移住したくなったら

移住せずに田舎に溶け込む。新しい形で地域と繋がる若者に実体験を聞いてみた!

移住せずに田舎に溶け込む。新しい形で地域と繋がる若者に実体験を聞いてみた!

突然ですが、みなさん、移住ってハードルが高いと思いませんか? 

仕事、住む場所、家族、人間関係……。地方での生活に憧れながらも「いろいろ考え始めると、踏み出せない!」と思う人も多いはず。

でも、移住以外にも地域との関わり方って、いろいろあると思うんです。

都会にいながらその地域を応援したり、何回も通いながら地域の行事に参加したり…。

住まなくていい。でも、ずっと関わり続けたいと思える地域に出会えたら、それは素敵なことかもしれません。

そんな関係が生まれるきっかけとなるプログラムが、長野県にはあるんです!

「信州つなぐラボ」は、地域に関わる「つながり人口(関係人口)」を増やすことを目指した実験的なプログラム。

その舞台となるのは、長野県の田舎です。都会からの参加者が、地域を知り、そこからプロジェクトを考えて提案するだけでなく、小さく実践をしてみる半年間のプログラムです。

今年で4年目となる「信州つなぐラボ」。これまでに55名が参加し、実際にプログラムをきっかけに様々なつながりが生まれています。

参加者は、どんな思いで地域と関係を築こうと参加したのか。

都会の人が地域とつながることで、どんなことが起きたのか。

2年前に実際に「信州つなぐラボ」に参加した方と、地域側で受け入れを担当した役場職員の方に、座談会形式でお話をきいてみたいと思います。

このときの舞台は、王滝村と天龍村。

王滝村の人口は700人あまり。山岳信仰で有名な御嶽山の麓に位置する王滝村は、その面積の97%を山林が占めています。そうした雄大な自然を生かしたスポーツやレジャーにも力を入れているそうです。

おんたけ湖が広がる王滝村

一方、天龍村は、東京から車で約5時間、長野の南端にあります。高齢化率は60%を越え、全国2位になりました。そうした中で、国の重要無形民俗文化財でもある「霜月神楽」に代表される、さまざまなお祭りを守り伝えています。

まさに「秘境」と言っていいほどの田舎を訪れた参加者たちは何を感じたのでしょうか?

座談会メンバー

座談会はzoomにて行いました

<「信州つなぐラボ」の参加者>
和田 訓一さん
神奈川県小田原市出身。広告会社に所属。第2期信州つなぐラボ王滝村チームに参加。

和光 利香さん
長野県白馬村出身。現在は「祭りで日本を盛り上げる」をミッションに掲げる「株式会社オマツリジャパン」で広報・編集部を兼任。第2期信州つなぐラボ天龍村チームに参加。

<「信州つなぐラボ」の受け入れ担当> 
内藤 孝雄さん
長野県天龍村役場の職員。第2期信州つなぐラボで天龍村チームの受け入れを担当。

都会にいながら長野に関わるには?

―参加者のおふたりは、どうして「信州つなぐラボ」に参加しようと思ったんですか?

和田:僕は出身が小田原なんですけど、ゆくゆくは小田原が盛り上がるようなことをしたいと思っていて。なので、ローカルで活躍するってどういうことかを具体的に知りたくて応募しました。

和光:長野県白馬村の出身で、大学で上京したんですが、今の仕事を続けようと思うと、地元愛はもちつつも地元に帰れないというのがあって。そんなとき、instagramで「信州つなぐラボ」の広告を目にして、「都会にいながら長野に関われるなんて最高」と思い、応募することにしたんです。

―おふたりとも長野への移住ではない地域の関わり方に関心があったんですね。実際に参加してみて、印象に残ったのはどんなことでしたか?

和光:いちばん最初に天龍村に行ったときの衝撃ですかね。細い山道をマイクロバスで送迎してもらったんですけど、集落間の移動が山越えみたいな感じで……。すごい山の中に来ちゃったなという印象が強かったです(笑)。

山あいに集落が点在する天龍村

和田:初めて王滝村に訪問したとき、村を案内してもらった後、どんなプロジェクトをやりたいかを村の人と考える場があったんです。僕は村の食文化に惹かれたので、「こんなことをやってみたい」と食のプロジェクトを提案したら、その場にいた村の方が「それ、やりたい!」と共感してくれて。その空気感がみんなの中に一気に広がった瞬間が、すごく記憶に残っています。

王滝村でのフィールドワークの後、プロジェクトを考える参加メンバー

―村の人と一緒に動き出せそう、と実感できたんですね! 内藤さんは天龍村の職員として参加者を受け入れる側だったわけですが、印象に残っていることはありますか?

