然体でいることが大切なんですね。でも、ここはある意味、答えのない学び場ですよね。スタッフの方々もかなり大変そうだなぁ。
- 上原さん
- 私、地元の大学で客員教授もしているので、学生ボランティア団体の学生さんたちが積極的に関わってくれているます。保育士や先生志望の学生さんばかりじゃないし、専攻もいろいろ。でもね……
- 上原さん
- できるんです!
- ナカノ
- (言い切った!)なにか特殊な講習を受けるとか……?
- 上原さん
- そんなことはなくて、大切なのは子どもたちの興味を深ぼりしていく姿勢!自分自身が素直に面白がるという気持ちです。子どもたちが何におもしろがって、どんなことなら理解できるのか。学生さんも、子どもから教わることが多いですよ。
- ナカノ
- 子どもに教えるではなく、教わる?
- 上原さん
- そう、子どもから教えてもらうことが大事です。虫でも葉っぱでも、子どもが持ってきてくれたら、「それ、どこにあったの?」と聞くんです。さらに「どれくらいあった?」「虫は何してた?」と深堀りしていくと、それが学生さんにとっても子どもにとっても理科の勉強になっちゃう。
- ナカノ
- そっか、子どもの気づきから学びが始まるから。
- 上原さん
- でも、今の学生さんたちの中には自分を素直に表すことが苦手な人もいて、苦戦することもあるね。子どもの感性をキャッチするには、まずは自分をさらけ出す、自分が素直になること、自分自身の自然な気持ちが肝心なんです。
- ナカノ
- だから「大人にとっても自然体が大切」ってことですね。
- 上原さん
- それからね、子どもたちはお母さんやお父さんとはなるべく別々に行動してもらいたいんです。
- ナカノ
- 別々に?それはどうしてですか?
- 上原さん
- 子どもにとって、ふだんと違う環境を与えたいんです。子どもって見栄っ張りなところがあるから、本心では「かっこいいところを見せたい」とか「がんばりたい」って思っているんだよね。
- ナカノ
- うん、うん。
- 上原さん
- 実は大人が思っているよりも、子どもっていろんなことができるんですよ。だからお母さんにべったりじゃなくて、少し離れてみることが大切。親と一緒にいなくても、子どもはいろいろなことができるんですよ。
- ナカノ
- 私も子どもに対して過保護になってしまうことがあるから、耳が痛い話だなぁ(笑)。
- 上原さん
- 僕たちも勉強になったエピソードがあって。ここでキャンプをしたときに、みんなでご飯をつくったんです。かまどづくりの説明で「Y字の棒を両側に立てて」と教えたんだけど、この年齢ではまだ力がなくて棒を地面に刺せなかったんですね。そしたらその子、教わるでもなく、考えたんでしょうね。地面に石を3つ並べて真ん中にはんごうを置いて、ご飯を炊いちゃったの。
- ナカノ
- へえ!すごいですね!
- 上原さん
- 偶然かもしれないけど、「あ〜、小さい子でも試行錯誤しながらでも工夫しながらできるんだ!」って思ったんですよ
- ナカノ
- 親はなんでも先回りして教えすぎず、ときには子どもを信じることも必要ですね。
- 上原さん
- そう!それにね、ここはお母さんたちにとっても横のつながりをつくるいい機会になると思いますよ。おむつやご飯の話、苦労話も聞いてもらえますから(笑)。
- ナカノ
- 親同士のつながりって大切ですよね。なかなか子育てを気軽に相談できる人が周りにいないので、それはありがたいなぁ。
自然保育で目指す「人としての気持ちを身につけ、自分で考えて行動できる子ども」
- ナカノ
- 少し抽象的な質問になりますが、自然保育を体験した子どもは結果的にどんな力が身につくのでしょうか?
