2022.10.28
長野移住するために東京で結果を出す。山好きYouTuberの夢の叶え方
こんにちは、ライターの筒木と申します。
28歳のとき、故郷である長野にUターン移住して4年が経ちます。
長野に帰ってきてなにより変わったのは、オフの過ごし方。インドアな私でさえ、素晴らしい自然に魅了され、黒姫高原や乗鞍高原などでのトレッキングを季節ごとに楽しむようになりました。
「ちょっとそろそろ登山もしてみたいなー」と思いはじめた私が最近注目しているのが、登山系 YouTuber やぎちゃん。チャンネル登録者数が50,000人を超える注目の YouTuber です(2022年10月現在)。
YouTube には登山を楽しむ様子がたくさんアップされていて、一見キラキラした山ガールな雰囲気のやぎちゃん。
しかし、実は彼女、フルタイムの会社員をこなしながら YouTube 配信をしているんです!仕事と両立させるため、朝4時半に起きて SNS 発信や動画編集にいそしむ生活を送っているらしい……。さらに、新婚なのに配偶者を置いて単身で長野移住をしたそう。
え、こんなかわいらしい彼女が??
尋常ではない時間軸で、もはや生き急いでいるかのようにみえる、やぎちゃんの人生。
フルパワーで行動しているのは、彼女が叶えたいある夢のためでした。
夢も現実も諦めきれない―
そう決心して行動し続ける、やぎちゃんに迫りました。
登山系 YouTuber を突き動かすアジト計画って?
- 筒木
- やぎちゃんは、なぜ長野に移住しようと思ったんですか?
- やぎちゃん
- 長野に来たのは、アジトをつくりたかったからです!
- 筒木
- アジト……?
- やぎちゃん
- 山の麓などに、登山の際の目的地になるような場所をつくりたいんです。山好きな人だけでなく、登山へのあと一歩が踏み出せない初心者の人にとっても居場所だと思える場所にしたい。
長野には魅力的な山々が広がっているので、アジトづくりにぴったりだと思って移住を決めました。
- 筒木
- なるほど。でも、登山する人の目的は、あくまでも登頂することじゃないんですか?
- やぎちゃん
- 私にとっての登山の醍醐味って、山頂を制覇することよりも、山登りをしながら自然の中にどっぷりといられる時間や、麓の温泉やグルメを楽しむことなんです。都会にいて、もっと自然と接したいと思っている人はいるはず。
そんな人の役に立ちたくて、ピザを出したりキャンプできるようにしたり…、「こんなことやりたいな」ってアジトの妄想は膨らみ続けてます。
私が山に救われたから、山の魅力を伝えたくてしょうがないのかも知れません。
- 筒木
- 山に救われた?
- やぎちゃん
- 以前、仕事で転勤したことがあったんですが、周りに頼れる人がいなく、精神的に参ってしまって。そんなとき、登山のおかげで大切な友人ができて、一緒にいろいろな山の体験をしていくなかで、人生が上向いてきたんです。
今は山好きの私だけど、登山初心者だったころは「登山をしてみたいけど、一人だとちょっと怖いし、道具もわからない……」と思っていました。同じように感じている人が、仲間を見つけて、登山を楽しめるきっかけの場所をつくりたいんです。
やぎちゃんの長野移住までの道。移住の手段は転勤一択。
- 筒木
- アジト実現のために、長野に移住されたんですね。やぎちゃんは会社員もしているそうですが、長野の会社に転職したんですか?
