2022.05.12
2ヶ月で7年分の売上? 経済効果は1137億円? 「善光寺御開帳」のウワサを老舗企業に確かめてみた !
こんにちは、ライターのナカノです。
2022年春、長野市の善光寺で7年に1度のイベント「善光寺御開帳」がはじまりました!
御開帳とは、数え年で7年に1度、善光寺のご本尊(絶対秘仏)の身代わりである前立本尊が公開されるセレモニーのこと。
例年4月から5月末までの2ヵ月間の実施ですが、今回は新型コロナ感染対策により1年間の延期になり、4月3日〜6月29日の3ヵ月の実施という異例のケース!
こちらは、前回の御開帳の様子を取り上げた信濃毎日新聞の記事。
見てください、善光寺の参道に続く仲見世通りを埋め尽くすほどの人!
実は私、ライターをするだけでなく、善光寺から徒歩約10分の場所で雑貨屋「シンカイ」の運営にも関わっているんです。お店をやる身としては、この3ヵ月間は間違いなく稼ぎどき。
しかし、周辺の店主の方々との情報交換会を重ねても、御開帳時の混雑具合や街の様子が全く想像ができない……!
善光寺の周りのお店は「御開帳で7年分儲ける」なんて噂も。
体験したことのない御開帳のヤバさにおののいていましたが、ありがたいことに、善光寺門前エリアでお店を構える大先輩に、御開帳についてお話を伺う機会をいただきました。
門前エリアのなかでも老舗中の老舗!レトロな七味缶でおなじみ、280年以上続く「根元 八幡屋礒五郎(以下、礒五郎)」の9代目・室賀栄助さんです。
お話を伺うなかで感じたのは、御開帳の存在が、善光寺周辺店舗の経済にとって大きな位置づけとなっていること。
7年に一度のセレモニーである御開帳は、街の雰囲気がガラッと変化する大きな分岐点なのだと実感しました。
「御開帳で7年分儲ける」はホント……!?
- ナカノ
- お忙しいなか、ありがとうございます!私も善光寺下で雑貨屋の運営に携わっていまして。今日は御開帳について色々お話を聞かせてください!
- 室賀さん
- はい、なんでも聞いてくださいね!
- ナカノ
- 室賀さん……御開帳で7年分を稼ぐって本当なんですか?
- 室賀さん
- ハハハ!それは言い伝えみたいなものでしょうね(笑)。
- ナカノ
- 言い伝えだった!よかったです、どれだけ忙しくなるんだろうとビビっていました。
- 室賀さん
- でもね、1日の売上は例年の5倍になるんですよ。
- ナカノ
- ええっ!
- 室賀さん
- ただ、私たちの見込みでは、今年は例年よりも参拝客は伸びないんじゃないかって思っているんですよ。
- ナカノ
- ……というと?
- 室賀さん
- 今回の御開帳は、大きなインフラの変化がないんですよね。例えば、2015年(前回)は新幹線の金沢延伸、2009年(前々回)は民主党政権が行った、高速道路の休日上限1000円の政策が御開帳と被っていたんです。
- ナカノ
- へぇ!過去の御開帳がそんなタイミングで行われていたとは。
- 室賀さん
- さらに今は感染症が流行っているでしょう。だから過度に期待はしないほうがいいかな、というのが正直な気持ちなんです。
- ナカノ
- そうはいっても、きっとかなりの人が御開帳の期間中に来ますよね……?
- 室賀さん
- もちろん! うちの店も前回は来客数の見込みが甘くて、品切れした商品がありましたからね。できる限りの対策を練って備えますよ。
- ナカノ
- 私も善光寺近くでお店をやる身として、はじめての御開帳をどう乗り越えたらいいのか不安です……。
- 室賀さん
- はっはっは。そりゃあもう、頑張るしかないですね(笑)。
- ナカノ
- そうですよね(笑)。
- 室賀さん
- ひとつ伝えるとすれば、品切れによるチャンスロスを防ぐこと。それくらいかなぁ。
- ナカノ
- 在庫の補充を心がけます!
