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日本に「おやきのある暮らし」を提案する。長野の老舗おやき屋が仕掛ける新施設 OYAKI FARM とは?

日本に「おやきのある暮らし」を提案する。長野の老舗おやき屋が仕掛ける新施設 OYAKI FARM とは?

こんにちは。ライターの小林です。

今回のテーマは、長野名物「おやき」。
小麦粉とそば粉を練った生地に、山菜などを包んで焼く長野の郷土食です。

一見、素朴なイメージがあるおやきですが、近年その注目度が高まっています。

Instagramでの「#おやき」の投稿数は9万件以上。さらに、カレーやピザ風味などのオリジナルのメニューを提供する、ユニークなおやきショップが県内外に登場しています。

今回ご紹介するのは、
長野県の北部・長野市鬼無里地区に拠点を構えるおやきの老舗、「いろは堂」。
大正14年創業、約百年の歴史を持つ伝統あるおやき屋です。

実はこのいろは堂、近年人気がうなぎ登り。直近3年間での通販の売上は約2.4倍。一時期は、注文が殺到して出荷まで1ヶ月半待ちになったこともあるのだといいます。

そんないろは堂が、2022年夏、長野インターチェンジ近くに工場併設店舗を立ち上げました。その名もOYAKI FARM (おやきファーム)。まずは、その施設をご覧ください。

圧倒的なスケール感と温かくも洗練されたデザイン性の高い空間……つい「ここが本当におやきの施設?」と思ってしまいます。

ここでは、その場でつくられたおやきを購入することはもちろん、カフェやショップを併設していたり、おやきづくりの見学や体験も楽しめたり、さらには屋外デッキや広場で過ごすこともできるのだとか。

そこで、今回は、OYAKI FARMの仕掛人でもある、有限会社いろは堂・専務の伊藤拓宗さんに話を聞くことに。注目を集めるOYAKI FARMの裏側についてうかがいました。

いろは堂 専務取締役
伊藤 拓宗
1985年長野県長野市(旧鬼無里村)出身。大学卒業後、東京で広告制作の営業職を経験した。2007年に帰郷し、家業であった有限会社いろは堂に入社。2013年専務取締役に就任。好きなおやきの具は、野菜ミックス。

たこ焼きのように、おやきをもっと身近な日常食にしたい

ーーいやぁ、OYAKI FARM、スゴい施設ですね。一見、おやきの施設だとは思いませんでした。

伊藤さん:ですよね(笑)。OYAKI FARMの取り組みは、私たち自身にとっても、大きなチャレンジなんです。まずは併設された工場で、おやきの生産力を上げる、そして、おやきを日常に取り戻す。この2つを目指しています。

ーー「おやきを日常に取り戻す」……?

伊藤さん:
おやきって、良くも悪くも「郷土食」としてのカラーが強いと思っていて。県外の知人が長野を訪れた際に名物として出したり、観光客の方がお土産として買ったり。そこが良いところでもあるんですが、どこか非日常の食べ物になってしまっているような気がしています。

ーーたしかに今は「長野を訪れたときの食べ物」という印象がありますね。

伊藤さん:
でも、もともとおやきは、どこの家庭でも当たり前のように食べられていたもの。私の祖父母の世代では、家の囲炉裏でおやきを焼く光景は、ありふれたものだったんですよね。それがいつの間にか、家庭でつくる機会なんてほとんどなくなりましたし、日常的に食べる人も少なくなってしまいました。

ーー今の時代では囲炉裏のある家もありませんしね……。

伊藤さん:
おやきの商業化が進んでいったり、食文化が変わっていったりする中で、おやきは日常から離れていったような気がしていて。だけど、もう一度誰もがいつでもどこでも口にしたり、つくったりする身近な存在にしていきたいと思ったんです。

ーーでも、現代では囲炉裏を囲む家は少なくなっていたり、食習慣も変わっていたりします。そのような時代の中で、おやきはどのように日常に溶け込んでいけるのでしょうか。

伊藤さん:おやきって、朝ご飯に食べてもいいし、忙しいときの手軽なワンハンドフードとしても最適。ヘルシーなヴィーガンフードという見方もできる。もっと日常に溶け込んだフードになるポテンシャルがあるんですよ。

ーーおやきにはポテンシャルがある。

伊藤さん:これは相談していた社外の方やお客さんと話している中で生まれた視点なんですが、おやきって「たこ焼き」のようなポジションを目指せるのではないかと思っているんです。

ーーたこ焼きのようなポジション、ですか?

伊藤さん:たこ焼きって大阪名物だけれど、いつでも、どこでも、誰でも食べられる身近なものになっていますよね。おやきが目指すのもまさにそこ。だからこそ、OYAKI FARMは「日本に『おやきのある暮らし』を提案する」というビジョンを掲げています。ここを、新たなおやき文化の発信拠点にしたいと思っているんです。

OYAKI FARMが取り組む、「おやきのある暮らし」の提案

ーー実際にOYAKI FARMでは、どのようなことを楽しめるのでしょうか?

