2022.11.30
【地方創生とビジネスの話】船乗りがはじめた竹林整備が全国から注目される理由
こんにちは。ライターの北埜です。
今回は、長野県の南エリア、飯田市にやってきました。
飯田市といえば、以前 SuuHaa でも焼肉屋が日本一集まる、焼肉がアツい町として紹介しましたが、なにやら「竹林整備」で全国から関係人口が集まる町としても最近アツいのだとか……!
竹林整備とは、あまり聞きなれない言葉ですが、いま日本全国で竹林の過剰繁殖が問題になっているんです。飯田市では、そんな竹害を解決する先進的なソーシャルビジネスが生まれているのだといいます。
しかも、仕掛けてるのは元舟下りの船頭さん。取り組みに注目が集まり、お手伝いや学び手が全国から殺到。多くの関係人口が生まれているそうです。
とはいえ、竹を切るだけでそんなに人が集まるの?
と疑問に思って臨んだ取材でしたが……
「捨てられていた竹が400万円を生み出している」
「竹は持続可能なエネルギー。つまり竹林は油田」
「竹を切りに都内の大学生が集まる」
などなど、気になるエピソードの連続。
飯田市で生まれている竹のソーシャルビジネスとは、一体どんなものなのでしょうか?
百聞は一見に如かず、ということで冒頭に戻って、飯田市のとある竹林に到着しました。
「おれは病気なんだよ(笑)」竹偏愛が生み出す関係人口
- 北埜
- こんにちは。竹林整備の取材できました!
- 曽根原さん
- おー!こっちこっち。ちょうど整備してるところだから竹の中に入んな!
- 北埜
- よろしくお願いします。今日は、竹林整備で関係人口が増えていると聞いてお話を伺いにきました。
- 曽根原さん
- 関係人口を増やそうなんて、思ってやっちゃいないんだけどな。仲間たちと楽しく竹を切ってたら、勝手に集まってくるんだよ(笑)。
- 北埜
- え、そうなんですか?
- 曽根原さん
- そうだよ。この前は「信州おもてなし大賞」なんて賞ももらっちまったんだけど、困っちまったよ。おもてなししてるつもりは全くないんだもんな。
- 北埜
- 曽根原さんは、ただ自然体で活動に取り組んでいるだけなんですね。
- 曽根原さん
- いやあ、なんていうか、おれはもう病気なんだよな(笑)。放置竹林を見ると「切りてえ!おれだったらこうやって整備するのにな〜!」って思わずにはいられないんだよ。
冗談抜きで、竹を切りすぎて夢に出てくるんだよ、竹が。ベッドで寝てるとさあ、タケノコがぎゅーと伸びてきて、背中を押される夢まで見るでな。それくらい来る日も来る日も竹を切ってるんだよ。そこにだんだんと色んな人が手伝いに来てくれるようになってな。
- 北埜
- 竹に取り憑かれているんですね(笑)。
- 曽根原さん
- そんな勢いで楽しく竹林を整備しながら、竹を炭やメンマに加工して販売したり、竹いかだにしたり。竹害をビジネスで解決することに取り組んでるんだよ。
ボランティアでやってるところは多いけど、ビジネスにしているのは珍しくて、全国からわざわざ一緒に整備を手伝いにきてくれるようになってな。
- 北埜
- 全国って、具体的にはどのくらい来てるんですか?
- 曽根原さん
- 気づいたら35都府県、日本の2/3から来てるな。
- 北埜
- もうすぐで日本全国コンプリートできそうな勢いですね!
- 曽根原さん
- 最近は35都府県のネットワークが発展して「純国産メンマサミット」なんていう全国組織ができて、そこの副代表をやらせてもらったりもしてる。竹をメンマにして美味しく食べることで、全国で問題になっている竹害を解決することを目指す国内唯一の全国組織。今年は淡路島でサミットをやる予定でな。林野庁も後援に入ってくれてる。
舟下りの船頭をやっていた時からは想像できないくらい、竹で本当に人生が変わったね。竹はほんとおもしれーぞ!
