移住したくなったら

文豪が通った「一膳めし屋」 復活させたのは神奈川から移住した女性

文豪が通った「一膳めし屋」 復活させたのは神奈川から移住した女性

 2016年4月に閉店した文豪島崎藤村ゆかりの一膳めし屋「揚羽(あげは)屋」(小諸市大手)が、カフェ兼宿泊施設としてリニューアルオープンした。店主は今夏、神奈川県湯河原町から移住した主婦の竹尾智菜美(ちなみ)さん(54)。竹尾さんは「小諸のブランド化に取り組み、街の活性化へつなげたい」と意気込む。

 東京都出身。早稲田大卒業後、出版社勤務を経て雑誌ライターを約15年続けた。小諸市への移住のきっかけをつくったのは、夫の竹尾茂樹さん(67)だ。茂樹さんは明治学院大教授を務め、文化人類学が専門。藤村が1期生だった同大と小諸市が連携協定を結んでいる縁で、同市でもフィールドワークをしている。

 竹尾さんは2018年に初めて小諸を訪れ、豊かな自然とおいしい農産物に魅了された。両親の介護が一段落し起業を考え、昨年、小諸商工会議所の創業塾へ。「仕事で培ってきたものを生かしたい。人とコミュニケーションを図りながら発信したい」とカフェを思い付き、空き店舗だった揚羽屋を知人に紹介してもらった。電気工事の資格を生かし、店舗を自ら改修した。

 揚羽屋は1885(明治18)年の創業以来、6人の経営者が店を続けてきた。明治32年に小諸に移住した藤村が足しげく通い、豆腐やうどんを食べたことを随筆集「千曲川のスケッチ」に生き生きとつづった。湯河原町と小諸市を行き来して暮らす茂樹さんは「小諸は自然と文化を考えるにはとても良い所。この街にしかない店になることを、家族の一員としても応援している」と話す。

 1階はカフェでカウンターとテーブル計32席、2階は宿泊客向けに15畳2間と4畳半1間がある。料理には茂樹さんが小諸市糠地で畑を借りて作る野菜を使い、米も小諸産だ。日替わり御膳850円、スイーツセットやビール、ワインを提供。10月上旬の城下町フェスタで4日間だけオープンした際は年配の女性客がビールを飲みながら読書していた。竹尾さんは「この街のお年寄りや旅行客がくつろげるお店にしたい」。

 今月中旬から薪(まき)ストーブを導入、既存のいろりでも炭火を使う。糠地の民宿などと連携し、薪ストーブを置く宿泊施設をブランド化するプランを練る。「一大観光地の軽井沢も良いが、小諸の魅力はこれからじわじわ分かってくると思う」(2021年11月5日掲載)

この記事を書いた人
1873(明治6)年に創刊した長野県で日刊新聞を発行する企業です。きめ細かい取材網を生かした公正で迅速な報道に努めてきました。紙面づくりや多彩なイベントを通じた読者との双方向性を大切にしながら地域の産業や文化の振興も目指してきました。販売部数は約43万9000部(2020年4月)。県内シェアは70%超。地域に親しまれ、信頼される長野県民の主読紙として、人と時代をつなぐ仕事に取り組んでいます。