- 室賀さん
- 他に変化と言えば、3年前までは売上の6割を占めていた卸販売が、今や8割近くになっていて。今年は特に、長野市内のコンビニでうちの商品を取り扱っていただくようにもなったんです。
- ナカノ
- たしかに、長野駅周辺のコンビニでも八幡屋礒五郎の商品が大きく取り扱われているのを見かけました。
- 室賀さん
- コンビニの御開帳へのやる気は、前回よりも感じますね(笑)。あと、御開帳は売上目標を考えるひとつの軸になると思っています。
- ナカノ
- それはどうしてですか?
- 室賀さん
- 御開帳の翌年は、当然売上がガクッと下がるんです。だから、弊社では「翌々年は御開帳の年を上回る売上をつくろう」と計画を立てているんです。
- ナカノ
- なるほど!「より高みを目指していこうぜ!」ってことですね。
- 室賀さん
- ええ! 御開帳によって全国から参拝客が来ることで、うちの商品も全国に出回るでしょう。その際に「あの商品また欲しいな」と感じてもらい、地元のスーパーやお店で「礒五郎の七味はないの?」と言っていただける存在になれたら最高じゃないですか!そんな流れをつくることが我々の目標ですね。
- ナカノ
- 礒五郎さんの七味を全国の食卓に! ちなみに、御開帳にあわせて「今後、善光寺周辺がこうなったらいいな」という思いはありますか?
- 室賀さん
- 交通対策がよりよくなったら、もっと観光しやすくなるんじゃないかな。たとえば路線バスのルートや、道路の整備。善光寺は観光地ですから、やっぱり歩行者が安心して歩けることが大切ですよね。
総合的なお土産屋さんから専門店へと、変わりつつある街並み
- ナカノ
- 今回の御開帳に向けて、礒五郎さんは他に新たな試みや変化はありますか?
- 室賀さん
- 実は今回、改修を行いましてね。我々の店舗も御開帳のタイミングに合わせてアップデートしています。前々回の御開帳の1年前、2008年に店舗を建て替え。さらに、前回の御開帳時にはこの「横町カフェ」をつくったんです。
- ナカノ
- 前に訪れたときと店の雰囲気が変わった気がしました。今回はどこを改修したんですか?
- 室賀さん
- まず、今回の改修では七味の調合スペースを2ヵ所に増やしました。
- ナカノ
- 本当だ! 個人的にもお店には足を運んでいるんですが、スペースが広くなっていますね。
- 室賀さん
- カフェにセルフレジも導入したんですよ。キャッシュレスで支払ってくださる方が増えていることも、前回の御開帳時と比べて大きな変化ですね。
- ナカノ
- なるほど!
- 室賀さん
- 元々店舗側にあったジェラートの販売もカフェに移動させて、いかにお客様を待たせずご案内できるかを考えて動線を確保しました。
- ナカノ
- 徹底的に効率化を図っているんですね。
- 室賀さん
- それぐらい、御開帳では多くの方がいらっしゃいますから。現場でも、御開帳を経験したスタッフが後輩に「前回の人出はすごかったんだよ!」なんて話している姿もあるそうで。そうはいっても過度に身構えず、我々が今できる準備を進めて御開帳に備えていますよ。
- ナカノ
- 私は、長野市に住んでから初めて迎える御開帳なのですが、既にお祭りムードを強く感じていて。室賀さんの幼い頃から、御開帳期間中は人がたくさん来て盛りあがっていたのですか?
- 室賀さん
- いえいえ!今みたいな雰囲気になったのは本当にここ20年くらいですね。
- ナカノ
- え!最近の出来事なんですね。
- 室賀さん
- 御開帳自体、かつては不定期開催だったんですよ。江戸時代は「出開帳」といって、火事による修繕費をまかなうために、全国各地で前立本尊の公開をしていたのだとか。
- ナカノ
- 今で言うクラウドファンディングみたいな取り組みですね……!室賀さんは仲見世通りを長年見てきて、周りのお店や街の変化は感じますか?
