移住したくなったら

「人手が足りないんです!」ビジネス拡大が止まらない、地方メーカー企業の最新事情

「人手が足りないんです!」ビジネス拡大が止まらない、地方メーカー企業の最新事情
提供: 理化学研究所

こんにちは。長野県の新鮮な空気を送り届けるメディアSuuHaaです。

……が、今回は突然メカニックな画像から失礼します。

みなさん、世界No.1のスーパーコンピュータ「富岳」をご存知でしょうか?

米国・中国が2強と呼ばれる高速コンピュータの世界で、熾烈な開発競争を勝ち抜き、日本製がトップに立っている。オリンピック金メダルのような存在です。

実は、この世界一のスーパーコンピュータ「富岳」の重要部品であるプリント基板をつくる会社が、長野市にあります。

今回、取材したのは「FICT株式会社」さん。

長野市郊外に本社を構え、従業員数は800名を超える企業なんだとか。
ここでスパコンの重要部品が生まれているわけですが、「プリント基板をつくる仕事」と聞いてもいまいちピンと来ない……。

そこで!
今回はFICT株式会社さんにお邪魔し、詳しくお話を聞いてきました。

ちなみに、今回の取材ではこんな裏話が明らかに……!

・長野県には精密機器や電子部品メーカーが多い
・その理由は「水資源」と関東からの距離、そして生糸の歴史にある
・FICTはローカル企業でありながら、世界中から依頼がたくさん来る
・FICTには元警察官や元消防士、元美容師など、多様性豊かな人が集まる

グローバルな仕事をローカルで手がけるメーカー企業。「地方への転職はハードルが高いな……」と思っている方に、ぜひ読んでもらいたいお話が聞けました!

世界一のプリント基板を目指す

話を聞いた人
村田総一郎(写真左):神奈川県藤沢市出身。約10年前から長野本社に転勤、長野の魅力にとりつかれる。360度、山に囲まれた長野生活を謳歌してます。

本岡直人(写真右):長野市に移住して20年。プリント基板一筋30年、現在は新商品の開発に従事。週末はゴルフ, 釣り, スキー等、長野の自然を満喫中。
石田
本日はお時間ありがとうございます。大変失礼ながら、FICTがどんなことをしている会社なのか、イマイチ理解できていません。そもそもスーパーコンピュータって何に使われるんでしょうか?
本岡さん
最近はニュースで、咳をすると新型コロナウイルスがどのように飛散するか分かる、シミュレーション映像を見ますよね。あの映像って、普通のコンピュータでつくると結果が出るまでに何日もかかるんです。
参考動画
本岡さん
スーパーコンピュータは演算能力がものすごく高い。なので、普通のコンピュータでは1ヶ月かかっていたシミュレーションでも、すぐに答えを出してくれるんです。新薬や素材の開発、車のデザイン、人工知能(AI)への応用、地震の被害や気候変動の計算、台風の進路の予測などにも使用されます。

FICTでつくっているのは、こうしたコンピュータの「プリント基板」です。これはいろんな部品を載せる土台で、部品同士をつなぐ役割を担っています。基板の上に、さらに部品を組み合わせて装着することで、色々な製品がつくれるわけです。
実際のプリント基板。スーパーコンピュータ「富岳」ではこの10倍以上の大きさの基板が、約8万枚も使われている
石田
たしかに、私たちが使うパソコンとは用途が全然違いますよね。スーパーコンピュータ「富岳」は今や世界的にも有名ですが、こうした国内からの仕事だけではなく、海外からの依頼も多いんでしょうか?
本岡さん
そうですね。やはり、日本は大きく、かつ繊細な製品をつくる技術力が高いと評判です。世界中から依頼のお声がかかっている状況ですね。
石田
先ほど、人事の方から「人手が足りなくて困ってるんです」とこっそり耳打ちされたのですが、もしかして注文が殺到して手が回らない状況だったり……?
村田さん
実は…その通りです(笑)。
村田さん
正直、いまFICTは世界に打って出るタイミングなんです。
石田
世界に打って出る?
村田さん
みんな、巣ごもり消費でインターネット上で仕事や買い物を完結させますよね。すると、GAFAのようなビックデータを扱う企業は、たくさんのサーバーセンターが必要になります。そこで、サーバー用の基板の需要が急伸しているんです。

しかも、コロナ禍によって世界中で同じ現象が起きているから、我々の業界は右肩上がりの急カーブ。どんどんつくりたくて仕方がないのに、人が全然足りないんですよ。
石田
久しぶりに景気のいい話を聞いた気がします(笑)。長野というローカルに居ながら、グローバルな仕事を手がけている。魅力的な話ですね。
本岡さん
はい。私もそう感じていますし、事業成長に採用が追いつくよう、採用には日々頭を悩ませていますね。