- 上原さん
- 一言で言うと、「自分で考えて行動できる力」かな。
- ナカノ
- おぉ、なんだかすごくサバイバルな響き。
- 上原さん
- 決して「自然の中で自分を追い込め!」なんてことは言いませんよ(笑)。自然の中で思い切り活動して、自分の頭で考えて試行錯誤し、そのなかで得たものをこの先のバネにしてもらいたい。それに、何でも自分ひとりでこなせるようになるのが目的じゃありません。最終的には、「人に頼ることも必要だ」ってこともわかってほしいですね。
- ナカノ
- 人に頼る必要性を知る。めちゃくちゃ大切だ……。
- ナカノ
- 上原さんは、2015年に発足した長野県の「信州型自然保育認定制度」の立ち上げにも関わられた、とおっしゃってましたよね。
- 上原さん
- うん。「信州やまほいく」なんて愛称もつけているね。でも、「自然保育」とか「やまほいく」って言い方をしてるけど、学びの場は山や森だけじゃないんですよね。
- ナカノ
- 自然だけが大切ではないと?
- 上原さん
- そう、シンボル的に「やまほいく」って言い方をしているけど、田んぼや畑や川といった身の回りにある自然、それに地域の行事だって取り込んで、全部を学びに活かしていこうって考えなんです。
- ナカノ
- 暮らしにあるものはすべて学び、ということですか。
- 上原さん
- まさにそういうことです。たとえば、農家のおじいちゃんを訪ねてキャベツのつくり方を見聞きしたり、牧場に行って「牛さんってどうやってご飯を食べるの?」と聞いたりする。これも学びなんですよね。
- ナカノ
- そうか、子どもの興味関心から学びが始まるとおっしゃってましたもんね。
- 上原さん
- あとね、ちょっと話は変わるけど、「人間はほかの動物と比べると、1年ほど早くお母さんのお腹から出てきている」という学説もあるんです。
- ナカノ
- たしかに、ほかの動物は生まれた時からすでに立てる状態だったりしますよね。
- 上原さん
- 人間は未熟な状態で生まれてくるからこそ、適応の幅があるとも考えられるんです。多様な能力がつきやすい。生まれたあとの行動によって、物事を乗り越えていく力がだんだんと備わっていくんです。
- ナカノ
- そうか、だから早いうちから自然に触れさせて、いろいろな刺激を与えようと。
- 上原さん
- そうです。「子は親の背中を見て育つ」って言うけど、サラリーマンの多い今の時代、なかなか親の働く姿って見る機会がないじゃないですか。
- ナカノ
- 言われてみれば、見るのは、休日の親の姿ばかりだ。
- 上原さん
- そう、自分が見習うべき行動のモデルが極めて少ない。長野県は学びに使える自然の素材がふんだんにあるし、各地域には経験豊富なおじいさん、おばあさんだっている。今の小さい子にとって、お年寄りも貴重な存在じゃないですか。
- ナカノ
- 核家族化が進んでいて、おじいちゃんやおばあちゃんと一緒に暮らしていない子どもたちは多いですよね。
- 上原さん
- 地域のおじいちゃんやおばあちゃんに声をかけて話をしてもらうと、子どもたちが目を輝かせて聞くもんだから「俺もやれることがあった!」なんて、おじいちゃん、おばあちゃんの方も喜んでくれていますよ(笑)。
- ナカノ
- 自然に限らず、人や地域などあらゆる素材が子どもの学びにつながるんですね。
取材を終えて
「自然の中で遊ぶ機会が多いんだろうな」と、ざっくりとしか想像していなかった「自然保育」。
その思想には、暮らしや地域、身の回りに存在するあらゆるものを活かして子どもたちの学びにつなげようとする、力強い土壌がありました。
自然のフィールドの気持ちよさと、子どもの自主性を大切にする学びに共感し、「ぜひ自然保育を体験させたい」と感じた私。気軽に参加できる週末自然保育は、自然保育の入り口にぴったりなのでは!?
自然保育に力をいれている「やまほいく」の保育園・幼稚園への入園を検討している方は、各園の特色をホームページから知り、見学や体験入園をしてみるのもおすすめですよ!
撮影:小林 直博
編集:飯田 光平