移住したくなったら

「まちづくり」と向き合う女性3人集結! 自分と、人と、地域との関わり方とは?

「まちづくり」と向き合う女性3人集結! 自分と、人と、地域との関わり方とは?

都心から離れて地方に居住地を置いたり、地方と都心の二拠点居住をしたり、あるいはいくつもの地域を転々としてみたり。

まちとの関わり方は、時代の変化とともに形を変えています。

しかし、どんなに便利な世の中になっても、その土地で「暮らし続ける」ために必要な要素はあまり変わっていないのかもしれません。

今回は、「よりよいまちとの関係性」を考える3人による鼎談をおこないました。

ゲストとして、白馬村村議会議員であり自然派カフェを運営する加藤ソフィーさんと、佐久市と上田市に拠点を置きウェブコンテンツ制作やマーケティングに取り組む株式会社はたらクリエイトCCOの金久美さん。ファシリテーターは、軽井沢町で「診療所と大きな台所があるところ ほっちのロッヂ」を運営する福祉環境設計士の藤岡聡子さんが務めました。

異なる国籍や年齢の人たちが集うなかで、民意を反映する難しさ。大人の働き方を広げる活動。移住者が急増する中で、子育て世代の働きにくさを解消するための取り組み、などなど。

鼎談の中ではさまざまな課題が共有されつつも、まちづくりでなにより大切なのは、立場や肩書きをこえたコミュニケーションをとることだと3人は話します。まちで暮らしながら、まちをもっとよくするために関わっていく。そのヒントがちりばめられたトークレポートは、きっとあなたのヒントにもなるはずです。

参加者プロフィール(写真左から)

金 久美(株式会社はたらクリエイトCCO〈チーフコミュニケーションオフィサー〉)
愛知県名古屋市生まれ。教育現場に7年間身を置いた後、結婚を機に上田市へ移住。2016年株式会社はたらクリエイトに入社し、Webライティングや編集、自社のブランディング・マーケティング、採用などに従事。現在は2022年11月にオープンしたコワーキングスペースのような研究所「Gokalab.」の運営に関わっている。

加藤 ソフィー(白馬村議会議員/自然派喫茶Solオーナー)
フランス生まれ、白馬育ち。オーストラリア留学をきっかけに、多様な食文化や環境問題に興味を持つ。ベジタリアン&オーガニックフードを提供する「自然派喫茶Sol」を経営する傍ら、白馬周辺の農産物や加工品を扱う白馬オーガニックマーケットの運営にも携わる。2021年5月より白馬村議会議員として活動を開始し、有機農業の推進や環境問題を中心に、若者の声を村政へ届けている。

藤岡 聡子(福祉環境設計士)
「老人ホームに老人しかいないって変だ。」24才で創業メンバーとして有料老人ホームを立ち上げ、アーティスト、大学生や子どもたちとともに町に開いた居場所づくりを実践。2015年デンマーク留学、幼児教育から高齢者までの民主主義形成について国会議員らと意見交換を重ね帰国。2016年「長崎二丁目家庭科室」主宰(豊島区椎名町)、2019年より長野県軽井沢町「診療所と大きな台所があるところ ほっちのロッヂ」共同代表。共著に『ケアとまちづくり、ときどきアート(2020中外医学社)』『社会的処方(2020学芸出版社)』

