移住したくなったら

渓谷や山岳望める「天空のサウナ」 高山村・山田温泉の松川館が新設

渓谷や山岳望める「天空のサウナ」 高山村・山田温泉の松川館が新設

 高山村山田温泉の旅館「梅の屋リゾート松川館」が、施設内にフィンランド式のサウナを作った。「天空のサウナ」と銘打ち、松川渓谷や北信五岳を望める。旅館の涌井貞朋社長(48)は、名古屋市で経営コンサルタント会社を経営。新型コロナウイルスの感染拡大で観光業が低迷する中、山田温泉に若い世代を引きつけるため、近隣の旅館と連携した集客策も模索する。

 サウナ施設は旅館3階屋上に整備。高温の石に水をかけ、蒸気で部屋を暖める「ロウリュ」が体験できる。旅館で使っていたみそだるを水風呂として活用。周囲の風景を楽しみながら外気浴もできる。

 涌井さんは名古屋市出身。母方の親戚のいる村内で松川館が売りに出されていることを知り、施設を取得。2018年に経営を始めた。19年から本腰を入れ、妻と2人の子どもと一緒に移住。「旅館業は初めてだが、さまざまなアイデアを試す余地がある」と話す。経営コンサルタント会社は社員らに任せている。

 オーナーに就任して最初に取り組んだのは宿泊料の改定だ。涌井さんは「バブル期をピークに国内の旅行客は減っている」と指摘。従来は宿泊客数を確保できるおかげで1人1万円台のプランを提供できたが、宿泊客が減る中、客単価を上げることを考えた。

 露天風呂を新設したほか、風呂場や部屋を改装して清潔感を前面に打ち出した。料理も村の猟師が捕ったイノシシの肉や須坂市で採れたキノコをふんだんに使った鍋料理などを提供。1人4万円台に設定したプランも一定の客を引きつけ、売り上げを順調に伸ばしてきた。

 だが、新型コロナの影響で20年以降は売り上げは激減。この2~3年を「未来の観光のために投資する時期」と位置づけ、平日の日帰りプランの提供を開始。集客の試行錯誤を続けている。

 そうした取り組みの一環で、都市部を中心に若者に人気のサウナも導入することにした。LINE(ライン)やインスタグラムなどの会員制交流サイト(SNS)でサウナについて投稿している人などを検索。直接メッセージを送り、新たな客層を開拓する工夫も重ねる。

 20年9月、周辺の旅館の有志と旅行代理店「湯こっCha株式会社」を設立した。3旅館と提携し、暗闇で星空を眺められる八滝周辺まで共同で送迎の車を走らせる取り組みを開始。今後も地元事業者と連携した山田温泉への誘客を積極的に進めるという。

 先行きに不安を募らせる旅館なども地域に少なくない中、「独自のアイデアを考え形にするのが私の役割」と涌井さん。「成功したアイデアを村の観光業全体で共有できればいい」と見据えた。(2021年5月18日、信濃毎日新聞)

「若い世代に響くサービスをどんどん考えていきたい」と意気込む涌井さん