
2026.05.28
【座談会】長野の山で働くってどう?異業種から林業を選んだ3人が見つけたもの

長野県の面積の約8割は森林でできています。その広大な山を手入れし、次の世代へとつないでいるのが「林業に携わる人」たち。
かつては「きつい・汚い・危険」といったイメージもあり、担い手不足が課題とされてきた林業ですが、近年、長野県では新たに林業を選ぶ人たちが少しずつ増えてきています。中でも、新規就業者の約3割は県外からの移住者なんだとか。
自然の中で暮らしたい。山と関わる仕事がしたい。そんな思いと、林業という仕事はどう結びついているのでしょうか?
実際に長野へ移住して林業に就いた2人と、地元に戻ってこの仕事を選んだ1人に話を聞くことに。なぜ彼らは山で働く道を選んだのか? そして、どんな思いで林業に携わっているのか、じっくり話を伺いました。
- 座談会参加者
- 井上悠(41)いのうえ・ゆう
埼玉県出身。都内で飲食店の店長を経験した後、夫婦で伊那市に移住。2023年から山林整備や特殊伐採などを請け負う「島崎山林塾企業組合」(伊那市)で勤務している。林野庁の「緑の雇用(※)」の研修制度を活用して、一人前の技術者となるために日々研さんを積んでいる。
石渡勇輝(35)いしわたり・ゆうき
山梨県出身。2023年に上松町に移住して妻と子どもの3人暮らし。製薬会社での営業職を経て、森林整備や木曽ヒノキを使った精油製品の製造を行う「ひのき精香株式会社」(上松町)で働いている。緑の雇用での3年間の研修を終えた。
西門裕貴(30)にしもん・ゆうき
松本市出身。林野庁で各地の治山事業や国有林管理に携わった後、朝日村にJターンし、2025年に伊那市の木工製品の製造・販売などの「株式会社やまとわ」に入社。2024年には樹木医の資格を取得した。妻との2人暮らし。
※緑の雇用:林業の担い手を育成するために、未経験者が働きながら技術や知識を学べる国の研修制度。
どうして林業の世界へ?それぞれのきっかけ

——みなさんが数ある仕事の中で、林業を選んだきっかけは何だったのでしょうか?
- 井上
- 僕は以前、都内で約20年飲食店の店長として働いていました。仕事で多忙な日々に疲れてしまい、ストレス解消のため山登りを始めたんです。そんな中、「長野に住むのもいいな〜」と思うようになり、飲食店を辞めて、夫婦で伊那に移住しました。そこで、山に関わる仕事がしたいと思い、林業を選びました。
- 石渡
- 元々妻が長野出身で、彼女の実家が近い場所で子育てをするために県内へ移住しました。身体を動かす仕事がしたかったのと、知り合いに林業経験者がおらず、人と違うことをやってみたいという興味もあって、その流れで林業の道を選びました。
- 西門
- 僕は松本出身で、中学卒業後に市内のリンゴ園で働いていました。その中で植物の生態に興味を持ち、大学で森林学科を専攻することに。その後、林野庁に入庁し、栃木県や群馬県など毎年さまざまな地域の森林管理に携わりました。
転勤しながら複数の森に携わるのも楽しかったんですけど、1カ所の森に深く関わりながら、ボトムアップで人と森の関係を模索したいと思って。長野には、10代の頃に初めてチェンソーの扱い方を教えてもらった林業会社があって、憧れたその人たちと同じ業界で働きたいと思い、地元に戻って林業をやることにしました。
——それぞれの思いで林業を選ばれたと思いますが、実際に働いてみていかがでしょうか?
- 井上
- とても楽しいです。例えば、チェーンソーで伐採した木をロープで結び、重機で引っ張るんですが、どのルートを通すかは現場ごとに違っていて。「切り株などの障害物をどう除去しようか……」とか、それを考えるのがゲームみたいで面白いんですよね。狙い通りに倒すのはなかなか難しいんですけどね。

