「ホントにやるの?」から熱狂へ。長野オリンピックを振り返る座談会
長野オリンピックから23年。熱狂の裏側を新聞と座談会で振り返ります。
2021.06.08
こんにちは。長野県飯山市在住のくわはらえりこです。私は地元の人間として、『SuuHaa』のオープンを楽しみにしていたひとりでした。そして2021年3月17日、わくわくしながらできたばかりの『SuuHaa』を開き、驚いたんです。
大胆に写真を使った、まるで雑誌の見開きのようなファーストビュー!
移住支援メディアのトップに、詩が載ってる……?
長野ゆかりの動物(と精霊?)を描いたかわいいイラスト(しかも、動く!)
「長野らしさ」をいろんな手法で表現したデザインに心を奪われながら、次に頭に浮かんだのが「こんなに行政っぽくないサイト、どうやってつくったんだろう?」ということでした。
実は私、以前に地元で観光協会の仕事についていて、「行政のなかで新しいチャレンジをする」難しさを感じることも多かったんです。だからこそ、SuuHaaをどんな人たちが、どうやってつくったのかが気になって仕方ありませんでした。
そして、サイトのオープンから1週間後の3月25日。『SuuHaa』立ち上げメンバーによるトークイベントがオンラインで開催されました。県庁と地元新聞社、全国を股にかける編集チームの3社が組んだ座組みや、自由なデザインとコンテンツが実現した理由、そしてローカルメディアの可能性まで……。
『SuuHaa』がいかにして生まれたか、いろんな裏話が飛び出したトークイベントの模様をレポートします!
イベント第一部 登壇者
・松井ミツヒロさん(信濃毎日新聞社)
・布施直樹さん(長野県庁)
・徳谷柿次郎さん(Huuuu代表)
・藤原正賢さん(SuuHaa編集長)
『SuuHaa』の構想が生まれたのは、2019年の秋ごろ。当時の長野県では、「新規就農向け」や「新卒のUIターン向け」など、目的別の移住情報がさまざまな部署から発信されている状態でした。そこで「目的がない人たちの受け皿となるような包括的移住メディアをつくるべきなのでは?」という声が県庁内で挙がり、『SuuHaa』の立ち上げに至りました。
『SuuHaa』では、長野県庁、信濃毎日新聞社、株式会社Huuuuの3社がタッグを組む座組みも特徴的です。長野県が発注元となり、地元メディアの「信濃毎日新聞社」が週1回のペースで長野県のニュース記事を配信。そして全国のローカルを取材する編集チーム「株式会社Huuuu」がオリジナルの記事コンテンツを担当しています。
長野市に移住した3年前から「長野県のメディアをつくりたかった」という、株式会社Huuuu代表の徳谷柿次郎さん。「県庁と一緒に、長野県のメディアをつくれる。そして地元に根付いている新聞社と組むことで、より多くの人たちに広く情報を届けられる。これ以上ない最高の座組みでした」と話します。
「SuuHaa(スーハー)」というメディア名には「長野の空気を深く吸い込む」だけでなく、移住にまつわる情報を空気に見立て、それを深く吸い込むことで次のアクションへ繋げていってほしいという想いも込められています。
そんなメディア名が自然と決まっていったことが、特に印象的だったという信濃毎日新聞社の松井さん。「メディア名を考える会議の際に、柿次郎さんと信毎広告部の社員が同時に『SuuHaa』を提案したんです。これはもう、運命を感じましたね(笑)。ほかにもいろいろな案がたくさん出たなかで、SuuHaaがいいんじゃないか、とみんなの意見が自然と一致してスタートしました」
冒頭でも触れましたが、『SuuHaa』のサイトを見た時に「本当に行政のサイト?」と衝撃を受けた方も多いと思います。
「あえて制作会社の名前を出すこと、わかりづらさを避けるために情報を絞ること、キャッチーなサイトデザイン……。こだわりはたくさんありますが、一番大事にしたのは『行政っぽさ』をなるべく排除することです」と、『SuuHaa』立ち上げを担当した長野県庁の布施さんは語ります。
