移住したくなったら

「あなたはどんな農家になりたい?」専業から家庭菜園まで、地方で農業を始めるときのスタイルを徹底解説!

「あなたはどんな農家になりたい?」専業から家庭菜園まで、地方で農業を始めるときのスタイルを徹底解説!

こんにちは。

長野県出身、東京在住のコピーライター小林拓水です。

私自身、長野県への移住希望者のひとり。前回の記事で長野県の補助金事情について話を聞いたのですが、まだまだ本格移住には一歩踏み出せず……。

その一方で、「農業がやりたい!」という新たな気持ちも募ってきました。

道ばたのお花もつい愛でちゃいます。

しかし、いざ農業を始めるとなると、「畑はどうやって見つけたらいい?」「技術はどうやって学ぶべき?」「そもそも何を育てよう?」などなどわからないことがたくさん……!

そこで!

今回もまたまた長野県庁にやってきました!

訪問したのは、長野県農政部農村振興課。

主に新規就農を目指す方からの相談を担当している中村憲太郎さん(右)と、家庭菜園など一般の方からの相談を担当している農業アドバイザーの山村まゆさん(左)に、話を聞きました。

「どんな農業をやりたいか?」から理想のスタイルを考える

小林
長野県に移住して農家になりたいんです!
中村さん
いきなりですね(笑)。その前に小林さんは、農作業の経験はありますか?
小林
実家に帰ったときに、農作業のお手伝いをすることはあります。
中村さん
それなら良かったです。農業をはじめる前には、まず実家のお手伝いや収穫体験など手軽な方法で農作業に触れてみることをおすすめしているんです。そこで「やっぱり農業に取り組みたい」という自分の気持ちを確かめてほしいので。
小林
たしかにいきなり農業の世界に飛び込んで「なんか違った!」とミスマッチが生じたら大変ですね……!
中村さん
そして、小林さんはどんな農家になりたいと思っていますか?
小林
ど、どんな農家……?そんなことしっかり考えていなかったなぁ。
中村さん
一言で「農業をやる」といっても、さまざまなパターンがあるんです。まず農業を主な収入源として生業にするかどうか。そしてもし生業にする場合は、独立自営するのか、農業法人等に携わりたいのか。もし生業にしない場合にも収入を得たいかどうか……など。

参考までにかなり簡略化したチャートをつくってみました。ちなみに長野県では、生活の中に「農」を取り入れるスタイルを「農ある暮らし」と呼んでいます。
小林
さまざまな選択肢があるんですね……!僕の場合はコピーライターの仕事があるから、「農ある暮らし」の中のいずれかかなぁ。ただ、家庭菜園などはイメージがつくんですが、「クラインガルテン」や「半農半X」とは一体なんでしょうか?
山村さん
「クラインガルテン」とは、菜園に宿泊可能な休憩小屋が付いた滞在型市民農園のこと。平日は都会で暮らしつつ、週末には長野を訪れて畑作業に勤しむという方にはおすすめのスタイルです。小林さんのように将来的な移住を検討していて、農業にも興味がある方の入り口としては適しているかもしれません。
「半農半X」や家庭菜園など人によって農業のスタイルはさまざま
小林
たしかに、準備も要らないんだったら僕にもできそうだなぁ。
山村さん
「半農半X」は、農業とそれ以外の仕事を組み合わせて生活を送るスタイル。農業が半分、それ以外の仕事(=X)が半分、という意味で「半農半X」と呼ばれています。アーティストとしての創作活動をしながら農業を行ったり、地域の温泉施設に勤めながら農業を行ったりする方など、さまざまなパターンがあるんですよ。

「農ある暮らし」4種類の特徴!