- 室賀さん
- ここ数年で、総合的なお土産屋さんよりも専門店が増えましたね。
- ナカノ
- あ、たしかにわらび餅の専門店や芋のお菓子の専門店ができましたよね。
- 室賀さん
- 新規に開業される方も街並みには気をつかわれているので、門前エリアの雰囲気にあった落ち着いたトーンの店構えをされている印象です。
- ナカノ
- でも、よく見るとガラッと業種は変わっていると。
- 室賀さん
- そうですね。若年層のお客様は、総合的なお土産屋さんよりも専門店を求めているのかも知れません。観光客が増えていることもあり、今後も専門店が増える流れは続いていくんじゃないかなぁ。
- ナカノ
- ちなみに、今年の御開帳はイレギュラーですよね。例年よりも期間が長いし、1年延期もしました。
- 室賀さん
- そうそう。御開帳期間の混雑予想を善光寺の事務局でつくってくださっているんだけど、6月までやったことがないから「この混雑予想は、あくまで予想に過ぎないですから……」って言っててね。
- ナカノ
- 6月は未知の領域!
団体旅行から個人旅行へ。街だけでなく参拝客にも変化が
- 室賀さん
- そうそう、こうやって長年ここで商売をしていると、善光寺の参拝客にも変化が現れているのがよくわかるんです。
- ナカノ
- へえ! どんな変化ですか?
- 室賀さん
- 団体の参拝客がかなり少なくなったように感じます。昔は善光寺の参拝客といえば善光寺講(全国にある善光寺信仰の団体)がメイン。それが今では、家族連れや友人グループが大半を占めている。
- ナカノ
- 少子高齢化の影響ですか……?
- 室賀さん
- うーん、それもありますが、やっぱり信仰の変化が大きいんじゃないかな。
- ナカノ
- お寺が身近なものではなくなったということですか?
- 室賀さん
- そうですね。それから、昔よりも行き先の決められたツアー旅行が好まれなくなったこともあるかもしれませんね。特に若い方は、自分たちでプランを立てて行きたい所に行くでしょう。
- ナカノ
- たしかに、私もお店に立っていて個人旅行で訪れているお客さんが多い印象があります。
- ナカノ
- 参拝客の構成が変わってきたとはいえ、今でも善光寺の御開帳に人が集まるのはどうしてなんでしょう?
- 室賀さん
- やっぱり、数年に一度行うセレモニーって魅力的なんでしょうね。たとえば、伊勢神宮は20年に1度「式年遷宮」という儀式を行っていますが、その年は善光寺の参拝客が減ってしまったみたいですよ。
- ナカノ
- たしかに、20年に1度ならより一層行かなきゃいけない気持ちになりますね(笑)。
- 室賀さん
- それに、善光寺のご本尊は絶対秘仏。その身代わりである前立本尊でさえ、御開帳じゃないと拝むことができませんから。人前には決して現れないからこそ、よけいに訪れてみたくなるのかもしれませんね。
- ナカノ
- 特別感がより人々を惹きつけるんですね!
最後に
室賀さんのお話を伺ったあと、改めて善光寺門前の街並みを見渡してみると、1ヵ月前には見かけなかったお店もちらほら。前回の御開帳時に来訪して以来、久しぶりに訪れる方は、間違いなく街の変化に驚くはずです。
そして、御開帳の訪問時には「八幡屋礒五郎」にもぜひ!
室賀さんからも、最後に
「前回の御開帳にはなかった商品も取り揃えているので、ぜひ来て楽しんでいただけたら嬉しいですね。調合スペースが広くなり、カフェがリニューアルしたりと盛りだくさんですので、ぜひお越しください!」
とコメントをいただいています。
長野市のシンボルである、善光寺。
7年に1度、この街が大幅にアップデートされる様子は、まさに「御開帳経済」がもたらす変化なのでしょう。