県庁内でサイト立ち上げが決まったのは、2020年3月。そこから仕様書づくりが半年間かけて行われました。
「仕様書づくりは県庁内だけでなく、長野県のつながり人口(関係人口)の方々と月1回議論しながら進められました。『誰をターゲットにしたサイトをつくるのか』という議論からスタートして、想定読者層を20〜40歳に絞ったり、『移住を決めた人』より『いつか移住をしたい人』をターゲットにしたりすることを決めたんです」と、布施さん。
「つくって終わり」ではないWEBサイト運営方法や「移住したくなる」コンテンツづくりなど、「あるべき移住サイト」のあり方について徹底的に議論したそうです。
今回、行政サイトとしては前例がないことも多く、「リリース間近の調整に苦労が……」と苦笑を浮かべる一面も。「メディア名については、長野県が売りにしている〝空気のよさ〟を全面に出しますよ、と説明しました」と話しながら、布施さんは次のように続けます。
「どうしても行政的には、議会や県民の方々に向けてサイト名も『わかりやすさ』を優先しがちになります。なので『長野の〇〇』『信州の〇〇』のような名前になることが多くて。でも、今回は移住のサイトなので、長野県外の人が対象になります。サイト名についても、わかりやすさよりも思わず移住したくなったり、長野の空気感が伝わったりするような、キャッチーなものにしました」
「行政的にはサイトオープンしてリアクションがあるまで、ドキドキしていました。ホッとしています」と、布施さんは無事に船出を迎えた安堵の笑みを見せてくれました。
「編集者やデザイナーの方たちのイメージをできるだけ実現できるように、他部署や他自治体の似た事例も集めながら、布施さんと県庁内での調整を進めていきました。
『前例がない』となかなかGOが出ない場合でも、実は『前例がない』以外に引っかかっている要素があったりするんです。先方の言葉の背景まで考え、とにかく粘り強くコミュニケーションを取ることで、皆さんが納得できる形を目指しました」と語るのは、SuuHaa編集長に就任した藤原正賢さん。
「地域の課題には、行政だけで取り組もうとしがちです。でも『移住』には明確なゴールがないし、難しい課題なんです。行政だけで解決しようとすると、できることに限界があります。
だから今回は行政と民間の壁を越えて、移住という難しい課題を、いい意味で『一緒に解決する』ためのチームをつくることができました。『発注者』『受注者』というウチとソトの関係性を超えて課題感を共有し、事業者と行政が『どうやったら解決できるのか』を一緒に考えていけたと思っています」
時間も労力もかかったけれど、その思いがあったからこそ『前例ありき』を超えることができたのかもしれない。そんな風に藤原さんは語ってくれました。
こうして半年以上に及んだサイト制作は、「メンバーみんなのモチベーションと協力がなければ形になっていなかった。布施さんも頑張ってくれましたし、編集長である藤原くんの調整力に助けられた」と柿次郎さんは振り返ります。
行政にありがちな「前例ありき」の考え方を乗り越え、どうやって新しいことをやっていくか。長野県としてもSuuHaaは大きなチャレンジだったことが、皆さんの話からは伝わってきました。
第一部で柿次郎さんが語った言葉も印象的でした。
「既存の前例主義や型をはみ出ないと新しいものは生まれない。県のメディアでこんなものがつくれるんだ!とSuuHaaをいい前例として、地元のクリエイターの人たちに適切に仕事をお願いする流れが全国で生まれたら最高ですよね」
SuuHaaの座組みを振り返り、藤原さんもこう話します。
「今回、たまたまテーマが『移住』の切り口だっただけ。環境問題のように、もっとほかの地域の課題も、行政と地元企業やクリエイターで一緒に考えていくことができたら、もっと面白い取り組みが増えていきそうですよね」
SuuHaa誕生の裏には、長野県以外の仲間の存在がありました。それは、神奈川県にある三浦・三崎の観光情報マガジン『gooone』。