内藤:印象に残ったのは、「お年取り」ですね。天竜村では、12月31日に正月に食べるようなご馳走を食べる「お年取り」という習慣があります。そのときに、参加者が地元の方たちと一緒にお汁を作って食べる場面があって。

天龍村の人たちと一緒に「お年とり」の料理を味わう

内藤:80代や90代で独居の人たちはふだん一人で食事をしているので、自分たちの地域に興味をもってくれた若い人たちと一緒に食事をしたことがすごく印象に残ったそうです。たった数時間かもしれないですけど、その1コマが村の人の心に残って、自分たちの地域を再認識してもらうきっかけになったので、あのときは「やってよかったな」と思いました。

―そんなことが! 村のお年寄りにとって当たり前のことでも、都会の若者からはすごく新鮮に見えること、ありますよね。ふだん接しないような人同士が出会って、地域の魅力を再発見することにつながったんですね。

地域の人にとっての「当たり前」が面白い!

―半年間のプログラムが終わってからも、つながりが続いていると聞きましたが……。

和田:つなぐラボをきっかけに、「王滝かあちゃんズ食堂」という企画をやりました。王滝村の食文化や、それを作る地元のお母さんたちのあたたかさを伝えたくて、王滝村のスキー場で1日限定の食堂を開かせてもらったんです。

王滝村のお母さんたちと一緒に、村の伝統食である「すんき」という赤カブの漬物を中心に、王滝村の食材を生かした定食メニューを考えました。その定食を50食限定で販売したら、30分で完売したんです。

―すごい! 30分で完売ですか!?

和田:はい、そうなんです。スキー場は県外からのお客さんが多いんですが、「自分たちが毎日当たり前に食べているものが、外の人にこんなに興味をもってもらえるんだ」ということが、村のお母さんたちの自信につながったと思います。

 大好評だった「王滝かあちゃんズ食堂」

和田:それで「次は何しよう」って話していたら、新型コロナの影響で現地での活動が難しくなってしまい……。ただ、「それでもできることはあるはず」と考え、「すんき」を味わうオンライン料理教室をやりました。あとは、元地域おこし協力隊の方が食のビジネスの立ち上げるときに事業戦略を一緒に考えて、今も商品開発や販路開拓などをお手伝いしています。

和光:天龍村も同じく、去年はずっとオンラインでの活動だったんです。なので、つなぐラボの参加者たちの手でさらに関係人口を増やそうと、オンラインでイベントを実施しました。できれば今年は、現地にも行って、さらにつながりを増やしていきたいと思っています。

―たしかに、現地に行けないと活動しにくいですよね。ただ、オンラインを活用して関わっていった、というのはさすがです。

和光:あと、70代のおじいさんから、たくさん写真が送られてきます(笑)。

―え、写真ですか?

和光:参加者と地元の人の LINEグループがあって、「きのこが取れた」とか「ブッポウソウという鳥が飛来した」とか、天龍村から素敵な写真が届いて、ほっこりしています。都会にいると感じられない季節の微妙な変化を受け取れていいなって。

無理はしない!ほどよい距離感がちょうどいい

―それぞれの地域に関わってみて、自分の中で変化したことはありましたか?

和田:関係人口という移住とは違う距離感の中で、僕は最初、村の人から怪しい目で見られるときもあって(笑)。「言うのは簡単だけど、どうやるの」って。でも、食堂や料理教室をひとつひとつやっていくうちに、信頼関係が強まっていくのを感じて。関係性が深まるにつれ、誠意をもってよりしっかりとコミットしたいな、と思うようになりました。

和光:私も、お互いに無理なく積み重ねていくことが大事だな、と感じましたね。その結果、今では天龍村が第2のふるさとみたいな気がします。正直めっちゃ遠いんですけど(笑)。

―東京からとなると、本当に遠いですよね!

和光:でも、おかげで運転が上手くなったんですよ。天龍村にならひとりで運転して行けるようになったし、車中泊やキャンプも平気になって(笑)。

それに、天龍村のおじさんたちって、なんでも自分で作ってしまうんです。その姿を見るうちに、私もたくましくなったと思います。

天龍村向方地区の地域の方たち

―プログラムに参加したことで、おふたりとも村に関わっていく意欲がより増していったんですね! 内藤さんは、村としての変化を実感したことはありますか?