- やぎちゃん
- いえ、まずは移住するために、全国展開している東京の大手企業に転職したんです。
- 筒木
- 長野移住のために東京へ!? どうしてまた……
- やぎちゃん
- 移住先で転職活動したら、住む場所も仕事も一からのスタートになるじゃないですか。慣れない土地で、両方うまくやっていけるか不安だったんです。
だから、転勤するのが一番だと思ったんです。それなら、仕事には慣れていて、住まいだけが新しい状態になりますから。
- 筒木
- たしかに……? それでも、転勤できるか分からない大手企業より、長野で転職したほうが早い気もしちゃいます。
- やぎちゃん
- 私、仕事を探すうえで譲れない条件がふたつありまして。ひとつは、土日祝休みで登山の時間が確保できること。もうひとつが、将来のアジトづくりの資金を貯めるために一定の年収があること、です。
この条件を満たすのは、東京本社の会社が圧倒的に多いんです。条件を満たしつつ、移住したいという目標を叶えるため、長野に支社を持つ会社に絞って転職活動をしました。
- 筒木
- 条件が明確! でも、入社後に希望どおりに転勤できるものなんですか?
- やぎちゃん
- いえ、社内の都合もあるので、すぐに長野への転勤希望は通りませんでした。
だから、上司や人事にもずっと「転勤したいです」と自分の意志を伝えつつ、営業職なのでまずは数字で結果を残すことにしました!
- 筒木
- アツいですね!
- やぎちゃん
- 営業成績のために、もう思いつくことはなんでもやりました!
仕事の成長速度を上げるために、まずは課長と部長の間に席を作って、ふたりの仕事をいつも横で観察しながらテレアポしました。営業先に行くときにも単に営業資料を持っていくだけじゃなくとことん下調べをしていったり、決まり文句の営業ではなく社長さんの話をたくさん聞いてより踏み込んだ提案をしたり……。
- 筒木
- 本当にすごいですね。そのモチベーションはどうやって維持したんですか?
- やぎちゃん
- やっぱり転勤したいから、ですね。
「東京で結果を残せたら地方でもやっていけると思うんです!」「異動したいから頑張ってるんです!」って上司にも言い続けて。実際、営業成績も伸びて社内の賞をもらえるようにもなったんです。
そして、ようやく!念願かなって2022年の春から長野勤務になったんです!
- 筒木
- そうだったんですね、おめでとうございます! ちなみに、途中で「やっぱり移住して転職しよう」なんて気持ちになったことは?
- やぎちゃん
- 数%もなかったですね。必ず結果を出して転勤を認めてもらう、と決めていたので。
- 筒木
- 覚悟がすごい……
結婚して3ヶ月での転勤内示、夫婦はどう乗り越えたのか
- 筒木
- ところで、やぎちゃんは2021年に結婚されて、配偶者さんとは離れて暮らしているそうですね?
- やぎちゃん
- はい、そうなんです。
転勤の話が出たのが、結婚して3ヶ月経ったころ。夫には「結婚したばかりだし、結婚式だってこれからだよ? まさか結婚式、現地集合じゃないよね?」なんて言われたりして(笑)
でも、誰よりも側で見てくれていましたし、私の気持ちを尊重してくれて。夫は東京、私は長野と、いったん離れて暮らすことを選択しました。
- 筒木
- 新婚で離れて暮らすという決断、なかなか難しかったのでは?
- やぎちゃん
- もちろん、夫と一緒にいたい気持ちはありました。一方で、「アジト」をつくるために貯金し、移住を目指し、仕事も YouTube もずっと頑張ってきた私の人生もあって。結婚したからといって、全てを手放すことは想像できませんでした。
夫はすぐに今の会社を辞めることはできないものの、「ずっと東京に住みたいわけではないな」とも言ってくれていて。
- 筒木
- あ、将来的にふたりで移住することも視野に入っているんですね。
- やぎちゃん
- そうなんです。だから、もしふたりで長野に行く未来があれば、私が先に移住することで長野のことが分かる、そうすれば、ふたりで一気に移住するよりもリスクが減る。だから、まずは私が偵察に行ってくる!って説得しました(笑)
夫は「目的地は一緒だけど、やぎちゃんは新幹線の速度で、自分は各駅停車みたいな感じだね」って言ってくれています。
- 筒木
- おふたりの関係が目に浮かびます!ちなみに、普段はどれくらいの頻度で会っているんですか?