それぞれのまちとの関わり方

藤岡さん
こんにちは、本日ファシリテーターを務めさせていただく藤岡聡子です。2019年に長野県にやってきて4年目、長野県の東の端っこ軽井沢町で、診療所と大きな台所のある拠点「ほっちのロッヂ」をやっています。
さっそく本日のゲストをご紹介しますね。1人目は白馬村の村議会議員、加藤ソフィーさんです。
加藤さん
こんにちは、加藤ソフィーと申します。フランスで生まれてすぐに日本に来て、中学まで白馬村で育ちました。京都の高校に通ったあと、東京、オーストラリアでの暮らしを経て、22歳のときに白馬村に戻ってきました。2018年にオーガニックマーケットの立ち上げメンバーに誘われ、翌年にはソルというカフェをスキー場内にオープン。その後村議会議員になりました。
藤岡さん
よく聞かれる質問だと思いますが、加藤さんはどうして村議会議員になられたんですか?
加藤さん
タイミングときっかけが重なったんですよね。議員って、なろうと思えばなれる職業だと私は思っていて。タイミングさえ合えば、みんなに勧めたいくらいなんです!
藤岡さん
ありがとうございます。いろいろお聞きしたいところですが、先にもう一人のゲストをご紹介させていただきます。株式会社はたらクリエイトのCCO、金久美さんです。
金さん
金久美です。よろしくお願いします。上田市と佐久市にオフィスがある株式会社はたらクリエイトでCCO(チーフコミュニケーションオフィサー)という肩書きで働いています。130人いる従業員はほぼ子育て中の女性でして、女性のデジタル人材を育てて、様々なウェブコンテンツやSNSマーケティングのお仕事をさせてもらっています。
また、御代田町にあるコワーキングスペース「Gokalab.(ゴカラボ)」の運営も行っています。
藤岡さん
ありがとうございます。これからこの3人でお話しさせていただくわけですが、今回のテーマ「続く、まちづくり」って改めていいなぁと思っていて。性差について言うわけではないんですけど、割とまちづくりってメンズが登壇することが多いのが現状ですが、実はウーマンがやっていることもあって。だからこそ、この3人の人選、いいですよねー!
金さん
本当に!私は韓国にルーツを持つ在日コリアン4世なんですけど、今日はまちづくりの話を違ったルーツを持つ3人で話せるので楽しみです。

まちとのつながり方もまちづくりにつながる

藤岡さん
金さんのいるゴカラボは、他のコワーキングスペースとはちょっと違った切り口で運営しているんですよね。
金さん
はい。まず、ゴカラボは「働くが広がる研究所」をコンセプトに掲げています。他のコワーキングと大きく違う点は、施設を利用する会員さんたちにそれぞれ研究テーマを持った「研究員」になってもらうことでして。
藤岡さん
ワークスペースなのに、中学生の子たちが「キンパ(韓国海苔巻き)のつくり方を教えてほしい!」ってゴカラボに来ることもあるんですよね(笑)。
金さん
そうそう(笑)。ゴカラボは子どもから大人まで来られるコワーキングスペース、という側面があるのも大きな特徴ですね。

ゴカラボのある御代田町や隣の軽井沢町、佐久市ってここ最近、教育移住される方がすごく多いんですよね。東京へのアクセスがいいこともひとつの理由ですが、「これからの人生をどれだけ豊かに送っていこうか」と考えている人たちがあえて長野の東側を選んで来ている。
長野で熱を帯びつつある「教育移住」。SuuHaa でも下記のインタビュー取材を行ったことがあります。
金さん
だから「今日、風越学園の授業が早く終わる日だから、子どもを連れて行ってもいいですか?」みたいな状況が結構あるんです。結局「子どもたちをどうみんなで見るか」が大人の働くことを広げることに繋がると思っているんですよね。要は、子どもを預ける場所がなかったり、子どもをみてくれる人がいないから大人が働けない状況がある。

そういった意味もあり、ゴカラボは年代問わず開放していて、0歳児がいる日もあれば、80代のおばあちゃんが1階のカフェにコーヒーを飲みに来てる日もあるんです。
藤岡さん
ゴカラボってJAのATMがすぐ近くにあるからいろんなおじいちゃん、おばあちゃんが来ているイメージがあります。
金さん
JAのATMもありますし、精米所もあります。元々JAの建物だったので今でも「ここで種を買えるのか?」っておじいちゃんたちがはいってきたりして(笑)。
加藤さん
いいですね(笑)。
金さん
誰かが仕事をしている隣で、子どもたちはLEGOで遊んでいる。そんな光景が日常的に見られるんですよね。