内藤:つなぐラボの若い人たちが来てから、村では「これもやってみよう」「あれもやってみよう」とアイデアがどんどん出てきました。認知症予防になるからと、地域のお年寄りたちが休耕畑でエゴマを作り始めたりとか。

このまま高齢化が進めば、集落に終わりはあるかもしれないけれど、今を楽しく前向きに何かすると面白いという雰囲気に変わってきています。地区の人も、「無理をしない」がポリシーです。いい距離感を保ちながら長く続く関係の方が、お互いに肩の力が抜けて結果的にいいものができるのかなと。

地域にとってのハッピーエンドとは?

―内藤さんは、そもそもどんな思いで受け入れを?

内藤:天龍村のような中山間地って仕事も少ないし、土地も限られているので、移住というのはなかなか難しいんですね。だけど、関係人口って言葉を知ったときに、行きつけの田舎みたいな感じで、地域と上手に関わりながら通ってくれるならば、住まなくてもできることはあるんじゃないかなと思ったんです。

「信州つなぐラボ」第2期のときは、向方地区のお祭りにフォーカスして、そのお祭りを一緒にやっていく人を見つけられたらなと思っていたんです。そしたら、宝くじが当たったように、いい人たちが来てくれて……。地区の思いと参加者の人がマッチした感じがしました。

毎年1月に行われる天龍村向方地区の「霜月神楽」

―村が大切に守ってきた歴史あるお祭りに、つなぐラボのメンバーが参加させてもらえたんですね。 

内藤:今、地区は70代以上の人たちばかりで「10年後どうなるの」って言う人もいます。けれど、誰も受け入れないで、いろいろなことを消去法で止めていくよりは、今を楽しく過ごしてハッピーエンドで終われた方が、地区としては幸せな最後を迎えられると思います。もしかしたら、いろいろな人が入ることで新しい知恵が生まれて、違う道が開けるかもしれない。

過疎や高齢化はネガティブなワードだけど、しょうがないよねと割り切って、「短い先だけど、何か面白いことをやって盛り上がろう」と前向きに発想が変わってきたように感じます。

―地域の外から人が関わることで、地区の中にそんな変化が起きていたんですね!

会いたい人がいると思える場所

王滝村のフィールドワークを終えて

―今年は中野市と辰野町を舞台に第4期の募集が始まっています。参加を検討している方にメッセージをお願いできますか?

和光:運営側で関わりの入り口をすでに作ってもらっているので、すっと地域に入って行けます。それは、自分ひとりでやろうとしたら絶対できないことだと思います。楽しいと思うので、ぜひ!

和田:僕も参加してみて、日本にはまだまだこんな素敵なところがたくさんあるんだと好奇心をくすぐられる瞬間がたくさんありました。好奇心、くすぐられてください!

内藤:プログラムは半年だけですが、そこでいろいろな人に出会って、「この人がいるからまた行きたい」「この人がいるからここは楽しい」と思える人を見つけられるといいのかなって。地域でしゃかりきに活動しようというより、あまり終わりを考えないで、ずっとつながっていくにはどうしたらいいのかを考えるといいと思うんです。肩の力を抜いて、一歩踏み出してみていただけたらと思います。

和光:やっぱり「人」がポイントですよね。要素だけを取り出せば、山や川といった「自然」はどこにでもあるものだし。

和田:僕もそう思いました。王滝村にもう1回行きたいと思うのは、やっぱり会いたいと思う人がいるからだなって。

―地域でプロジェクトを成功させることがゴールではなくて、その後も長く続いていく人との関係性ができるきっかけとなる場だったんですね。お話いただき、ありがとうございました!

おわりに

「信州つなぐラボ」は、参加した人たちにとって、地域との自分なりの関わり方を見つけるきっかけになったのかもしれません。

そして、普段の生活の中では出会わなかった人同士がつながることで、誰かの人生が少しだけ動いたり、これから長く続いていく関係性が生まれたりと、新たな化学反応が生まれていました。

「信州つなぐラボ」は、第4期の参加者を募集中です。締め切りは、2021年8月22日(日)まで。

地域につながるきっかけがほしい方、ぜひ応募してみませんか?