- やぎちゃん
- 週末は必ず東京か長野、どちらかに集合してふたりで過ごしています。
長野駅から大宮駅までは新幹線で約1時間。そう思うと、けっこう近く感じられますよね。
あと、毎日欠かさず1時間は電話するようにしています!
通勤電車の中で動画編集をしてでも YouTube で発信する理由
- 筒木
- そういえば、YouTube はどういった経緯ではじめたんですか?
- やぎちゃん
- 夢である「アジト」のためですね。
- 筒木
- おお、ここでも「アジト」が……。ブレないですね。
- やぎちゃん
- たくさんの人に私のことを知ってもらうことで、足を運んでくれる人も増えると思って。そこで、一番の趣味である山をテーマに、各地での登山の様子や装備、グルメなどを紹介しようと考えたんです。
- 筒木
- でも、会社員しながら動画をつくるって、めちゃくちゃ大変なのでは? 週に1本の頻度で上げられてますよね。
- やぎちゃん
- 何かの本で読んだんですけど、「何かやろうと思った人が1000人いたら、実際にやってみるのは100人ぐらい、3ヶ月続けられるのはその半分くらい、結局、1年続けられる人は1000人のうち1人」という言葉があって。だったら、1年続けるだけで0.1%になれるじゃないですか!
- 筒木
- いや、確かにそうかもしれませんが……。途中で心が折れることはなかったんですか?
- やぎちゃん
- 精神的には辛くなかったんですが、残業の多い仕事だったので、時間が全然足りないのは悩みでしたね。
朝も夜も通勤電車の中で動画編集して、帰ってきてからまた動画編集して。毎日の睡眠時間が2時間という生活を続けていました。
最終的にどんなにいい「アジト」をつくったとしても、知ってもらえなかったら意味がない。そのためには、自分が発信力を身につけるしかなかったんです。
だからやる、って感じですね。
- 筒木
- 動画編集のスキルはどうやって身につけたんですか?
- やぎちゃん
- とにかく数をこなすこと、に尽きます。
実は、YouTubeをはじめたときは、自分のパソコンを持っていない、SNSもやったことない、というところからのスタートだったんですよ。
でも、どれだけ忙しかろうがどれほど迷走していようが、「必ず週に1本は動画を公開する」って決めたんです。動画をアップし続けて、その反応を見て、動画のサムネイルや長さを改善して。そのサイクルをずっとやってきました。
山頂を目指して一歩一歩、登山のような人生の裏側
- 筒木
- お話を聞いていると、日々ストイックに過ごされていますよね。「やるぞ」と決めて走り続けられるのは、どうしてなんでしょうか。
- やぎちゃん
- もともとが不器用な努力家なんですよね。
運動はそんなに得意ではないけど持久走はすごく頑張れたり、勉強もやれば成績がついてくるから上を目指せたり。
- 筒木
- 山頂がみえるものは、努力して進むことができる。なんだか登山みたいな人生ですね。
- やぎちゃん
- そうですね、猪突猛進ってよく言われます(笑)
ただ、この間受けた健康診断で結果が「C」だったんです。睡眠時間2時間っていう生活を続けていたら、ガタが来たみたいで。
なので最近は「あんまり根詰めるのもよくないかも」って思いはじめてきました。だって、倒れたら終わりじゃないですか。せっかく長野に来て、新鮮な空気をめいっぱい吸えて、美味しい野菜もたくさん食べられる環境になったのに、不摂生しているのはもったいないなって。
- 筒木
- 私もできるだけ日々を機嫌よく暮らすために長野へ移住したのに、最近仕事が忙しくて、睡眠時間を削り、仕事場に引きこもる生活を続けているんですよね……
- やぎちゃん
- 分かります! しんどくても頑張っていればついてくるものもあるし、楽しくなってきますよね。「本当にこれやるのー?」とか言いつつ、ボロボロに頑張ってる自分もけっこう好き、みたいな。
- 筒木
- 結局、やるほうを選んじゃうんですよね。でも、心のどこかでずっと寝ていたいって思うことはないですか?
