移住したくなったら

建物で街に個性を宿す。松本のまちづくりを支える会社が培ってきた覚悟とこだわり

建物で街に個性を宿す。松本のまちづくりを支える会社が培ってきた覚悟とこだわり

こんにちは。ライターの小林です。

僕の出身は、長野県松本市。国宝・松本城が有名ですが、街のランドマークはそれだけではありません。たとえば、松本市出身のアーティスト・草間彌生さんのデザインが目を引く「松本市美術館」。

さらに、以前SuuHaaでも取り上げた「松本十帖」も、2022年7月にグランドオープンを迎え、注目を集めています。

ほかにも、僕が地元に帰るたび、東京の大人気カフェが出店していたり、若者が活躍する新たなコワーキングスペースが生まれていたり、気になるスポットがこの街に続々と生まれています。

……と、ここまで紹介してきた人気スポットの誕生には、とある地元企業が関わっているんです。それが「株式会社アスピア」。

街のランドマークになる商業施設をはじめ、安心な暮らしを守る土木・インフラ、学校や幼稚園といった教育施設、企業のオフィスやカフェなどのショップ、さらには個人の住宅に至るまで、建築物に関わるあらゆる事業を行っています。

今回お話を伺ったのは、代表取締役の百瀬社長。

実は、僕とは中学時代の同級生であり、同じバレーボール部でいっしょに汗を流した仲。インタビューも和気あいあいとした雰囲気で行いました。

街づくりへの携わり方、その想いについてお話を聞いたのでぜひご覧ください。 

”建てる”を活かして、街をつくる

小林
美術館や学校、幼稚園、病院、オフィス、ショップ、住宅……アスピアって、いろいろな建物をつくっているよね。しかも聞くところによると、施工だけでなく、設計デザインや不動産屋、ときにはコンサル的な動きもしてるとか。一体「何の会社」って言ったらいいんだろう?
百瀬さん
たしかに、うちの会社はひとことで言うのが難しいかもね。建物の種類も、遊ぶ・働く・住む・学ぶ・憩う……あらゆるシチュエーションに該当するから。人が何かをする空間であれば、なんでも建てられると思う。強いていうなら、“建てる”を活かした「街をつくる会社」かな。
小林
そういえば、オフィスのエントランスに「Make a Town」と書かれた看板があったのを思い出した。直訳すると、まさに「街をつくる」だよね。
百瀬さん
よく見つけたね。あれは2017年頃から掲げている看板なんだよ。僕が東京からUターンして先代から会社を引き継いで「何のために会社づくりをすればいいんだろう」と思ったとき、頭に浮かんだのが、この街で生きる子どもたちのことだった。

その子たちが街に愛着を持って、「大きくなっても、ここで働きたい・生きていきたい」と思ってもらう街づくりをしよう……そんな想いを込めたんだよね。
小林
なるほど。デザインも、子どもたちにとって親しみやすそうでいいね。
百瀬さん
子どもたちに街づくりをテーマにした絵画コンクールの企画を行ったこともあって。その絵を、施工中の工事現場のシートとして貼り出すこともしたんだ。
小林
子どもたちにとってみたら、自分の絵が街に貼り出されることになる、と。
百瀬さん
そう。子どもたち自身も「松本の街に少しでも関わることができた」という実感を持つこともできるし、建物が完成した後も「自分の絵を飾ってくれていた場所に建った店」といった記憶が残る。そうして、街に愛着が湧いていくと思っているんだ。
小林
まさに、”建てる”を活かした「街をつくる会社」。
百瀬さん
完成したものを引き渡すだけが仕事ではないからね。建物を建てるプロセスでも街づくりができないか、いつも意識している
地域社会への視点は、企業理念や経営姿勢としても明文化されている。

かたちのないものを具現化していく建築の仕事の価値


小林
松本市美術館や松本十帖など、街のランドマークになる建物もいくつも手掛けているよね。どうして、そのような依頼が集まるんだろう?
百瀬さん
それは、提案力と技術力の高さかな。お客様の理想を汲み取って、ほぼ叶えてしまうことができるから。
小林
す、すごい自信……!
百瀬さん
松本十帖さんをはじめ、最近は個性的なデザインだったり、既存施設を生かすリノベーション建築が増えていて、これらは非常に難易度が高いんだけど、アスピアのメンバーだったらかたちにすることができる。
小林
お客様の高い要求に応え続けていた結果だと。
百瀬さん
そう。高い要求水準を満たすには、どんな資材をどう使うか、デザイン性を活かしつつどう安全性を担保するかなど、事細かに考えなければならないことがたくさんある。だけど、そういった難易度の高いお題に挑戦していくことが重要だと思っていて。
百瀬さん
難しい要望にもひとつひとつかたちにしていくことで、信頼が集まるし、期待も高まる。そうなると「これはアスピアしかいない」と自然と選ばれる企業になっていくのかなと思うんだよね。
小林
でも、実際難しいことって、面倒だったり、リスクがあったりするじゃん。なんで、そのハードルを越えてまで挑戦しようとするの?
百瀬さん
先代である僕の父の教えでもあるんだけど、常に変わっていかないと生存できないという想いはあるんだよね。アスピアは創業して60年を超えるけれど、変わることを恐れずにここまでやってきた。そして楽な道ではなく困難な道を選択してきたと思っていて。特に不動産・建設の分野は差が付きにくい業界。だからこそ、「ほかの会社ができないことをやる、新しいことをやる」は、合理的な選択肢になるはず。
小林
あえてリスクをとっていくことで、差別化していく。
百瀬さん
もちろん守らなきゃいけないラインもあるし、失敗が許されないこともある。だけど、業界的にも、もっともっと変えていくべき余地はたくさん残されていると思っているんだよね。