- 石渡
- 分かります。木が狙い通りに倒れると気持ちがいいですよね。この仕事に携わってみると、現在の森林には戦後に植えられた木々が、材木として伐採に適した時期を迎えていることを知りました。
それらを適切に伐ることは、その山が持っている力を最大限に生かすためにも必要で、自然にも地域にも意義のある仕事だと感じています。また、日没前には仕事が終わり、残業もないので家族との時間を取りやすいのも魅力ですね。前職ではサービス残業が当たり前だったので。
- 西門
- 僕は、自社商品に使う木材を伐採したり、委託で管理している山の森林保全のために間伐作業をしたりしているのですが、その合間にふと見上げた青空に癒やされています。特徴的な鳴き声の鳥を聞いて名前を調べるなど、森の中には新しい発見が多くて、飽きることがないんです。
「3K」のイメージと現実。林業のリアルと見えにくさ

——ちなみに、林業は「3K(きつい・汚い・危険)」と言われている職種ですが、実際の感覚としてはどうですか?
- 井上
- 個人的な意見ですが、今の方が心も身体も「超健康体」になったと感じています。給料は前職より下がったけど。他の人はどうだろう?
- 石渡
- 僕も給料は前職の年収の半分くらいになったので、「きつい・汚い・危険」に加えて「給料が低い」で“4K”かな(笑)正直、林業だけで家族を養っていくのはきついですね。
- 西門
- 僕も給与はぐっと下がりました。だからこそ、次の世代に向けて待遇面の改善は必要ですよね。
- 石渡
- そうですね。大事な仕事だからこそ、そこは何とかしたいなとは思います。
- 西門
- 後、体力的なきつさについては、事前のイメージとのギャップが大きいほど強く感じるのかも。僕は林野庁である程度この業界を見た上で納得して飛び込んだので、きつい作業もあまりストレスには感じていないんです。手の豆が大きくなった時も、「こういう生き方がしたかったんだよな!」と感じたくらい。
- 井上
- イメージの点でいうと、都会にいると林業の仕事に触れる機会が少なく、なかなか具体的に想像しづらいんだと思います。例えば、農業なら各地で体験できる機会も多くあるので、何となく想像できるじゃないですか。
でも、林業は見たり体験したりする機会が圧倒的に少ない。SNSなどで発信する人もあまりいなくて、どちらかというと閉鎖的な環境に思えてしまうんですよね。
- 石渡
- たしかに、林業って普段の生活と接点を持ちづらいですよね。木材の製品は身近にあるけれど、そこからどんな風に木を伐っているのかまでは、イメージを膨らませるのは難しい……。

- 西門
- 業界全体で構造が見えづらく、事業体ごとの仕事内容も分かりにくい。そうした中で、実際に就業まで踏み出すのは、なかなか簡単ではないですよね。実際に、林業に興味を持って話を聞いてくれた友人も、はじめの一歩を踏み出せずにいました。だからこそ、こうして取材などで現場や働き方をまずは知ってもらうことが大切だと思っています。
動いて初めて見えてくる、就職活動のかたち
——林業は外から見えにくい部分もあると思いますが、みなさんはどのようにして今の職場と出会ったのですか?
- 井上
- 僕は都内で長野県の移住セミナーに参加し、林業の企業を紹介してもらったのがきっかけです。その後、今の会社「島崎山林塾」の方と出会い、現場を見学させてもらいました。“あうん”のチームワークで作業が進む姿が格好よくて、「ここで働きたい!」と思ったんです。
最初は採用を断られて、「稼げないよ」とも言われましたが、それでもお願いして入社しました。現在は林野庁の「緑の雇用」を活用しながら、技術を学んでいます。

- 石渡
- 僕も長野県のアンテナショップ「銀座NAGANO」での移住相談がきっかけです。林業事業体の合同説明会に参加して志望先を決めましたが、経験者のみの募集で断念して。その後、緑の雇用制度を知り、改めて探すことにして。最終的に、完全週休2日制を導入している「ひのき精香株式会社」に魅力を感じて、入社を決めたんです。