- やぎちゃん
- 寝たら最後です。週1更新ができなくなっちゃうので。
- 筒木
- とことんストイック! やぎちゃんは、決めた約束をちゃんと守る人ですよね。
- やぎちゃん
- SNS のプロフィールに、土曜夜20時に動画更新って書いているんです。実際、毎回20時に動画を見てくれて、すぐコメントくださる視聴者さんがいる。そういう方の存在がすごく大きいんです。
長野に来て、自分だけの夢が、みんなの夢にもなってきた
- 筒木
- やぎちゃんが自ら選び取ったキャリアや夫婦関係って、なんだか新時代って感じがします。
- やぎちゃん
- 新時代、つくりたい! やり抜いて35歳くらいになったとき、若い子たちがこうなりたいって思ってくれたらいいですよね。
「夢のために少しずつでも続けていれば、全部つながっていくよ」っていう姿が伝われば嬉しいです。
でも、続けるうちに夢のかたちも少し変わってきたんです。
- 筒木
- 夢が変わった?
- やぎちゃん
- 「アジト」をつくることは、最初は個人的な夢でした。でも、地域の作り手の人たちや、想いを持って活動する人たちと出会うことで、「彼らとシンクロしていきたいな」と思うようになったんです。
- 筒木
- ほう……。自分だけの夢でなく、まわりの人も巻き込んだ夢になってきた、ということですか?
- やぎちゃん
- そうですね。移住してから、長野の人たちから「ここにも来てほしい」とか「これをもっといろいろな人に届けたくて、手伝ってほしい」というお話をすごくいただくんです。お話を伺うと、本当に素晴らしい景色があったり、こだわってつくられたものに出会えたりして。
なので、アジトという場や私のできることで、長野の魅力をより多くの人に知らせるお手伝いができたらいいなって思いも芽生えてきたんです。
東京にいたら、絶対もらえなかったお話だと思うんです。だから嬉しくて、その気持ちに応えたい。
- 筒木
- 長野に来たからこそ、やぎちゃんが努力を続けたからこそ、出会えたご縁があるんですね。「アジト計画」は、徐々に実現に近づいているんですか?
- やぎちゃん
- うーん。どうなんですかね。
いま28歳なんですよ。もうすぐ30歳と思うと、そろそろ大きな決心をしないと夢に近づけないな、と感じています。
とはいえ、まだまだ知らないこともたくさんあるし、何ができるのか模索しているところです。結局は、夢に向けて一歩一歩進んでいくだけですね。
これからアジトを構える場所のリサーチや、経営、経理の勉強もしないといけないですし!
- 筒木
- やっぱりエネルギーがすごい……!長野でやぎちゃんがどんな風を起こしていくのか楽しみです。今日はありがとうございました!
取材を終えて
読者のみなさんは「夢」、ありますか。
私はどちらかというと、自分が叶えたい「夢」は特になくて、やりたいことがある人の側でおせっかいを焼きながら流れるままに生きてきた組です。
取材中、「移住するにも転勤っていう、回りくどいやり方をしたのは私が保守的な性格だからなんです」と、ほんわかとした笑顔で語るやぎちゃん。
一見ほかの人からすれば回り道に見えるやり方でも、一歩一歩進んでいけば必ず山頂にたどり着く。やぎちゃんが教えてくれたのは、たしかな歩みの大切さと夢の叶え方でした。
自分の夢を手放さず、できない理由を並べるんじゃなくて、できることを積み重ねていく。そんなやぎちゃんの姿に、「私も人生、頑張ろう」と背中を押されたインタビューでした。(体を壊さないように注意しながら、ですね!)