どうやって地域と関わり、誰と、どのようにつながっていくのか。それも、大きな視点で見たときの1つのまちづくりの形なんじゃないかな。まちにどう関わっていくのかって、選挙で投票するだけじゃないと思うんです。ゴカラボはいろんな人同士が関われるような場所になりたいですね。

私は外国人なので、選挙権を持っていないんですよね。だから選挙を通したまちづくりには参加できないんです。だけど、それでまちづくりを諦めているかというと、全然そんなことはない。関わり方や関わりしろってたくさんあるんですよ。

選挙だけじゃないまちづくりへの関わり方

藤岡さん
加藤さんは今、Instagramで議員の活動を発信していますが、村の人に限らず 若い人たちへの発信の手ごたえは感じますか?
加藤さん
そうですね。SNSの効果はすごいなって感じています。若い人に限りませんが、村の情報を知りたいときにわざわざホームページから得る人ってほとんどいないと思っていて。私のInstagramのストーリーズを見て「明日これ締め切りなんだ」「今こういうことやってるんだ」と情報を知ってもらっているので、発信してよかったなと思っています。

一方で、あまり硬いことばかり発信していると「おもしろくないからフォローを外そう」となってしまうので、私生活も交えながら、いかに楽しそうに発信するかは気にしています。
藤岡さ
自分よりもずっと年上の人たちと一緒に議員活動を進めるのって、大変じゃないですか?
加藤さん
大変に感じる部分もありますけど、私は日本におじいちゃんおばあちゃんがいないのですごく新鮮で、楽しんでコミュニケーションをとっています。議員活動は、いかに楽しめるかだと思っています。その中で、自分の意見を通していくことはまだまだ研究が必要だなと感じていますね。
藤岡さん
白馬村はオーストラリアの方が多かったり、もうすぐインターナショナルスクールが開校する動きもあったりしますが、加藤さんから見て、若い人や外国籍の方がまちに入っていけるような機運はありますか?
加藤さん
これは私の印象ですが、白馬村ってコミュニティーが細かく分かれてしまっている気がするんですよね。
さっき金さんが選挙権がないとおっしゃってましたけど、同じく選挙権がなく住民票のある外国籍の方は、白馬村に300人ほどいらっしゃるんです。私は306票で議員になったので、それって結構な数なんですよね。そう考えると、選挙権のない方の民意をどう反映させるかってすごい難しい問題だなぁって思っていて。

私がこの2年間、議員でいる間に、外国籍のコミュニティーの方から相談を受けることもありませんでしたし、そもそも皆さん、誰に意見や悩みを言えばいいのかもわからないかもしれません。だからこそ、多世代、多文化の交流する場所の重要性を感じますね。
金さん
多世代という話だと、軽井沢町では、高校生にまちづくりに関わってもらっていた取り組みがありましたよね。
藤岡さん 
そうなんです。2021年の春に、軽井沢町在住の小学生から高校生までの子たちと地元のFM軽井沢と一緒にプロジェクトをやったんです。

それは5、6人のチームを5チームつくって、3ヵ月でそれぞれ30分ずつのラジオ番組をつくるというもの。デートスポットを伝える番組をつくった高校生チームもいれば、「歴史的建造物とジョン・レノン」ってなかなかマニアックなテーマでつくった小学生チームもいて。
藤岡さん
まちをつくるプロセスの中で、10代の子の声ってめっちゃ少ないんですよね。だけどいきなり18歳になったら「大人なんだから自分で意思決定しなさい」みたいな。それはちょっとどうかなって思うんです。小学生から高校生の子たちって本来まちへの考えや思いを持っているんだけど、それを発揮する場所がないんだろうなって思って

他にも、「軽井沢高校の子たちが町長選挙の候補者に質問をする」って試みもしたんです。こうしてみると、彼らの眼差しでまちをちゃんと見ているし、「このまちおもしろいなぁ」「意外といいところあるなぁ」と気づけるんですよね。10代20代の若き人たちにとっても、まちへの関わりしろが増えていくと「自分たちがつくったぞー!」っていう気持ちになれるのかなぁ。