小林
農業にいろいろなスタイルがあることはわかったけれど、まだ決めきれないなぁ。それぞれのスタイルの特徴について教えてもらっていいですか。
山村さん
はい。まずはクラインガルテンから説明しましょう。クラインガルテンの場合、畑がすでに確保されているのが大きな特徴です。さらに施設によってはアドバイザーから技術を教えてもらえたり、農機具などの設備を使用できたり、地域とのコミュニケーションを取れるところもあります。
小林
めちゃくちゃ良いじゃないですか!
山村さん
ただし、年間の使用料や県外との往復交通費が発生することを考えると、比較的コストがかかるという側面もあります。また、畑を訪れる機会は週末などに限定されるので、自分で作物を育てる手応えや醍醐味は他のスタイルよりは少なくなるでしょう。そもそも、完全移住後は別のスタイルに移行しないといけないので、あくまで「農ある暮らし」への入り口と認識しておいた方がいいと思います。
小林
なるほどなぁ。それでは家庭菜園はどうですか?イチから自分でやるとなると、どうやって畑を探したらいいのかもわからないんですが……。
山村さん
家庭菜園の場合、農地探しに関してはいくつかのパターンがあります。例えば畑付きの住宅を借りる、もしくは買う、市民農園を借りる、知り合いの畑の一部を借りるなどです。
小林
畑付きの古民家に住んで、妻や子どもと一緒にワイワイ収穫する暮らしもいいなぁ……。
山村さん
たしかに自宅の庭で野菜を育てるのも家庭菜園の醍醐味だと思います。ただ、巷に出回っている畑付きの物件の数はそう多くはありません。その中でも優良農地はレアケースなので、見つけたら早めに抑えることをおすすめします。
小林
それは争奪戦になりそうだ!知り合いで畑を持っている人もいないし、もし畑付き物件が見当たらなかったら市民農園か。
山村さん
長野県の場合、市民農園も手軽に始められるスタイルなのでおすすめですよ。抽選になることはありますが、東京などの都市部と比べると、かなり倍率は低いですし、借りられる期間も長めに設定されています。都市部では利用期間が1〜3年程度というケースが多いですが、長野県内の市町村によっては最長5年というケースも少なくありません。
小林
おお!それはありがたい。
山村さん
しかも、市民農園によっては開設者が土起こしをやってくれたり、作物の育て方を教えてくれるアドバイザーがいたりするところもあります。
小林
ちなみに、作物の育て方を教えてくれる人がいない場合はどうやって学べばいいのでしょうか……?
山村さん
そんな方々のために長野県が設置したのが「農ある暮らし相談センター」です。農作物の栽培管理や病気・害虫対策のアドバイスをはじめ、「農ある暮らし」を実現するためのさまざまな相談に無料で応えています。塩尻にあるセンターまで直接訪問いただくのはもちろん、電話やメールでもご相談が可能です。

そのほか、長野県農業大学校などと協力して農ある暮らし入門研修も実施しています。
小林
いやぁかなり心強いですね。そうしたら半農半Xはどうでしょう?
山村さん
半農半Xのスタイルは人それぞれですね。たとえば、家庭菜園の延長線上で取り組む人もいれば、農地を借りて取り組む人、実家の畑を引き継いで取り組む人などがいます。「腰を据えて取り組みたいけれど、農業だけで生活を成り立たせるのはまだハードルが高い」という方が本業と両立して行うパターンが多いですね。
小林
ふむふむ、なるほど。家庭菜園よりはもう少し本格的な農業になってくる感じですね。でも、農地を持っている知り合いがいたり、実家に畑を持っていたりする人は少ないと思うのですが、そういった場合はどうすればいいのでしょう?
山村さん
まずは、各市町村の農政担当窓口に行って相談してもらうといいと思います。市町村によっては、広さや住所などの条件から農地を探すことができるんです。ただ、日当たりや土壌の様子などは、実際に足を運んで確かめるのがおすすめです。また、市町村によっては農家資格等が別途必要なところもあるので、詳しくはご自身が住む自治体に確認いただければと思います。
小林
ちなみに、半農半Xの場合も「農ある暮らし相談センター」は利用できますか?農地は確保できても、いきなり栽培技術を身につけられるか自信がなくて……。
山村さん
もちろんです!「農ある暮らし」を実現したい人だったら半農半Xの方もご気軽に相談できます。
小林
良かった〜!
小林
最後に、農業バイトの特徴も教えてください!
山村さん
農業のノウハウをイチから気軽に学ぶことができるのが農業バイトの大きな特徴ですね。また、ほかのスタイルだったら「農地の確保」を考えなければいけませんが、そこも気にする必要がありません。
県内には農業バイトで「農ある暮らし」を楽しむ方も。
小林
農地を探さなくていいし、ノウハウも教えてもらえる。メリットが多そうですね!
山村さん
栽培する作物は勤め先の農業法人や農家に委ねられますが、今後の就農を見越して収入を得つつ、技術を学んでいきたい方には、よい選択肢になると思います。