- 西門
- 僕も、「やまとわ」への入社はかなり会社に融通をきいてもらいました。2023年に長野県内で開催された地域課題の教育プログラムで会社を知り、経木づくりや森のビジョンづくりなど木材生産にとどまらない取り組みに惹かれて、「ここで働きたい!」と思ったんです。ただ、希望職種の募集はなく、入社時期も合いませんでした。それでも働きたい思いとやりたいことを伝えて応募したところ、幸いなことに翌年入社を受け入れてもらえました。

- 石渡
- 林業に限らず、自分からアクションを起こしていかないと、本当に合う場所にはなかなか出会えないですよね。
- 西門
- そうそう。それにこの業界は閉鎖的な分、顔の見える関係の信頼度は高いですよね。表では新規募集はしていないと言っていても、人づてだったら機会に恵まれることがありますし。
- 井上
- 一方で、業界全体としては人手不足ですし、もっとオープンになっていってもいいのになとは思いますよね。
——人手不足という課題がありながらも、情報の届きにくさがハードルになっている林業の現場。だからこそ、こうしたみなさんの声が少しずつ外に開かれていくことが、次の担い手につながっていくのかもしれませんね。
長野の林業を次世代につないでいくために
——ここ数年で、移住者を含めて林業に関わる人の増え方に変化は感じていますか?
- 石渡
- 新型コロナ禍以降、キャンプの流行などで山に親しむ人は増えたと感じます。だけど、それがそのまま林業に就こうという人の増加につながっているかというと、まだそこまでではないなと。

- 西門
- 業界では高齢の方も多く、定年などを理由に退職される方も一定数いるので、全体として増えている印象はありませんね。ただ、自然豊かな環境で働けるのは林業の魅力でもありますし、移住を考える方の志向にはマッチする部分があるんじゃないのかな。
——そうした課題がある中で、林業に関わる人を増やすために必要なことは何だと思いますか?
- 石渡
- 僕としては、 これからは林業の裾野をもっと広げていきたいと思っていて。
将来的には、関係人口を増やすような取り組みにも関わっていきたいですね。実際、昨年は森林でのレクリエーションなどを手掛ける株式会社フォレストーリー(諏訪市)様と一緒に、子どもたちが森の中でサバゲー(サバイバルゲーム)を楽しむイベントを企画しました。

- 石渡
- 自分自身も若い頃の経験が今につながっていると感じているので、子どものうちから森に触れる機会は大事だと思うんです。今ある木を切るだけでなく、将来の担い手を増やしていくことも、業界の未来には必要なことですね。
- 井上
- 僕も同感です。今はまだ、林業が「子どもたちのなりたい職業ランキング」の上位には入っていないので、まずは上伊那で10位くらいを目指したいなと(笑)
その一歩として、2024年から、上伊那地域で開催されているマルシェに出展して端材を使ったツリーやリースを販売し始めました。木を身近に感じてもらい、林業に興味を持つ子どもが増えてくれたら嬉しいですね。

- 西門
- 僕も人と山をつなぎ、森をより身近な存在にしたいと思っていて。そのため今、伐採の際に支障となる低木など今までは捨てられるだけだった資源を活用し、庭木などとして町に森を届けるプロジェクトにも携わっています。
林業が木材の生産にとどまらず、観光や教育などさまざまな関わり方ができる業界になれば、次世代がこの仕事を選ぶ機会も増えるはず。そのためにも、これからも山と関わりながら、新たな魅力をつくっていきたいですね。

長野県では、林業に新規就業を考える方に向けてさまざまな助成を行っています。
詳しくは、下記URLをご覧ください。
「ながの森ジョブ.BASE」 新規就業者向け助成事業一覧ページ
https://nagano-morijob.com/business/subsidy/#anc02
構成/町田茉由
執筆・編集/吉野舞
撮影/河谷俊輔