なぜ長野に? 「長野×製造業」の歴史と謎を紐解く

石田
世界一のプリント基板の会社を目指して、新しい仲間をどんどん迎え入れていく。まるで東京のベンチャー企業のような話ですが、もともとFICTは富士通のグループ会社だったんですよね?
本岡さん
そうです。川崎で創業して、長野に移転してきたのは50年ほど前ですね。そこからしばらくは富士通100%の子会社でしたが、2020年に富士通の資本比率は20%になりました。現在は、ほとんど富士通からは独立した会社です。
石田
長野に工場が移転したのは、50年前のことだったんですね。その理由はなんだったんですか?
本岡さん
昔のことなので、正確には分からないんですよね……。私が子どもだった頃の話なので。
「どうしてだったのかな……」と、はにかむ本岡さん。
石田
失礼しました(笑)。ただ、スーパーコンピュータと聞くと、最先端のハイテクな印象を受けるのですが、長野県は世間一般では自然が多い地域と思われていますよね。このイメージのギャップはどこから生まれているのか、疑問を覚えたんです。
村田さん
推測にはなりますが、川崎から長野に工場が移転した大きな理由のひとつは、「労働力が豊富だったから」だと思います。要するに、働き手の若者が長野にたくさんいたんですね。あとは、関東圏に近くて行き来しやすかったのかなと。

ただし、それだけでは長野である必要はないですよね。私は、豊富な「水資源」が重要だったのでは、と考えているんです。プリント基板をつくる工場は、大量の水を使うんですよ。
本岡さん
たしかに、長野に住んで20年になりますが、水不足って聞いたことがないですよね。冬に積もった雪解け水で、夏までずっと豊かな川が流れていますし。また、昔の工場機械は防塵性能が低くて壊れやすかったので、「空気が綺麗なこと」も長野の魅力だったかもしれない。
FICTの本社からは長野の雄大な景色が見える
村田さん
あと、長野でのビジネスを語る上で外せないのが「生糸」ですね。繊維関係など、昔から軽工業が盛んだったんです。だから、インフラがすでに整備されていたのかもしれないですね。
石田
長野は諏訪創業のプリント機器メーカーEPSONや、時計・腕時計のSEIKO、2014年にSONYから独立したPCメーカーVAIOなど、精密機器関連のメーカーがたくさんありますよね。
村田さん
あと、意外と長野県には電子部品をつくっている会社が多くて、お互いに連携しながら製品をつくっているんです。FICTもそのひとつ…ということですね。
本岡さん
あと、電子部品が栄えている理由のひとつが、海がないことだと思うんですよ。大型機器は船がないと輸送できないので、海沿いに工場が集中します。しかし、電子部品は小さいので、陸路でも十分輸送できる。だから電子部品の会社が集まっている……というのが私の見解です。

「移住して働く」視点から見た長野

石田
昔から長野には電子部品や精密機械のメーカーが多かったとのことですが、エンジニアや研究者にとっては仕事に没頭できるいい環境なんでしょうか?
本岡さん
おっしゃる通りです。没頭できるとはつまり、安心安全で良質な生活を低コストで送れるということですね。住宅環境や自然環境をここまで整えるのは、東京では難しいと思います。
村田さん
あと、私は四季の移り変わりを感じやすいことも、住みやすい要因だと思っています。昔、京都に住んでいた時期があったのですが、それと近しくて。京都は四季折々の行事が多い土地ですが、長野も、本社の近くで言えば善光寺を中心に、春夏秋冬のイベントがたくさんあるんです。一年の流れを、常に感じられる。
石田
なるほど。特に研究者やエンジニアは、工場の中で日々黙々と研究に打ち込んでいますもんね。だからこそ、ふとした瞬間に四季を感じられることが重要だと。
村田さん
そうです。東京のベッドタウンと大きく違うのはそこですね。
石田
いま、採用に力を入れているというお話でしたが、きっと家族で移住することになる方も多いと思うんです。長野のどういった部分におふたりが魅力を感じているか、もう少しお聞きしても良いですか?
本岡さん
やはり、子育てする環境としては抜群に良いですね。また、FICTのアピールをさせていただくと、長野というローカルにいながらも、世界最先端の仕事ができます。あとは、我々がもともと富士通の子会社ということもあり、福利厚生や給与水準も平均以上に高いんです。
村田さん
長野の魅力かぁ。あの、突然なんですが、ひとつ SuuHaa にモノ申してもいいですか?
突然、SuuHaaへのフィードバックを始める村田さん。
石田
え! なんでしょう?
村田さん
SuuHaaは、私たちも知らない長野の情報を深堀りしていて、素晴らしいと思うんです。ただ、取り扱っているテーマが一般人の感覚から離れていてニッチすぎませんか……?
石田
なるほど(笑)。SuuHaa は、長野の魅力をいろいろな切り口で紹介していきたいと思っているのですが、たしかに、マニアックな記事も並んでいますね。
本岡さん
長野に移住したい人って、分かりやすい長野の魅力も知りたいと思うんです。たとえば、