独立自営就農のハードルは高い!そんなときの里親制度

小林
ここまでは部分的に農業に関わるスタイルを教えていただきましたが、農業を生業にして新規就農したい場合におすすめの制度もあったりするんですか……?
中村さん
はい、ありますよ。もっともご利用いただいているのは、新規就農里親制度。これは技術習得のための研修や農地・住宅等の確保支援、地域とのネットワークづくりなど、移住後の就農や暮らし全般の面倒を見てくれる熟練農家の里親をご紹介する制度です。
小林
農家の里親……!これは安心ですね。
中村さん
あくまで研修という名目なので、1年目のみ月額14000円の費用がかかります。でも、農家として独立するにあたって必要なあらゆることを2年間で確実に身につけることができるんです。これまで、400人以上の方がこの制度を使って独立就農していきました。
小林
400人以上も農家として独立していったんですか!ただやっぱり、2年間は研修費用がかかったり、収入が得られなかったりすることが気になります……。お金の面での支援はあるのでしょうか?
中村さん
はい、要件を満たせば研修期間中に国や県から年間最大150万円ほどの支援を、最長2年間受けられます。また、市町村によっては、さらに独自の支援金を用意しているところもあるので、そのような支援を活用して新規就農里親制度を利用している方が多いですね。
小林
ちゃんと支援があるんですね。良かった〜!
中村さん
農地や設備の確保、技術の習得、販路の開拓、地域とのネットワーク……本来独立自営就農は多くの問題をクリアする必要があり、決して簡単ではありません。そのようなハードルを越えるために用意されているのが里親制度です。

支援金があるとはいえ、ある程度の自己資金は準備しておく必要があります。独立自営就農は、起業と同じ。事業を育てて、軌道に乗るまである程度の覚悟が必要なんです。
小林
独立自営就農するということは経営者になる、ということですね。
中村さん
その通り。また、市町村の中には、農業に従事する内容で地域おこし協力隊を募集しているところもあります。収入が発生しづらい2年間の研修期間が不安だという方は、そのような募集を探すのもひとつの手かもしれません。

農に携わるためには「確実にステップを踏む」こと

小林
いやぁ、農業にもさまざまな取り組み方があるんですね。知らなかったなぁ。
山村さん
大切なのは、自分に本当に合った農業のスタイルを見つけることだと思います。まずは市民農園を借りるところから始めてもいいし、それが難しければベランダでプランター栽培でもいい。独立自営就農を目指している人は、まずは農業バイトでさまざまな作物に触れて収入を得ながら将来を考えてもいい。大切なのは、一足飛びに考えないことだと思います。
中村さん
たとえば、化学肥料を使った普通の農法もマスターできていない方がいきなり有機農法にチャレンジしても、成功確率は極めて低いんです。急にレベルの高いところにチャレンジして失敗し、農業を諦めてしまってはもったいない。だから、「確実にステップを踏んでほしい」というのが私たちの願いです。

そのためにも、気になった方はまず市町村の農政担当や「農ある暮らし相談センター」に相談してもらえればと思います。一緒に実現したい農業のスタイルを考えながら、最適なステップをご紹介していければ幸いです。

まとめ

「移住して農業にチャレンジする」。

その言葉の裏側には、さまざまなバリエーションが存在していることを知りました。そして、意外と知らなかった農業のハードルも。

まず自分がどんな暮らしを送りたいのか、そこにどう農業を組み合わせることができるのか……そんなことを考えながら、僕なりの移住後の「農ある暮らし」を考えていきたいと思いました。