ガイドブックには載っていない地元の楽しみ方を発信する『gooone』を手がけるのが、三崎にある夫婦出版社「アタシ社」のミネシンゴさん・三根かよこさん夫妻です。第二部ではおふたりも加わって、地域とローカルメディアの可能性へと話が広がっていきました。
縦写真を使用する見せ方や、個性的なキャラクター中心に作られた『gooone』の印象的なサイトデザインは、ローカルメディア界隈でも話題になったんだとか。
「SuuHaaのプロジェクトが立ち上がったとき、デザインはミネさん夫妻にお願いしたいと思ったんです。地域をまたいで、『SuuHaa』を『gooone』の兄弟サイトみたいにできたら面白いんじゃないかって」と、柿次郎さん。
そんな柿次郎さんからの依頼を、ミネ夫妻は二つ返事でOKしたそう。
「長野県は魅力的。北から南まで超強い!みたいな感じで、元々の素材がよかったからつくりやすかったし、つくっていて楽しかったです。自分も移住するなら長野県がいいなって内心思ったぐらい(笑)」と、三根かよこさんは話します。
サイト制作の過程では、各地域の魅力が薄まらないようにどう表現していくか、また長野県らしいキャラクターをどうつくるか、試行錯誤があったそう。
ミネさんは「ウェブメディアはウェブ上だけで完結せず、アナログな接点を持つことが大事」だと語っていました。掲載に協力してくれたお店には『gooone』のステッカーを貼ってもらったり、アタシ社の事務所兼蔵書室「本と屯」には、『gooone』を見て実際に訪れてくれる人たちが多くいたりするそうです。
「メディアをやっている人間がリアルな場所を持つことで、コミュニケーションが生まれ、関係も広がっていくと思います」と、ミネさん。
「アナログな接点」に関しては、SuuHaaでは「地元新聞」を活かした発信を行っています。たとえば、新聞広告。サイトオープンと同時に、SuuHaaの広告が信濃毎日新聞に掲載されました。
「地域の情報の拡がり方は一番口コミが強いです。特に出身者がUターンを考えたりするきっかけは、親からの一言が大きかったりします。新聞広告を出して、県内の人にも『SuuHaa』を知ってもらい、身近で移住に興味がある人に勧めてもらえたらと思っています」と、藤原さん。
さらに信濃毎日新聞とタッグを組む利点について、次のように言います。
「信濃毎日新聞は、もうすぐ150周年を迎える新聞社です。地域住民はもちろん企業からの信頼も厚いので、SuuHaaを『地域で続くメディア』として一緒につくっていきたいと思っています。また、信濃毎日新聞は2021年9月で通算5万号を迎えるなど、地域の情報のアーカイブが豊富。それもSuuHaaの記事で活かしていきたいですね」
メディアを通じ、まちの景観にデザインが入り込んでいくこと。そして、メディアに関わる人たちがウェブからリアルへ飛び出すことで、さらなる可能性が広がること。
先輩メディアである『gooone』の事例には、『SuuHaa』へのヒントがたくさん詰まっていました。SuuHaaでの今後のウェブ以外の展開にも期待しています!
「SuuHaaは、希望だ……!」
このイベントが終わり、私は真っ先にこう思いました。
長野の面白さを、内側と外側の両方の視点から可視化し、全国に伝えていく。地方に興味を持つ移住者にとっても、そして地元で何かしたいと思っている長野県出身または在住の人たちにとっても、SuuHaaというメディアの存在は、希望の光なのではないでしょうか。
実は私自身、前職では行政と関わる仕事をしており、「行政のシステム上、これは難しいだろう」と新たな挑戦を諦めてしまうことも多くありました。そのため今回の話以上に、SuuHaaを生み出すまでに多くの努力と熱意があったのだろうと思います。
製作陣の想いがたくさん詰まったSuuHaaサイトをご覧いただき、移住へのご興味を持たれた方は、ぜひ資料請求をしてみてください〜!