2021.12.06
文豪が通った「一膳めし屋」 復活させたのは神奈川から移住した女性
2016年4月に閉店した文豪島崎藤村ゆかりの一膳めし屋「揚羽(あげは)屋」(小諸市大手)が、カフェ兼宿泊施設としてリニューアルオープンした。店主は今夏、神奈川県湯河原町から移住した主婦の竹尾智菜美(ちなみ)さん(54)。竹尾さんは「小諸のブランド化に取り組み、街の活性化へつなげたい」と意気込む。
東京都出身。早稲田大卒業後、出版社勤務を経て雑誌ライターを約15年続けた。小諸市への移住のきっかけをつくったのは、夫の竹尾茂樹さん(67)だ。茂樹さんは明治学院大教授を務め、文化人類学が専門。藤村が1期生だった同大と小諸市が連携協定を結んでいる縁で、同市でもフィールドワークをしている。
竹尾さんは2018年に初めて小諸を訪れ、豊かな自然とおいしい農産物に魅了された。両親の介護が一段落し起業を考え、昨年、小諸商工会議所の創業塾へ。「仕事で培ってきたものを生かしたい。人とコミュニケーションを図りながら発信したい」とカフェを思い付き、空き店舗だった揚羽屋を知人に紹介してもらった。電気工事の資格を生かし、店舗を自ら改修した。
揚羽屋は1885(明治18)年の創業以来、6人の経営者が店を続けてきた。明治32年に小諸に移住した藤村が足しげく通い、豆腐やうどんを食べたことを随筆集「千曲川のスケッチ」に生き生きとつづった。湯河原町と小諸市を行き来して暮らす茂樹さんは「小諸は自然と文化を考えるにはとても良い所。この街にしかない店になることを、家族の一員としても応援している」と話す。
1階はカフェでカウンターとテーブル計32席、2階は宿泊客向けに15畳2間と4畳半1間がある。料理には茂樹さんが小諸市糠地で畑を借りて作る野菜を使い、米も小諸産だ。日替わり御膳850円、スイーツセットやビール、ワインを提供。10月上旬の城下町フェスタで4日間だけオープンした際は年配の女性客がビールを飲みながら読書していた。竹尾さんは「この街のお年寄りや旅行客がくつろげるお店にしたい」。
今月中旬から薪(まき)ストーブを導入、既存のいろりでも炭火を使う。糠地の民宿などと連携し、薪ストーブを置く宿泊施設をブランド化するプランを練る。「一大観光地の軽井沢も良いが、小諸の魅力はこれからじわじわ分かってくると思う」(2021年11月5日掲載)