- 北埜
- 飯田ではじまった竹林整備の取り組みがきっかけとなって、全国に波及しているんですね。
竹林は油田!? 竹は、持続可能なエネルギーだった
- 北埜
- 飯田市に限らず、全国で竹の異常繁殖が問題になっていると聞いたのですが、実際はどんな状態なんですか?
- 曽根原さん
- 竹害って聞いたことあるかい? 竹って昔からタケノコとして食用に育てたり、かごやざるなんかの日用品に加工して使ったり、日本人の生活に欠かせない資源だったんだ。それが現代になってプラスチックが竹の代用品として広がっていくと、竹の使い道が減ってしまって、竹は放置されていってしまったわけさ。
問題は竹の繁殖力。竹林を切っても1年で元通りの林に戻るくらい繁殖力が強くてな。放っておくと森も飲み込んでしまうんだ。コンクリートも、家の床も突き破って出てくるし、こいつら地下の根っこで繋がってるから、太陽が当たらなくても他の竹が光合成したエネルギーを地下茎で送って繁殖し続ける。
- 北埜
- ものすごい繁殖力ですね。切っても切ってもキリがない。
- 曽根原さん
- そうなんだよ。でも、切っても再生し続けるってことは、見方を変えれば持続可能な資源にもなり得る。例えば、竹って実は広葉樹や針葉樹よりも燃焼カロリーが断然に高いんだよ。竹3本が、灯油18リットル分になる。ここの林ぜーんぶを灯油に換算したら何リットル分になると思う? アラブの石油なんて必要ねえだろって話じゃんね。裏山に竹林持ってたら、油田持ってるようなもんよ!(笑)。
- 北埜
- 竹林が油田になる。竹を見る目がぜんぜん変わってきますね!
- 曽根原さん
- そうだろう。竹害と言うけど、おれらから言わせれば立派な資源だよ。今風にいえば竹はSDGsだよな。持続可能で貴重な資源。
「いいからまずは現場を見ろ!」市・県・国を同じ舟に乗せた船頭の叫び
- 北埜
- ところで、舟下りの船頭から竹林整備って、全然脈絡がないように思えるのですが。
- 曽根原さん
- それが大ありでな。最初は鵞流峡(がりゅうきょう)っていうとこの舟下りの船頭やってて、天龍川をお客さんと一緒に船で下っているわけさあ。本来はそこで四季折々の景色を案内するんだけど、鵞流峡はある時から不法投棄のゴミがひどくなってな。
「左手を見上げてください!あそこに見えるのは、洗濯機です」、「こっちを見ると石油ファンヒーターが落ちてます!」みたいなさ。もうあちらこちらゴミだらけだったわけよ。
- 北埜
- ぜんぜん風情がないですね……。
- 曽根原さん
- そうだろう。だからなんとかしねえといけねえって思って役場に行ったわけ。まず、市の環境課にゴミの不法投棄をなんとかしたいって相談に行ったら、「鵞流峡は県立公園に指定されているから県に行ってほしい」と言われて、県に行ったら「一級河川なので国交省の管轄になる」と言われ、今度は国交省に行ったら「そうは言ってもまずは地元でしょう」と言うわけだ。
このたらい回しを数年間にわたって3回されて、とうとう我慢できなくなってな。「いいからまずは現場を見ろ!」って言っちまったんだよ(笑)。それで市・県・国の担当をみーんな鵞流峡に集めてよ。
- 北埜
- おおお。
- 曽根原さん
- 「とにかく舟に乗れ!」って言ってみんなを舟に乗せて、鵞流峡の現場を案内したら、みんなリアルを目の前にして愕然としてるわけ。その後、話し合いのテーブルについたところで、国交省の当時の課長さんが「もうこれ以上、曽根原さんをたらい回しにするのはやめましょう。これからはみんなが協力し合って、なんとか改善できるようにみんなで話し合って進めていきましょう」って言ってくれてな。そんなこんなで、行政や地域住民も巻き込んだ清掃活動がはじまったんだ。
- 北埜
- すごい巻き込み力!