「冬はスキーができる!」
「夏はキャンプに行けるし山も登れる!」
「疲れてリフレッシュしたいと思ったら、すぐに温泉に入れる!」
「いま挙げた場所、ぜんぶ車で30分以内で行ける!」


などなど(笑)。

だから、我々は長野を紹介するときにはこんなスライドを見せています。
石田
分かりやすいですね!会社説明を聞いて、長野に住みたくなる人が出てきそう。
村田さん
実は、富士通からスピンアウトした別の子会社が、富士山麓にオフィスを構えたことがあったんです。そのとき、すごく社内会議で揉めたらしいんです。「そんな辺鄙な場所、誰も行きたがらない!」「採用できなくなるじゃないか!」と。

でも、いざオフィスを移転したら、アウトドア好きの人がたくさん応募してきたらしくて(笑)。仕事をしながら、アウトドアなレジャーをいつでも楽しめる。そのプラスアルファを魅力に感じる人は多いんですよね。

だから、私たちも「住環境が良くて、レジャーにも恵まれている」「仕事も、世界最先端の面白いことをやっている」といった魅力を伝えたいと思っています。

世の中のためになることをやれる

石田
先ほど、採用を拡大中と話していましたが、プリント基板はBtoBビジネスなので、なかなか知名度が広がりづらいですよね。応募する方は、そもそもどうやってFICTのことを知るのでしょうか?
本岡さん
「スーパーコンピュータ「富岳」の会社ですよね」と、そこで知って応募してくる方が多いですね。あと、採用担当をしていてよく耳にするのが、「物づくりを通して社会貢献したい」という言葉です。

私たち自身も、スーパーコンピュータ「富岳」など、自分たちの製品が世の中の役に立っていることを強く感じています。また、FICT自身もいま、SDGsなど企業のサスティナビリティを意識して取り組んでいるんです。
石田
具体的にはどんな取り組みをされてるんですか?
村田さん
たとえば、「RBA(※)」という安全衛生・人権・環境・倫理に関する監査で、なんと200点満点を取ってます。
(※ Responsible Business alliance の略)
石田
なるほど! ……それは、すごいことなんですか?
村田さん
なかなか聞きなれない単語ですよね(笑)。RBAは、電子部品業界が多く加入しているグローバルな機関です。グローバルなサプライチェーンの中で、人権問題や、環境問題の発生等の企業活動に問題がないかRBAに監査してもらうんです。

この監査で満点を取り、RBA Platinum というステータスを弊社は持っています。これを持っている企業は、例えば2020年の実績で言うと世界で8%しか取得していないんです。審査は結構厳しくて、審査の過程で働いている社員一人ひとりに抜き打ちインタビューをするんです。「労働時間は守られていますか」といった質問をしていくわけですね。これを末端からトップまで全員聞かれて、満点を取れる企業は珍しいんです。
石田
それはすごい。社員の方々が不満なく活躍している、働きやすい環境ということですね。
本岡さん
「人権配慮」と言えば大げさですが、働く人たちが安定的に仕事をして、幸せに家族と生活できる基板をしっかり整えているだけです。人に役に立つものをつくれている実感があるので、私もすごく満足して働けていますね。
石田
最後に、いまFICTではどんな人を採用しているのか、お聞きしてもよいでしょうか?
村田さん
会社が拡大期のため、前例や今までに経験がないことに挑戦する機会が増えています。だから、「失敗してもいいからチャレンジしたい」と考える人には合うと思いますね。人材も、オペレーターとエンジニアを中心に、あらゆる職種で人を募集しています。

また、結構ニッチな世界なので、未経験の方も採用しています。この1年で入社した人たちのバックグラウンドも、千差万別です。元警察官や元消防士、元美容師など、さまざまな人がいます。ただし注意点としては、スキルを身に付けるのに時間がかかる世界なので、10年単位の長い時間軸で働く覚悟がないと、中途半端になってしまうかもしれません。

日本全国から多様性豊かな人たちが集まっており、長野に移住して子育てをしたかったり、社会に役立つものづくりに挑戦したかったりする人には、ピッタリの環境です。ぜひ、気になった方は門戸を叩いてみてくださいね。
最後に、本岡さんが工場の仕組みを手取り足取り優しく教えてくれました。
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