伊藤さん:おやきの物販はもちろん、見学通路でおやきの製造工程を見ることができたり、体験コーナーではおやきを実際につくったりすることもできます。また、1階にはカフェも併設。長野市内のforet coffeeというコーヒーロースターにお願いして、おやきに合わせてブレンド・焙煎してもらったオリジナルのコーヒーを提供しています。

さらに、カフェで提供する軽食もOYAKI FARMならではのものにしました。サンドイッチやドーナツにはおやきの生地を使い、デザートのあんこアイスにはおやきの具材として使用している粒あんを利用しています。

ーーおやきの可能性を活かしたメニュー展開ですね。

伊藤さん:あとは、コンテンツだけでなく、食べるシチュエーションにもこだわっているんです。

ーー食べるシチュエーション?

伊藤さん:はい。おやきから連想する風景って、「囲炉裏で灰焼きにされている」「古民家で食べる」みたいなイメージではありませんか?

ーーたしかに。

伊藤さん:でも、そういう固定されたイメージではなくて、もっとカジュアルでフラットな場でもおやきはフィットすると思うんです。たとえばデッキに登って千曲川や吾妻山を眺めながら食べてもいいし、屋外の広場で緑に囲まれながら食べてもいい。

伊藤さん:
「意外とこんなシチュエーションでもおやきって合うんだ」という気づきを得てもらいたいんですよね。そこから「明日の朝ご飯にしようか」といった新しいおやきの楽しみ方も見えてくるはず。同じ「おやき」でも、食べるシチュエーションをアレンジするだけで価値って変わるんです。そのおもしろさを体感してもらいたいです。

ーーなるほど、おやきが日常に馴染んでいく風景がだんだんと見えてきた気がします……!

伊藤さん:
でしょう。そして、今計画しているのは、家庭でも楽しめるようにする「おやきづくりキット」の製作。「おやきのある暮らし」を提案するには、消費するシーンだけでなく、さまざまな人の手によって「つくる」シーンを増やしていくことも大事だと考えているからです。

ーーお子さんがいる家庭では、一緒におやきをつくるのもおもしろそうですね。

伊藤さん:
はい。自宅でたこ焼きパーティをしたり、ホットケーキを焼いたりするように、おやきをつくる機会もあっていいはず。「こんな具材入れてみよう」とか「あの具材がおいしかった」とか楽しみながらおやきに触れてみてほしい。

おやきの店が増えるだけでは、「おやきのある暮らし」が実現したとは言えないんじゃないかと個人的には思っています。家庭で当たり前のようにつくられることで、はじめて「おやきのある暮らし」はかたちになるんです。

「おやきブーム」はいらない。目指すのは、新しい「おやき文化」

ーーこれまでのおやき文化にリスペクトを持ちつつも、新しいおやき文化を提案していこうとしているOYAKI FARMですが、今後見据えている展開について教えてください。

伊藤さん:最近、おやきがメディアに取り上げられたり、各地でおやき専門店が生まれたりするなど、おやきに注目が集まってきています。そのことはとても喜ばしいことだと思っていて。老舗だけでなく、おしゃれなお店も増えてきていますし、若い人たちもおやきを手に取ってくれるようになりました。

ーーたしかに、若者でもおやきを食べる人は増えているような気がします。

伊藤さん:今こそ、手を取り合っておやき文化を広めていく良い機会だと思っています。競合としてお客さんを取り合うのではなく、一緒にお客さんを増やし合う。業界一丸となって、そんな取り組みをしていきたいですね。

ただ「おやきブーム」にならないように気をつけていきたいんです。

ーー「『おやきブーム』にならないように」といいますと?

伊藤さん:「ブーム」って一過性のもの。繰り返しになりますが、いろは堂が目指しているのは、長く定着する「文化」なんです。ブームで終わらせないためには、表面的におしゃれにするのではなく、おやきならではの価値を見極める必要があります。

おやきの場合、自分の手でアレンジしてつくったり、地元で採れる野菜を使ったり、人と一緒に食べる時間を楽しんだり……さまざまな切り口があります。OYAKI FARMでは、そんな価値を提案できるようにしたいんです。

ーーなるほど。具体的な取り組みとしては何かありますか?

伊藤さん:地域の人々とのつながりは強く意識しています。たとえば、地元で野菜を育てている生産者さんとのご縁はとても大切です。おやきを通じて、その魅力も伝えていきたいですね。OYAKI FARMを介して、お客さんと生産者さんが直接つながってもいいとも思っています。OYAKI FARMを起点に、新しい展開が生まれることを期待しています。

さいごに

日本に「おやきのある暮らし」を提案する……そんなビジョンを掲げるOYAKI FARM。
その言葉通り、さまざまな切り口からおやきの新たな可能性を見つけ、提案していく、その取り組みが今から楽しみです。

オープン日は、2022年7月31日。

新たなおやき文化に触れてみたいという方は、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

OYAKI FARM
住所:〒388-8019 長野県長野市篠ノ井杵淵7−1
TEL:026-214-2800
営業時間:9:30~18:00(不定休)
駐車場:40台
決済方法:クレジットカード、QRコード決済、現金
車でのアクセス :
長野ICから県道35号を北上し約2分/長野駅から国道117号、県道35号を南下し約15分
公共交通機関でのアクセス:
長野駅善光寺口の3番バス乗り場から「30 松代高校行き」に乗車し、 「水沢典厩寺(みずさわてんきゅうじ)」バス停で下車し、徒歩2分。(所要時間約25分)

公式HP
公式instagram

撮影:キムヤンス(YOIN)
編集:飯田光平