- 曽根原さん
- そこから10年くらい清掃活動を継続するんだけど、それでも不法投棄が減らなくてな。ゴミが捨てられる根本的な原因を考えているうちに、竹林の繁茂に行きあたったわけさ。
竹林は木よりも成長スピードがものすごく早くて、あっという間に林を飲み込んじまう。昔はきれいだった鵞流峡の景観も暗い竹林ばかりになってしまって、ゴミも捨てられやすくなっていたんだな。そこからごみ収集と並行して、竹林整備も行うようになったわけさ。
「オーガニックメンマ」で竹林整備の活動費を稼ぐ
- 北埜
- なるほど! 鵞流峡の景観を取り戻すために、清掃と竹林の整備をはじめたんですね。船頭と竹林整備のつながりが見えてきました。
- 曽根原さん
- そういうわけ。そこから本気で竹林整備をやりはじめて、6年かけて鵞流峡の竹林はすっかりきれいにできたんだよ。
- 北埜
- すごい! 竹林整備って、具体的にはどんなことをするんですか?
- 曽根原さん
- 竹を切るのは当たり前なんだけど、それ以上に活用が肝なんだ。さっきも言ったけど、竹は継続的に切り続けないといけない。そこで、竹を商品にして販売してビジネスに落とし込むことで、竹林整備を補助金に頼らずに持続可能にする方法を考えたんだ。
- 北埜
- 竹林整備をビジネスにする。
- 曽根原さん
- そうそう。たとえば、おれたちのNPOでは「いなちく」っていう伊那谷産のメンマを商品化してるんだけど、これが人気でな。普通の5倍の価格、100g・500円で売ってるのに、毎年売り切れ。今年の春先は800キロのメンマをつくったけど、もうすぐ売り切れそう。
- 北埜
- 100g・500円で800キロっていうことは…。400万円?
- 曽根原さん
- そうなるなあ。勝手に育った放置竹林から400万円が生まれると思ったらすごいだろう。それに、海外産のメンマは薬品に漬けられたものが多いけど、うちらのは完全オーガニック。自然のタケノコだから、着色料も保存料も一切入ってない。
- 北埜
- オーガニックメンマ!そそられますね……。
「関わり」にあふれる竹の魅力
- 北埜
- こういった商品化まで、曽根原さんたちがプロデュースしているんですか?
- 曽根原さん
- おれらだけじゃ、ここまで色んな広がりは作れないよな。だからこそ、仲間の輪を広げて、おれらだけじゃできないことをやっているんだ。
「いなちく」なんかは、今でこそ地元の漬物会社に協力してもらってつくってるけど、当初は漬物上手な地元のおばちゃんたちに頼んでつくってもらってた。さらに商品の中には地元の小学生の子どもたちがつくったものもあって。小学生の子どもたちが自分たちでメンマをつくって、オリジナルのパッケージを考えてもらったり、ホームページまで作ってもらって、最後の販売まで子どもたちにやってもらってるんだ。
- 北埜
- 自分たちができないところは外に頼ることで、関わりを生んでいるんですね。
- 曽根原さん
- 竹はいくらでも生えてくるから、人手はいくらでも要るわけさ。
- 北埜
- 県外の大学生もこのプロジェクトに関わっていると聞きました。
- 曽根原さん
- IVUSAっていう大学生のボランティア団体が、ここ数年一緒に活動してくれているんだよ。飯田市役所で一緒に活動してくれてる小原くんがIVUSAの出身で、彼が声をかけてくれてな。
- 小原さん
- 活動に関わって、もう8年目になりますね。今年から関係人口を増やす市役所の仕事としてやらせてもらっていますが、7年間はずっとプライベートで関わっていて。「これは面白い」と思って、IVUSAにも声をかけたんです。来週も、数十人の学生が竹を切りに都市部から来ますよ。
- 北埜
- 竹を切りに大学生が集まるんですか??