アスピアは、その先陣を切っていく存在になりたい。最初は「あの会社、浮いているな」と思われてもいい。みんなに認めてもらえるように工夫し続ければいいだけの話だから。
小林
ただでさえ、建築って時間も、労力も、お金もかかるし、大変なことじゃん。そこで、さらにハードな道を選ぶという……!
百瀬さん
かたちのないものを具現化していく、この仕事に僕は誇りを持っている。たしかに大変だけど、とてもおもしろいし、かっこいい仕事なんだよ。世の中からはいわゆる3K(きつい・きたない・危険)だなんて言われているけど、そんなイメージを壊したい。
百瀬さん
「ゼロからかっこいい建物をつくりあげられる」って事実が、すでにめちゃくちゃ凄いこと。素敵な建物をかたちにし続けることで、業界ごと盛り上げていければいいよね。

個性豊かな店が集まる街・松本が続いていくために

小林
ところで、僕たちが生まれ育った松本の街に対しては、どんなイメージがある?
百瀬さん
コンパクトでいいよね。街中を歩いてまわることができる。おもしろいお店が増えてきているし、落ち着いた雰囲気もとても気に入っているかな。自分の子どもにも、こんな松本の姿を残せたらいいなぁ。
小林
この松本の街並みを残すために、何かこだわっていることはある?
百瀬さん
素敵な感性を持っていたり、おもしろいことをしたいと考えている人たちが、一歩踏み出せる舞台を一緒につくることかな。たとえば、「この方は素敵だな」と感じた東京の事業者がいたら、わざわざ都内に会いに行って、松本での出店を提案・サポートすることもある。
小林
そんなところまで…!
百瀬さん
東京に限らず、必要とされればどこまでも飛んでいくよ。
松本って素敵な個人店が多い街だと言われているよね。その文化をサポートすることができたらいいなと考えているんだ。そうすれば、街並みも守られるし、「訪れたい」「暮らしたい」といった市外の人も増えると思うから。
小林
たしかに松本には、どんどんおしゃれな個人店が増えている気がする。街の雰囲気も洗練されてきているというか。
百瀬さん
そこで良い連鎖が生まれたらいいよね。豊かな街の雰囲気に共感して移住する。そこで自分たちも商いをする。その営みが、また街の雰囲気を高めて新たな移住者を呼ぶ……。

人口が減っている今、どの地域でも移住者の争奪戦になっている気がするけれど、ただ単に人が集まればいいわけではない。自分がやりたいことができる環境があって、そこで実際に仕事や暮らしを営む。その結果として人口が増えないと、街並みは守れないと思う。

地域に求められる・愛される建物をかたちにする

小林
あくまで松本の街並みや個性を守る存在でありたいと。でも、ちょっとうがった見方をすると、建設・住宅会社としては、大型マンションとかを建てた方が利益に繋がりそうな気もしているんだけど……。
百瀬さん
当然、利益は会社として必要だけど、アスピアがいちばん求めているのは、そこじゃない。僕たちは「地域のために何ができるのか」「何を必要とされているのか」を常に考えている。

せっかく建てるなら、できるだけ街に良い影響を与える建物をつくりたいんだよね。
小林
街への影響のよしあしって、どのように判断しているの?
百瀬さん
「地域の人たちに求められているか、建てているときに応援されそうか」だね。僕たちは土地を仕入れたら、まず地域の人たちに「この場所に何があったらうれしいか」をヒアリングする。たとえば、それはおしゃれな商業施設かもしれないし、はたまたコンビニかもしれない。地域の人に必要とされたり、愛されたりするかどうかは特に重視しているんだ。
小林
とにかく地域の人たちの声に耳を傾ける。
百瀬さん
しかも、ただ建てればいいのではなくて。建設や不動産にまつわる法律やルールって、お施主様の想像以上に、はるかに複雑で細かく定義されている。実際に「この場所でお店をやろうと思ったけれど、法律の制限があってできなかった!」なんてこともあるんだよね。

そういったことがないようにお客様の要望には、しっかり向き合う。「どうやってルールに収めるか」「どうやってコストパフォーマンスを高めていくか」「どうやって理想を現実のかたちにデザインするか」……そうしたことを踏まえた上で、作り手のプライドにかけて、長く愛され続けるものを創っていくんだ。

ありがたいことに、手掛けた作品たちは地域の方はもちろん、県内外の方にも評価いただけることが増えてきた。それは何より社員の努力の賜物。彼ら・彼女らが誇りを持って働けるように、これからも僕はこの仕事の価値を伝え続けていくつもりなんだ。

どんな人にもきっと何かひとつは「やりたいこと」があるはず。

それは、自分のお店を持つことかもしれない、素敵なショップを見てまわることかもしれない、家族と豊かな時間を過ごすことかもしれない。

そんな人々の「やりたいこと」に、建物という舞台を提供することで実現させていく。

アスピアが取り組んでいるのは、そんな街づくりなのだと思います。

みなさんが信州を訪れた際、心惹かれる建物に出会うこともあるでしょう。それらは、もしかしたらアスピアが手掛けているのかもしれません。

*施工実績については、ホームページやinstagramをご覧ください。


撮影:五味貴志
編集:飯田光平