学校を卒業したら一人前とか言う人もいますけど、学校って社会に出る前の土台じゃないんです。彼ら彼女らってすでに社会の一員なんですよね。もっと、10代の声を表現する場所があったらいいなって思うんですよ。
加藤さん
確かに「つづく、まちづくり」ってテーマにも通じますけど、10代の方たちは今、選挙権がない。じゃあ部外者なのかって言ったらそんなことはなくて、絶対にまちづくりには関わっているはずですよね。

肩書きやフィルターを取っ払うこと

金さん
それぞれの領域でのまちづくりの話も聞いてみたいですね。
藤岡さん
「ケアの場としてのまちづくり」って立場から言うと、私はケアをまちづくりの念頭においていないんですよね。人の暮らしのひとつの手段としてケアが存在すると思っていて。人はケアが必要な時と必要じゃない時ってありますから。医者とか看護師が必要だと思ったら対応するでしょうし、しなかったらしなかったでいいんですよ。
藤岡さん
いろんなところでお話させてもらうときに、医者や看護師の人たちに「どうやってまちに飛び出して行けばいいですか?」ってよく聞かれるんですよね。この業界にいると「医療職として」とか「専門職としてこうあらねば」ってフィルターのかかるタイプの人がすごく多い。だけど今、私と一緒に働いている子たちは毎日目線合わせをしている。
金さん
人間って何者かでありたがりますもんね。
加藤さん
確かに私も「議員です」って言うと、みんなフィルターをかけて接すると思うんです。きっとソルをやってる私と、議場の私って多分すごくギャップがあると思うんですよね。

私、議員になってから投票して選ばれて終わりではなくて、選ばれたその先でいろいろ繰り広げられてることを身を持って感じたんです。議員としての活動は本当にまちづくりに直結していて。
加藤さん
今日、私が議員として皆さんに伝えたいのが、皆さんは地方議会に「陳情」する権利があるということ。それは、自分たちが取り上げて欲しい議題を陳情書、つまり意見を上げる文章として声を届ける権利のことなんですけど。

その権利をもっと使って欲しいですね。最初はフォーマットが難しく感じるかもしれませんが、一度やり方さえ覚えてしまえば本当にすぐにできるものです。この誰もが持っている権利をぜひ使って欲しいなっていうのが、今日私が伝えたいメッセージです。
藤岡さん
これは拍手ですね。金さんはどうですか?
金さん
私は、もっと働くことと暮らすことをまとめて話せたらいいなって思っています。たとえば行政って、子育ては子育て支援課や教育課みたいな感じで縦割りになっていて。

でも人の生活って縦割りにはなれないじゃないですか。子育ての問題を考えるのに大人が働く場所がないと移住できないし、子育てもできないし働く場所も必要。それらを横軸でスポーンとまとめて話せたらいいなって。
藤岡さん 
うんうん、行政の人もそうだし、議員の人もきっと同じことを抱えているのかな。ままならない理由もあるかもしれませんが、人間的なコミュニケーションが大切ですよね。
金さん
さまざまな役割の人たちと関わりながら、一緒に方法を考えていきたいですね。
加藤さん
立場を越えてリラックスした状態で話せたり、コミュニケーションをとれるような場が横軸を通すきっかけになりそうです。
金さん
移住された方の話を聞くと「ここが終の住処じゃないと思ってる」って声もあって。これまでのまちづくり会議ってずっと住み続ける感覚で話されていることもありましたが、意識を変える必要もあるのかも。まちづくりをいかに柔軟に届けていけるか。そんなことを問われてくるのかな。
藤岡さん
そうですね。いろんな理由はあれど、その土地に住んでいる時間は最高にいい時間にしていきたい。あらゆる層の人たちが一緒に考えていけると人とまちとのヘルシーな関係性が続くのかな。こんなところで今回は終わりにできたらと思います。