- 小原さん
- 曽根原さんのお人柄もありますけど、竹は切るだけじゃない面白さがあるんです。竹で作った竹炭と、竹を金網がわりにした竹編みでバーベキューをしたり、ご飯も竹筒で炊いてみたり。
- 北埜
- 竹って焼肉の網としても使えるんですか!
- 曽根原さん
- 竹で焼くと熱伝導が良い上に、すげえしっとり焼けて肉が柔らかい。美味いんだよ!
次世代に繋いでいくために、NPO法人化を決意
- 北埜
- 曽根原さんは竹林整備を数十年間、市民活動として取り組みながら、2年前からはNPO法人としての活動に切り替えたそうですね。どうしてわざわざこのタイミングでNPO法人化されたんですか?
- 曽根原さん
- 市民活動なんてやめようと思えば、すぐにやめられちゃうだろ。そうじゃなくて、やっぱりこの取り組みを絶対飯田に根付いたビジネスにしていきたいんだよな。
- 北埜
- そこまで事業化にこだわるのはなぜですか?
- 曽根原さん
- 法人化を決意したのは、高校生相手に講演をした時に言われた一言がきっかけだったな。講演が終わった後にある高校生が近づいてきて聞くんだよ。「僕のこと覚えてますか?」って。その子は、小学生の時に竹林整備の活動に参加してくれた子だったんだよ。
将来はなんとなく都内の大学に出て、名の知れた企業に就職しようと思ってたらしいんだけど、コロナになってこれからどうやって生きてくべきか、色々考えたらしいんだ。
その子にとって一番印象に残っていたのが、小学校6年の時にうちらと一緒にやってきた竹林整備の活動で。それが今、ものすごく意味のあることに繋がっている。だから、自分の将来を考えた時に、自分が仕事することで地域の貢献に繋がるような人生を歩んでいきたいって。そういう話をわざわざおれにしてくれたわけさ。
- 北埜
- それはやってきた甲斐がありましたね…。
- 曽根原さん
- その話を聞いた時、すげえ感動した。と同時に、「やべえ、このままだとそういう若い子たちが勤めれる先がねえ」って思ったんだよ。どれだけ意義のある活動だって、それがボランティアだったら、子供たちが社会に出た時に「竹林整備じゃ生活もできないし、あんなもの嘘っぱちじゃんか」って思われちまう。
だから、あの子のような若い世代が、うちらみたいな仕事がしたいって思ってくれた時に、「一緒に働こう」っていえるようなものにしていかなきゃいけねえ、て思ったんだ。その後、すぐに会社を辞めてNPOを立ち上げたんだよ。
- 北埜
- 単に竹林の課題を解決するだけじゃなく、次の世代の仕事や夢をつくっていくところまで考えられていたなんて。それはNPOじゃなくちゃできないことですね。
- 曽根原さん
- そりゃあ、そこまで考えなきゃ法人なんか立てねえよ。NPOなんてやらなくても、あと2年くらいボーっとしてら、定年退職で退職金もらってハワイにでも行ってさ、カンパリソーダでも飲んでられたのによ(笑)。それが、コルセットして茨の道へと進んじまったわけなんだけど、やるだけの価値はあるな。今となっちゃあ、面白くてしようがねえよ。
取材を終えて
誰かのためではなく、まずは誰よりも自分たちが楽しいことをやる。
楽しいから仲間も、知恵も集まる。
そして、楽しさを持続可能にしていくために、活動をしっかりとビジネスにしていく。
地域課題を解決するための取り組みが全国で生まれては継続できずに消えていく中、曽根原さんたちが教えてくれたことは、楽しくないと続かないけれど、楽しいだけでも続かない。だからこそ、感情と算盤のバランスを大切にしていくことで、真の意味で持続可能なプロジェクトになっていくということでした。
取材を終えて、私たち取材メンバーもすっかり、曽根原さんたちのファンになりました。
竹林整備に興味を持った方は、ぜひ飯田に足を運んでみてはいかがでしょうか。